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水晶の令嬢 〜転生者から持ち込まれた悪役令嬢という概念に翻弄された話〜  作者: ゆずさくら


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真相

 雲に開いた穴から降りてきたのは『ドラゴン』だった。

 長いブレスを真上に向いて吐くと、ドラゴンは頭をさげ、大きく広げた翼で滑空してくる。

「頭に、人が」

 ドラゴンの頭に、人がいるのが見えた。

 人は全身を覆うような外套を羽織っている。

 ドラゴンはスズミヤ家の屋敷を中心にして旋回した。

 旋回しユウトたちの正面に現れた時は、頭の上に乗っている人間がはっきりと認識できた。

 ユウトは叫んだ。

「ハヅキだ!」

 そして手を振った。

 ハヅキはユウトを見たが、手を振り返してはこなかった。

 再びドラゴンが真上を向いてブレスを吐く。

 振り落とされたのではないか、とユウトは心配する。

 ドラゴンが再び地上を向くと、頭にハズキが乗っていることがわかる。

 ユウトはため息をついた。

「ちょっと…… ここにいたら踏み潰される!!」

 ユウトの馬は、怖がって前足を上げてしまう。

「大丈夫だ、ハヅキがコントロールしている」

 サクラはうまく馬を落ち着かせている。

 大きな音を立てて、ドラゴンがスズミヤ家の敷地内に着地した。

 バランスをとりながら、翼をたたむと、ゆっくり頭を下げた。

 頭にはドラゴンのパイロットが乗るための、縄と背当てがつけられていた。

 まさか、水晶の女王頃から人を乗せていたドラゴンではないだろうか。

 ハヅキが初めて出会ったドラゴンを手懐け、このパイロット用の装具を取り付けられないだろう。

 頭が着くと、ハヅキは妙に慎重にドラゴンから降りてきた。

 ハヅキは大きく厚手の外套を羽織っていて、ユウトたちからは手足もまともに見えない。

 パイロットは、ドラゴンの皮膚の凸凹に手や足を掛け、ロック・クライミングをするように上り、下りする必要があるのだ。

 慎重に下りてきた理由として、ユウトはハヅキが何か荷物を抱えているように思えた。

「ハヅキ、そのドラゴンは……」

ドラゴン石(ドラゴンズコード)の力により、操ることができました」

 その言葉を聞いて、サクラがリサを睨みつけた。

「ここに皆さんが揃っている理由は、なんとなくわかります」

 ユウトはハヅキがいきなりそう話し始めるので、状況の説明をやめた。

「私がサクラから『金』を奪ったとか、そう言ったところでしょう」

「……」

 ユウトを除いた女性たちが目だけを動かし、互いを見合った。

「何故わかる」

 ユウトが言うと、ハヅキは外套に手を掛けた。

「この()に聞いたからです」

 ハヅキの外套の中から、女性が姿を現した。

 その女性の顔や首、手や手首など露出している肌が、乾燥し赤くひび割れている。

「どうして外套の中に」

「ドラゴンで大空を飛行するには、素顔では危険だったので外套の中に潜ってもらっていました」

 ハヅキは黙っているサクラを見てから再び口を開く。

「そんなことより、サクラさん。この()に何か言いたいことはないんですか?」

 サクラは黙ってハヅキを睨み返していたが、前に進み出ると言った。

「サツキ!」

 乾いてひび割れたような赤い肌の女性は、呼ばれるとサクラのところへ進み、二人は抱き合った。

「あなたは病気なのよ。何故こんなところに来てしまったの」

「それは……」

「サクラさん。あの医者は彼女を治そうとはしていなかった」

 サクラは怒った。

「嘘をつかないで! サツキは難病なのよ。ここ何年もずっとこのひび割れた肌が治らない。医者は治療を続けないと死ぬかもと」

「それはあの医者のついた嘘よ。サツキが病気のままでいるよう、日々毒を飲ませ続けていた」

「そんなはず……」

 よくわからないでいるユウトが割って入った。

「なんの話だ」

 ハヅキは畳んだ外套を腕に引っ掛けた状態で立ち、グラスを指で押し上げて直した。

「はっきり言いましょう。私が巻き上げたとしている金は、このサツキの治療のために医者に渡っていたのです」

「金を巻き上げられたと言うのは、サクラの狂言だと?」

「そうです。ですが、サクラさんも被害者というか、シロガネ家全体が被害者なのです」

 ユウトは頭を掻きながら、言った。

「その、サツキを見ていた医者に騙されていたと」

「シロガネ家が取り潰しされそうになった経緯はご存知ですか?」

「ああ、俺の記憶にはなかったが、アシムが調べたものが城に届いていた。城の金を使い込んでいた。それがケント王にバレると城内の警備の職を追われ、シロガネ家自体が取り潰し寸前まで行ったとか」

 ハヅキは頷いた。

 サクラはサツキの背中を撫でながら、南の山を見つめる。

「その時からずっと……」

「医者が何のためにそんな莫大な(きん)を要求していたのかはわかりませんが」

 ユウトは言う。

「早速、その医者を調べに向かわせる。ハヅキが言ったことが事実なら、捕まえて牢屋に入れてやる。もし、医者が持っている金があればとりあげてしまおう」

「……私は」

 サクラが悲し気な顔で、ユウトを見つめた。

「妹のためとはいえ、人質を救うための金を無断で奪ったのは事実だ。妹の件を伝えて、どれくらい刑が軽くなるかだが……」

 ハヅキが割り込む。

「ユウト様、サクラが人質解放の件で、国に貢献した分を差し引き、刑を軽くすることもできるのではないのですか?」

「ああ、そうだ。この後ももっと働いて貰えば、それで刑を軽くすることも可能だ」

 サクラは言う。

「ハヅキさん、私はあなたを貶めようとして彼女たち五人を使って酷いことをしていたのですよ。それなのに、刑を軽くすることを考えてくれるなんて」

「サクラさん、あなたは『悪役令嬢』という言葉をご存知ではないですか?」

 サクラは顎に指を当てると、首を捻った。

「……」

「何か引っ掛かることがお有りのようですね」

 ハヅキは城の図書室にあった悪役令嬢ものの書について言った。

「悪役令嬢ものは、幼い頃、寝付けない私に、母が読んでくださいました」

「幼い頃ですか?」

「難解な言葉続くので、幼い自分は、すぐ寝てしまいました」

 ハヅキは納得したように頷いた。

「大きくなってから、本を見つけ、読み直しました」

「それを参考にして、私を嵌めようとしたのですね」

「ええ、同じではないですが、ハヅキさまは、まさに悪役令嬢に仕立て上げるのに都合が良いポジションでしたので」

 ハヅキは納得したかのように、ため息をついた。

「ごめんさい……」

 サクラの頬に涙が伝った。

 次にハヅキは、ユウトに近づいていった。

「人質解放と、ルコール地方にいるゴブリンを撤退させるため、私に策があるのですが」

「……」

 二人はしばらく他の誰にも聞こえない声で話し合っていた。

 ユウトはグラスを指で押し上げると、張りのある声で言った。

「よし、それでは、すぐに取り掛かろう」




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