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水晶の令嬢 〜転生者から持ち込まれた悪役令嬢という概念に翻弄された話〜  作者: ゆずさくら


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死体爆弾

 ユウトは北の空に、投げ出されたゴブリンの死体を見つけた。

「逃げろ!」

 少し前までユウトがいた場所に、足や腕がへし曲がったゴブリンの死体が落下してきた。

 逃げ損ねた兵士が、その死体の下敷きになる。

「ゴブリン達特有の攻撃です!」

 人がスリング・ショットで加熱した石炭や岩を砲弾として使うのに対し、ゴブリン達は死んだゴブリンを弾として使うことがある。

 人にとってゴブリンの血が『毒』だということや、死体に対しての概念が人とは相いれない考え方だからだ。

 ゴブリンにとって、同胞の死体は資源なのだ。

 十分に乾かして燃料にするし、毒の追加効果が発生すると思えば、砲弾代わりに利用する。

 ドラゴンの落下の下敷きで死んだもの、ブレスで焼け死んだもの。

 ゴブリンにとって、スリング・ショット用の弾がそこらじゅうに転がっているのと同じだ。

 ユウト達の部隊が走って距離を取ると、ゴブリンの死体は手前に落ちるようになってきた。

「油断するな」

 そう言ってユウトは剣を抜いていた。

 死体が飛んでこなくなると、迫ってくる足音が聞こえ始めた。

「ユウト様、見えない、前が見えなくなりました」

 そう言いつつも、その兵士は目を見開いている。

「どうした! しっかりしろ」

 ユウトがその兵士に近づこうとすると、別の兵士が止める。

「触ってはダメです。見てください」

 目が見えないと騒いでいる兵は、顔や体に黒い液体がついていた。

「ゴブリンの血を浴びてしまっています」

「嘘だ! 血なんて浴びてない」

 ユウトは後ずさった。

「剣を抜け!」

 ユウト達にゴブリンが、追いついてしまった。

「ゴブリンはどこですか? 助けてください!」

「しゃがんで避けろ!」

 円月刀が水平に振り抜かれた。

 ゴブリンの血を浴びた兵士の首が飛んだ。

 首から人の血が吹き出した。

「ユウト様、逃げてください!」

 別のゴブリンが走り込んでくると、ユウトに逃げろと言った兵士も、袈裟斬りされてしまう。

「逃げろ! 監視塔まで走れ!」

 ユウトはそう言って走った。

 ハヅキ、早くドラゴンと共に戻って来てくれ。

 十人いた兵士があっという間に半分になってしまった。

 このままでは我々は全滅してしまう。

 走っているうち、後ろからゴブリンの円月刀に切りつけられて二人が死んだ。

 ユウトが監視塔に入ると、人の兵士が言った。

「この出入り口で剣を構えていれば、時間が稼げます」

「まて、お前はどうする!」

「全滅よりはマシです。私がやられる前にドラゴンがくれば逆転できるのでしょう?」

 立ち止まっているユウトを、別の兵士が押し上げる。

「ここは奴に任せましょう」

 ユウトは出入り口に背を向けると言った。

「死ぬなよ」

 出入り口の兵士は無言で頷いた。

 ユウトは監視塔を駆け上っていく。

 螺旋の階段に、兵士の絶叫が響く。

「ここを通させるかぁぁ!!!」

 声は反響しながら、ユウトの耳に届く。

 立ち止まるユウトを、下から兵が押し上げる。

「彼の死を無駄にしないでください」

 二人は監視塔の屋上に抜け出た。

 螺旋階段の出口で、最後の兵士が剣を階段側に向けて立っている。

「……」

 ユウトは空を見回すが、ドラゴンはまだ見えない。

 階段から、ゴブリンのうなるような声が聞こえてくる。

「ユウト様。私がやられたら、死んだ私の体を蹴り落としてください」

「そんなこと言う前に、生きることを考えろ」

「私とゴブリンが絡み合いながら落ちれば、この狭い階段を上がってこれるゴブリンはいないでしょう。いたとしても時間が稼げます」

