ドラゴン石の行方
夕食が終わると、ユウトは従者に言って馬を支度させた。
そして馬に跨ると城を出て行った。
街を抜けユウトはスズミヤ家に着いた。
「ハヅキはいるか」
玄関ホールにある椅子に座っていると、ハヅキがやってきた。
「お急ぎのようですので、このような格好で失礼致します」
ハヅキは外出する時の、硬い布で押さえつけるような服ではなく、部屋着なのか柔らかな生地の服を着ていた。流石にそれだけでは寒いので、簡単な上掛けを羽織っている。
大きな胸と、くびれた腰が強調されている。
ただ、ハヅキは屋敷の中でも木製のマスクをつけていた。
「ユウト様、議場ではあのような騒ぎを起こしてしまい申し訳……」
「もう終わったことはいい。だが、それに関して聞きたいことがある」
「……」
ハヅキは家の者に応接室を開くように命じた。
応接室の入り口に打ち付けた板を外す間、二人は食堂で向かい合わせに座っていた。
ユウトはお茶に口をつけてから、言った。
「ハヅキが良ければここで話してもいい」
「あの応接で話す必要があるのです」
ハヅキは木製のマスクを外し、お茶を口に運んだ。
ユウトも、こういった時しかハヅキの口元を見る機会がなかった。
いかついマスクとの対比なのか、ユウトの目に彼女の唇は可愛らしく映った。
「準備ができました」
二人は立ち上がると、応接室に入った。
灯りはついていたが、夜の応接室は暗かった。
ユウトはソファーに座っていたが、ハヅキは立っていた。
「あの時、ハヅキの様子が少し変だった」
「そ、そうですか」
「何とは具体的には言えなかったが、ハヅキがあんなに激昂したのは訳があるんだろう?」
ハヅキはユウトに左手の甲の話をしていいか悩んでいた。
「まず私には彼女への嫉妬があります」
「彼女ってサクラに? 支度金のことか。妃候補、というだけでは議場に呼び続けられないと思ったからのことだ。まだそう決まったわけでは」
ハヅキは首を横に振った。
「支度金とか、婚約者とか、そういうことはいいんです」
ハヅキは黙ってしまった。
「そうでないなら、何が」
ユウトの言葉に、ハヅキはようやく口を開いた。
「三日も城を空けて二人で出掛けていらしたのでしょう」
ユウトが言葉を返せないでいると、ハヅキは言葉を続けた。
「私とはそのようなことはありませんでした」
「ルコール地方に行って帰ってきただけだ」
「何もなかったとおっしゃるのですか」
ユウトは視線を逸らした。
ハヅキはこれ以上この話を続けると、ユウトを憎んでしまうと思った。
「それと彼女がスズミヤ家を貶めるような発言をしたからです。ドラゴン石についての伝承は確実に存在します。それは様々な書に記され、明らかなことなのに」
「ああ、あれは言い過ぎだと思う。サクラが煽っているようにも見えた」
「ドラゴン石はあるんです。あったんです。この置物の中に」
ハヅキはドラゴンの置物に手を触れた。
「あった、と言うのは?」
ハヅキの近くでドラゴン石が蛍光を放つ話と、そのドラゴンの置物がかすかに蛍光を放っていた話を説明した。
ユウトが興味を持って立ち上がり、ドラゴンの置物へ近づいてきた。
「ここにあったものが盗られた?」
「侵入者があったのは事実です」
「その者を捕まえよう」
そう言うとユウトはハヅキの顔を見た。
「いえ、顔や姿をはっきりとは見ていませんからそれは困難です」
ハヅキは間を置いてから言う。
「それと『石は取られていない』と思うんです」
「どういうことだ」
「視線を感じるんです」
ユウトは部屋の壁、天井を見回す。
視線、と言う曖昧な感覚の根拠を見つけることは出来なかった。
何気なく、ユウトが暖炉の方に近づいた。
それを見て、ハヅキが言う。
「この部屋、寒いでしょうか?」
「ああ、ちょっとな」
「暖炉をつけましょうか?」
暖炉を覗き込むと、ユウトは言った。
「いや、火はついているようだが……」
「?」
ハヅキは部屋の灯りではない光が、暖炉の奥から発せられていることに気づいた。
「まさか!」
ユウトはハヅキが勢いよく近づいてくるせいで、目を閉じてしまう。
目を開けると、ハヅキが暖炉に上体を突っ込んでいた。
「ど、どうしたハヅキ」
返事も返さず、灰を掻き回しながら何かを探している。
「お、おい」
ユウトは舞い上がってくる灰を嫌って、部屋の中央へと下がった。
ハヅキの動きが止まったことに気づいてユウトは声をかける。
「どうした!」
ハヅキが立ち上がる。
体から灰が静かに落ちていく。
「どうした……」
「ありました!」
「何が?」
ユウトはハヅキの手に握られているものが何か、分からなかった。
「あったんです!」
何も分からないまま、ユウトはハヅキに抱きしめられていた。
ユウトは城に戻ると、寝室に入り、ベッドの上で悶々としていた。
思いがけずハヅキに抱きしめられ、気持ちが昂っていたのだ。
眠れない、と思って寝返りを打つと、そこには小さな人『ノーム』がいた。
「ユウト、寝れないのかい」
「アシム、久しぶりだな」
サクラの衣装やメイクをする女性を、城に呼んでもらった日から数えて、四日ほど会っていない。
ユウトにとっては四日だが、彼らの時間感覚からすると三ヶ月とちょっとの間、会っていなかったことになる。
「昨日ここを訪ねた時、ユウトが寝ていたから、会うのを今日にしたんだ」
「なんだ何か言いたいことがありそうだな」
「ああ、ちょっと調べていることがあって」
ユウトは上体を起こした。
「ひっかかる言い方だな」
「あのサクラという女のことだ」
「サクラのことだと!? なんだ、言ってみろ」
アシムは言った。
「説明するのは、もう少しだけ時間をくれ」
「じゃあ、調べた結果がまとまってから言えばいいじゃないか」
アシムは髪を後ろに払う仕草をした。
「情報が確定するより先に、警告をしておくべきかと思っただけだ」
「警告だと?」
「ああ、なんでも鵜呑みにしないほうがいい」
「……」
アシムは鳩を招き入れると、その背中に乗り込んだ。
「じゃあ、俺は調査を続ける」
アシムは手を振ると、アシムの乗せた鳩が飛び立って行った。
ユウトは鳩が出ていくのを見届けると、バッタリとベッドに倒れ込んだ。




