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水晶の令嬢 〜転生者から持ち込まれた悪役令嬢という概念に翻弄された話〜  作者: ゆずさくら


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ドラゴンの道(その3)

 ハヅキはアツシが持っていた縄で、アツシ自身を縛り上げると、部屋に放っておき家の中を捜索した。

 彼が使っていた書斎を見つけると、書き残した多くの紙を見つけた。

 その中には治療の対価として(きん)を受け取っていると言う話や、赤肌症候群を起こすために女性に与える薬の配合などが書かれていた。

「……人間のクズだ」

 薬を飲まされて症状が出ているのなら、薬を飲まなければ病気が快方に向かうだろうと考えた。

 鍵を開け彼女の部屋に入った。

「起きたら家に帰してあげる」

 ハヅキは寝ている彼女の横に椅子を置き、座るとそこで寝てしまった。


 朝、ベッドに寝ていた赤肌症候群の女性は、椅子で寝ているハヅキに気がついた。

 女性は手を伸ばすと、ハヅキの腿に触れた。

「!」

 ビクッと体を震わせると、ハヅキが目を覚ました。

「ご、御免なさい」

 ベッドで横になっている女性が言った。

 ハヅキは首を横に振った。

「いいえ、勝手に部屋に入った私こそ、あなたを驚かせてしまって、申し訳ないわ」

「ハヅキ様、でしたか? 私はサツキと言います」

 女性は横になったまま、ハヅキを見つめている。

「サツキさん。あの男は医者ではありません。いえ、医者かもしれませんが、悪い医者です。あなたの病気は、あの医者が作り出していたのです」

「えっ……」

「私とここから逃げましょう。ここにいては治る病気も治らない」

 サツキは困ったような表情を浮かべる。

「けれど、姉に何も言わずにここを離れると」

「お姉さんには、後で私から伝えます」

「……」

 動こうとしないサツキを強引に引き起こす。

「馬のところまで背負っていきましょう」

 ハヅキは軽々とサツキを背に乗せると、歩き出した。

 アツシの家を出て、馬小屋に着くと彼女をおろした。

 馬に鞍をつけると、彼女を乗せてハヅキは馬を引いて歩く。

 サツキの肌は赤く、ひび割れていたが、表情は明るくなった。

「馬は初めて。見える景色が違って素敵だわ」

「そう、良かったわ」

 サツキは進む方向に気づくと、言った。

「もしかして、私のために戻ろうとしていますか?」

 勘がいい()だ、とハヅキは思った。

 ならば無理に嘘をつくのは良くないと考えた。

「……そういうことは気にしなくていいのよ」

「ダメです」

「私の目的としていることは危険なのよ」

 サツキは首を横にふった。

「私のせいで姉もやりたいことを諦めてしまった。私、これ以上他の人の重荷になりたくないんです」

 ハヅキはため息をつき、空を見た。

 ここで彼女の家まで戻っていたら、ドラゴンと出会うのが遅れる。ゴブリンの王を倒さねば、ゴブリンのさらなる南下を許してしまう。

 ハヅキは首を縦に振った。

「わかった。いきましょう」

 手綱を引いて、馬を百八十度反対に向けた。

 あぶみに足を掛けると、彼女の後ろに跨った。

「少し走ってみるから、鞍にしっかり捕まって」

 サツキは頷いた。

 馬を蹴って『走る』と言う意思を伝えると、瞬時に反応した。

 サツキは体を強張らせたが、速度に慣れてくると後ろを向く余裕もできた。

「危ないから、後ろを向かない」

「御免なさい」

 サツキはしばらく黙っていたが、前を向いたまま言う。

「こんなに世界が自由で素晴らしいものだなんて」

 ハヅキには馬に乗ったぐらいで彼女がなぜそんなことを言うのか、理解できなかった。

「私、ずっとあそこにいなきゃいけないんだと思ってたから」

 そんなに長い間、あの男のところにいたのか。

 ハヅキはサツキのためにも、生きて帰らなければと心に誓った。


 馬を休ませたり食事をとって午前中に峠を越えると、下り坂が続くようになった。

 慎重に山道を下っていると、山腹の所々が不自然に木々が焼け、不自然に抉れた場所があることに気づいた。

「……」

 その焼けたような跡は、新しいものもあれば、古いものもあった。

 サツキもハヅキの様子に気づき、訊ねた。

「あの空き地が気になるのですか?」

「本で読んだ知識なのだけど……」

 ここまで来て教えない選択はない、とハヅキは言葉を続けた。

「あの空き地はドラゴンが飛ぶために必要な石を探した跡と思われます」

「ドラゴン!?」

「ええ。ドラゴンです。ドラゴンは体内でガスを作り出すために、石を食べるのです」

 サツキは理解できないようだった。

「石を食べたら体が重くなってしまいます」

「ガスを作るために必要な石の量はそれほど多くありません」

 ドラゴンの説明をどこまでしてあげればいいか悩みつつも、続けた。

「ドラゴンはスイカ豆という大きな植物のみを食べます。自らの栄養とする分を取った豆の残り滓は、ドラゴンの中で作り出される特殊な液でガス化されます。ただ、この特殊な液でガス化する反応は、何もないとかなりゆっくりしたものです」

「それで石が必要になるのですか?」

「その通りです。石は、豆のカスとドラゴンの液の反応を加速します」

 サツキは後ろのハヅキを振り返った。

「まさか、ハヅキ様。あなたの目的は」

「ええ。ドラゴンを手懐けることです」

「この馬のように、ドラゴンを、ですか?」

「その通りです」

 グラスの下に見えるハヅキの本気の目に、サツキは驚き目を丸くした。

「今のこの世界に『水晶の女王』はいません。それでも可能なのですか」

「可能です」

 言い切ったが、ハヅキもやったことがあるわけではない。書で読んだ知識に過ぎない。

 実際にドラゴンがいるだろう場所にやってくると、果たしてコントロールできるのか不安になっていた。

 焼け跡がある空き地の大きさを考えると、ドラゴンがどれくらいの大きさなのかが想像できる。

 鋭い足で大地を抉り、目的の石を掘り当て飲み込み去っていく。

 ドラゴンが一度降り立てば、この大きさの空き地が必要になるのだ。

「手が震えて」

 サツキに言われて、ハヅキは手綱を持つ、自分の手が震えていることに気づいた。

「心配ありません。あなたは私が守ります」

 サツキを安心させるために抱きしめているつもりなのに、同時にハヅキは自分の弱さからサツキにすがっているように感じた。




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