 兵士の迫力に、ユウトは動揺した。

「王子であるユウト様は、生き残ることを考えてください」

「……」

 兵士はユウトが啜り泣く声を聞いて、言う。

「死んでないのに、死んだかのように泣かないでください。涙はユウト様が生き残って城に戻った時の為に残しておいてください」

「そんな……」

 ユウトが言った時、兵士の目にはゴブリンが映っていた。

 突き出してくる円月刀を避けもせず、兵士は全力で剣をゴブリンの心臓に向けて突き刺す。

「ユウト様!!」

 ゴブリンと兵士が固まったまま階段の出口で立ち止まっている。

「けって、けりおとして……」

 ユウトは目を閉じて、兵士の背中を両手で押し込んだ。

 差し違えたゴブリンと共に、兵士が螺旋階段の中へ消えていく。

「すまん……」

 ユウトは螺旋階段を見つめながら、そう言った。

 そして監視塔の下を見ると多くのゴブリンが集まっていた。

 螺旋階段にゴブリンが詰まってしまい、使えないとわかると、奴らは自らの体を梯子のように組み上げ、徐々に塔の外を登り始めた。

「ゴブリンの王がいなければ統率力が低下するのではなかったのか?」

 ユウトは首を横に振った。いや、確かにドラゴンが庁舎に着地し、コンエグを見失った時、ゴブリン達の動きはバラバラでめちゃくちゃになっていた。

「……と言うことは」

 ユウトは『コンエグが生きている』という線を疑った。

 そして、空を見上げた。

「ハヅキ、早く戻ってきてくれ」

 螺旋階段が詰まっていると言っても、この調子だとすぐに解決してしまうだろう。

 もう時間がない。

「!」

 ゴブリン達のスリング・ショット部隊が、近づいてくる。

 その部隊の先頭にゴブリンの引く荷車があった。

「コンエグ!」

 ユウトは叫んだ。

 コンエグは生きていたのだ。ゴブリンがよく使う茶色の布を、頭や肩、足にグルグル巻きつけていた。布が巻かれていない部分も、炎で爛れている。茶色の布も、次々と滲み出てくる黒い血で染まっていった。

 しっかり薬を使い、出血を止めない限り、長くは持たないかもしれない。

 だが、それでもこちらに向かってくる。

 ひっきりなしに口を動かし、周りに何かを喋っている。

 ユウトはコンエグの執念に震え上がった。

 その時だった。

 上空から燃え上がるブレスの音が聞こえた。

 ゴブリン達は慌ててスリング・ショットを止め、その場で固定する。

 ドラゴン迎撃用にゴブリンの死体を首から切り落として、頭だけを集め始めた。

「ハヅキ!」

 ドラゴンは急降下して、ゴブリンのスリング・ショット部隊の先頭、コンエグに向かった。

「そこはダメだ! スリング・ショットがくる!」

 ユウトの声は届かない。

 複数のゴブリンの頭をセットしたスリング・ショットが放たれる。

 様々な表情のゴブリンの頭が、猛スピードでドラゴンを襲う。

「ハヅキ!」

 ドラゴンは細かく翼を捻り、首を器用に動かすと、複数のゴブリンの頭を綺麗に避けた。

 二番砲も、三番砲の弾も避けると、ドラゴンは低空に侵入していた。

 ながいブレスが口から吐かれると、コンエグの荷車は、炎に包まれた。

 大きく翼を広げながら、真上を向くと、ドラゴンは上昇していく。

 荷台に立つと、巻かれていた布を燃やしながら、コンエグは天に拳を突き上げた。

 その瞬間、何かを叫んだ。

 ゴブリン達は、声を聞いて一斉にコンエグを振り返る。

「!」

 下の様子に気を取られていると、螺旋階段から一体のゴブリンが上がってきた。

 素早く剣を突き刺すと、動きは止まった。

 今度は監視塔の外側を上がってゴブリンが屋上に入ってしまった。

「まずい!」

 全力で振り下ろしてくる円月刀をギリギリで交わすと、ユウトはゴブリンの心臓を突き刺し、監視塔の外に蹴り飛ばした。

 だが、ゴブリンの体で作った階段を、次々と這い上がってきていた。

「もうダメか……」




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