人質解放作戦の路程にて
サクラが指揮する人質解放作戦が進行していた。
ルコール地方へと進む中、隊は休息を取っていた。
夜は、新兵が見張りをすることになっている。
サクラは新兵の動きを気にしていた。
「見張りを任して大丈夫かしら?」
隊長は言った。
「訓練の履歴を見る限り、優秀です。問題はないかと」
「ゴブリンとの実践が初めてなのは問題ないのかしら」
「誰か補助を立てろと?」
サクラは頷いた。
「まあ、今回人員には余裕がありますから、可能です」
「じゃあ、そうして」
隊長は頭を下げると、スケジュールを立て直した。
食事を取り、順番に仮眠をとり始めた。
新兵とベテラン隊員が、ペアになって周囲の見張りを行うことになった。
ルコール地方に近く、いつゴブリンが現れてもおかしくない場所だ。
ベテランは警戒していた。
ゴブリンの方が夜の認知力が強く、人が認識するより遠くから人を探し当ててしまう。
微かな動きも見逃さないことが、とても重要だった。
新兵は近くに気が取られている。
そこまで近寄られていては、既に寝首をかかれている距離だ。そこに入られる前に、先に認知する必要があるのだ。
「おい、もっと遠くを見ろ。見る目安は、そうだな…… あそこに黄色い花が咲いているだろう?」
新兵は必死に目を凝らしている。
「見えないか?」
目を見開いたり、窄めてみたり、さまざまやってみて、ようやく頷いた。
「かなりの距離ですね。そこまで遠くなると何があるか、はっきり認識出来ないです」
ベテランは言った。
「じっと見ていてもわからない。見回しながら、前回見た時との違差を感じるんだ」
「出来ますか?」
「やるしかない。出来なければ、全滅だ」
新兵は必死に遠くを見回した。
場所を変わりながら見張りを続け、交代の時間が来た。
交代の時、サクラはベテラン兵に訊ねた。
「新兵の様子はどう?」
「サクラ様のご指示の通り、見張りの説明をしなかったら危険でした」
サクラはウデを組んで頷いた。
「で、今は?」
「狐や狸を識別できていますから、ゴブリンも当然認識できるでしょう」
「もう一度、順番が来るから、その時もフォローお願いね」
わかったと言う風にベテラン兵は軽く手を上げると、仮眠に入った。
順調に夜が更けていく。
このまま行けば、ゴブリンに見つからずに夜が明けるところだ。
再び新兵とベテラン兵の見張りの番がやってきた。
互いに不審なものを見つけた時は、声を掛け合って、二人で確認していた。
空が白んでくると、ベテラン兵は立ったまま寝てしまっていた。
新兵は、それを認識すると、それとなく隊が運ぶ荷物の方に近寄って行った。
ベテラン兵の死角に入ると、荷物を開けた。
新兵は金の数を数え、荷物を閉じた。
殺気を感じた新兵は、後ろを振り返る。
「!」
殺気を感じたのはゴブリンだった。
群れではなく一体で動いているのだろう。
周囲に他のゴブリンはいなかった。
ゴブリンの歩幅にしてあと一、二歩近づけば、円月刀で切り裂かれてしまう。
「敵襲!」
新兵は叫ぶと同時に剣を構えた。
ベテラン兵は、目を開けた。
そして、ゴブリンを認識すると、同じように叫んだ。
「敵襲!!」
瞬きを出来ない、ほんの一瞬のことだった。
ゴブリンが飛び込みざま円月刀を振り抜くと、新兵は首を刎ねられていた。
「起きろ! ゴブリンだ!」
ベテラン兵が叫ぶ。
周囲の兵が声に反応し起き始めると、ゴブリンは逃げ去っていた。
「どういうことだ……」
「ゴブリンは?」
「ゴブリンが現れたのは、どの方向?」
「ゴブリン!?」
兵はゴブリンを探すが、ベテラン兵が説明する。
「ゴブリンは逃げてしまった」
「おい! 新兵がやられて……」
首が飛んでいる。助けることも話を聞くことも無理だ。
「酷い」
「どうしてここまで近寄られて」
「すまん……」
ベテラン兵は悔やんだ。
立ちながら寝ていたのは、一瞬のはずだった。いや、思ったより寝ていたのかもしれない。
隊長はベテラン兵に訊く。
「ゴブリンは何体だったんだ」
「一体です」
「流石にここまで近づかれれば、ゴブリンと対峙したことがない新兵とはいえ、もう少し対応できたはずだ」
サクラが新兵の死体を見て、顔を背けた。
「この様子だと、一瞬でやられている。下がるなり避けるなりの対応する間もないほど素早くだ。逃げたゴブリンは、どんな様子だった?」
「個体を識別するような時間がなく」
ベテラン兵は自分が寝ていたせいで、とは言わなかった。
サクラが隊長に近づいていくと、言った。
「ゴブリンに見つかった以上、ここに止まっているのは危険です」
「ええ」
隊長はそれ以上新兵が殺されたことを詮索せず、隊に移動を指示した。
「少し早いが、今日の日程を前倒して行う」
一部の兵が新兵の死体を処理し、他の者は進軍の為の準備に動き出した。
隊長はふと、金の入っていた箱を見た。
箱に潰されている草がズレている。誰かが箱を動かしたのかもしれない。
念の為に、体調は金を入れた箱を開けた。
「どうしました?」
サクラが隊長に声をかける。
「いえ、特に何か失われている様子もありません」
「そうですか」
何者かが、金を入れた箱を動かした。おそらく開けたのだろうが中身は盗まれていない。
そして、まるで狙ったように殺された新兵。
隊長には、この二つが何か繋がっているように思えた。




