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水晶の令嬢 〜転生者から持ち込まれた悪役令嬢という概念に翻弄された話〜  作者: ゆずさくら


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ドラゴンの道(その4)

 ハヅキは馬を止め、ドラゴンが石を掘った跡を探索した。

 土は乾いてはいたが、雨などで流されておらず、まだ何日も経っていないようだった。

「これがドラゴンの爪跡…… ですよね」

 鋭い爪で山肌を抉っている。

 この場に留まるために、ドラゴンは体の中で過剰に生成されたガスを抜く必要がある。

 ガスは大気より軽いことに加え、大気の中では簡単に発火するので周囲に焦げているところがあるのだ。

 ハヅキは焦げている部分を触ってみる。

 時間が経てば、焦げた部分も拡散してしまうが、やはりここも焦げたばかりのようだった。

 二人はもう一度抉れた部分に戻る。

 ドラゴンがガス生成の触媒として必要とする石が、まだゴロゴロと落ちている。

 最初に掘ったドラゴン以外にも、この石を必要とするドラゴンが、ここにやってくるに違いない。

 だが、もう日が山陰に落ちかけていた。

「ここで待つしかないのかしら」

「ええ、そう思っています」

 場合によっては何日も…… とハヅキは言いかけて、やめた。

 二人は傾斜を登り、木々が茂って日陰になっている場所に移った。

 暗くなってきたため、ハヅキはサツキをおいて沢に水と、魚をとりに下りた。

 二人分の魚を捕まえ、水を器に汲むとサツキが待つ場所に戻る。

 火を焚き、魚を捌き、焼いて食べた。

 火を囲み、二人は肩を寄せ合って寝た。


 朝の冷え込みにハヅキは目を覚まし、一人で用を足してからサツキの隣に戻った。

 座り込む時に、サツキの肩とぶつかると、サツキは目を開けた。

「ごめんね」

 ハヅキが小さい声で謝ると、サツキはハヅキの左の手の甲を指差した。

「ドラゴンが来るって」

「!」

 墨で描かれたようにしっかりと文字が浮かび上がっていた。

 ハヅキは立ち上がった。

 そして腰に下げていたドラゴン石を握り締め、空き地の上側に移動した。

 夜明け近くの紫色の空。

 日が徐々に山肌を照らしていく。

 まだくらい空に黒い影が見えた。

「あれ……」

 サツキはハヅキの背中に触れた。

 ハヅキも次第に大きくなる空の影を見つめていた。

 多くなる影が、突然、赤い炎を吐き、その炎の光で全身が照らされた。

「!」

 降りてくるために、ブレスを吐き、ガスを抜いているドラゴン。

 大きな翼を広げ、下りてくる方向を微調整している。

 神々しい。

 その時、ハヅキは『見惚れる』という言葉の意味を理解できた。

 更に降下する為、ドラゴンは炎のブレスを吐いた。

 この位置はドラゴンの正面になる。

 このままだと焼かれてしまう、ハヅキはサツキと一緒に移動しようとした。

 手の甲が疼くと、文字が浮かんでいた。

『動くな!』

 ハヅキはもう一度ドラゴン石(ドラゴンズコード)を握り締めた。

 祈るようにドラゴンを見据える。

 腰に抱きつき、ハヅキの背後にいるサツキも、恐る恐る下りてくるドラゴンを見つめた。


 職人が大急ぎで作ったノームの文字を読むためのグラスが、城に運び込まれた。

「ユウト様、ノームの文字を読むグラスが出来ました。ただ、急ごしらえの為、職人が調整しながら使わねばなりません」

「分かった」

 ユウトは机の引き出しに入れていた、小さな紙を取り出した。

 それはハトに託されてユウトの部屋に戻ってきたものだ。

 そこにはアシムが残した情報が記されていると思われた。

 職人が持ち込んだ、大掛かりな機械が部屋を埋めていた。

 そもそもはユウトやハヅキが目にかけているグラスを作成する時に使う工具で、通常はグラスをセットする場所に、無理やり紙を固定する仕組みを作ってきたものだ。

 その反対側にある拡大する多構成のグラス群は、グラスを加工する時の工具そのものだった。

 職人が頭を下げると、ユウトは言った。

「無理なお願いをしてすまなかった。礼を言う」

 そして内容を確認したい紙を手渡す。

「この紙に書かれていることは国家の機密だ。公にしたらどうなるかわかるな?」

 職人は頷いた。

 ユウトから紙を受け取る職人の手は、わずかに震えているように見えた。

「すべての操作については私が行います」

 紙をセットして、機械のところに灯りをつける。

 すると紙だけがピンポイントで明るく照らされた。

 職人が紙の反対側にあるグラスの端から覗きこみ、多厚生のグラスを前後に動かしながら調整する。

 調整が終わると、職人は言った。

「ご覧いただけます」

 職人が退くと、ユウトが覗き込んだ。

「次」

 今度は紙側の位置をずらす作業を職人が行う。

 ユウトは機械に一切触れることは出来ない。

 交互に繰り返されていく、読み取り作業。

 しばらく続いた後、ユウトがポツリと言った。

「だからあの時、娘たちはあんなことを言ったのだ……」

 ユウトが初めてサクラに会った時、広場にいた娘たちが言っていた言葉だった。

『シロガネ家は取り潰しておけば良かったのよ』

 ユウトはその真意を理解した。

 読み終わると、職人は紙を丁寧に取り外した。

「この機械をもうしばらく貸してくれ」

「えっ、それは約束が……」

 口答え職人の口を、周りにいた従者が手で押さえる。

「城にハトが帰ってきてないか? すぐに調べさせろ」

「アシムの情報はこれだけはないのですか?」

 ユウトは頷いた。

「ハトの情報が早く見つかれば、機械も早く返せる」

「聞いたか、城内に指示を回せ」

 従者たちは、ユウトの指示で一斉に部屋を出ていった。




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