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水晶の令嬢 〜転生者から持ち込まれた悪役令嬢という概念に翻弄された話〜  作者: ゆずさくら


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18/33

ドラゴン石の行方

 夕食が終わると、ユウトは従者に言って馬を支度させた。

 そして馬に跨ると城を出て行った。

 街を抜けユウトはスズミヤ家に着いた。

「ハヅキはいるか」

 玄関ホールにある椅子に座っていると、ハヅキがやってきた。

「お急ぎのようですので、このような格好で失礼致します」

 ハヅキは外出する時の、硬い布で押さえつけるような服ではなく、部屋着なのか柔らかな生地の服を着ていた。流石にそれだけでは寒いので、簡単な上掛けを羽織っている。

 大きな胸と、くびれた腰が強調されている。

 ただ、ハヅキは屋敷の中でも木製のマスクをつけていた。

「ユウト様、議場ではあのような騒ぎを起こしてしまい申し訳……」

「もう終わったことはいい。だが、それに関して聞きたいことがある」

「……」

 ハヅキは家の者に応接室を開くように命じた。

 応接室の入り口に打ち付けた板を外す間、二人は食堂で向かい合わせに座っていた。

 ユウトはお茶に口をつけてから、言った。

「ハヅキが良ければここで話してもいい」

「あの応接で話す必要があるのです」

 ハヅキは木製のマスクを外し、お茶を口に運んだ。

 ユウトも、こういった時しかハヅキの口元を見る機会がなかった。

 いかつい(・・・・)マスクとの対比なのか、ユウトの目に彼女の唇は可愛らしく映った。

「準備ができました」

 二人は立ち上がると、応接室に入った。


 灯りはついていたが、夜の応接室は暗かった。

 ユウトはソファーに座っていたが、ハヅキは立っていた。

「あの時、ハヅキの様子が少し変だった」

「そ、そうですか」

「何とは具体的には言えなかったが、ハヅキがあんなに激昂したのは訳があるんだろう?」

 ハヅキはユウトに左手の甲の話をしていいか悩んでいた。

「まず私には彼女への嫉妬があります」

「彼女ってサクラに? 支度金のことか。妃候補、というだけでは議場に呼び続けられないと思ったからのことだ。まだそう決まったわけでは」

 ハヅキは首を横に振った。

「支度金とか、婚約者とか、そういうことはいいんです」

 ハヅキは黙ってしまった。

「そうでないなら、何が」

 ユウトの言葉に、ハヅキはようやく口を開いた。

「三日も城を空けて二人で出掛けていらしたのでしょう」

 ユウトが言葉を返せないでいると、ハヅキは言葉を続けた。

「私とはそのようなことはありませんでした」

「ルコール地方に行って帰ってきただけだ」

「何もなかったとおっしゃるのですか」

 ユウトは視線を逸らした。

 ハヅキはこれ以上この話を続けると、ユウトを憎んでしまうと思った。

「それと彼女がスズミヤ家を貶めるような発言をしたからです。ドラゴン石についての伝承は確実に存在します。それは様々な書に記され、明らかなことなのに」

「ああ、あれは言い過ぎだと思う。サクラが煽っているようにも見えた」

「ドラゴン石はあるんです。あったんです。この置物の中に」

 ハヅキはドラゴンの置物に手を触れた。

「あった、と言うのは?」

 ハヅキの近くでドラゴン石が蛍光を放つ話と、そのドラゴンの置物がかすかに蛍光を放っていた話を説明した。

 ユウトが興味を持って立ち上がり、ドラゴンの置物へ近づいてきた。

「ここにあったものが盗られた?」

「侵入者があったのは事実です」

「その者を捕まえよう」

 そう言うとユウトはハヅキの顔を見た。

「いえ、顔や姿をはっきりとは見ていませんからそれは困難です」

 ハヅキは間を置いてから言う。

「それと『石は取られていない』と思うんです」

「どういうことだ」

「視線を感じるんです」

 ユウトは部屋の壁、天井を見回す。

 視線、と言う曖昧な感覚の根拠を見つけることは出来なかった。

 何気なく、ユウトが暖炉の方に近づいた。

 それを見て、ハヅキが言う。

「この部屋、寒いでしょうか?」

「ああ、ちょっとな」

「暖炉をつけましょうか?」

 暖炉を覗き込むと、ユウトは言った。

「いや、火はついているようだが……」

「?」

 ハヅキは部屋の灯りではない光が、暖炉の奥から発せられていることに気づいた。

「まさか!」

 ユウトはハヅキが勢いよく近づいてくるせいで、目を閉じてしまう。

 目を開けると、ハヅキが暖炉に上体を突っ込んでいた。

「ど、どうしたハヅキ」

 返事も返さず、灰を掻き回しながら何かを探している。

「お、おい」

 ユウトは舞い上がってくる灰を嫌って、部屋の中央へと下がった。

 ハヅキの動きが止まったことに気づいてユウトは声をかける。

「どうした!」

 ハヅキが立ち上がる。

 体から灰が静かに落ちていく。

「どうした……」

「ありました!」

「何が?」

 ユウトはハヅキの手に握られているものが何か、分からなかった。

「あったんです!」

 何も分からないまま、ユウトはハヅキに抱きしめられていた。


 ユウトは城に戻ると、寝室に入り、ベッドの上で悶々としていた。

 思いがけずハヅキに抱きしめられ、気持ちが昂っていたのだ。

 眠れない、と思って寝返りを打つと、そこには小さな人『ノーム』がいた。

「ユウト、寝れないのかい」

「アシム、久しぶりだな」

 サクラの衣装やメイクをする女性を、城に呼んでもらった日から数えて、四日ほど会っていない。

 ユウトにとっては四日だが、彼らの時間感覚からすると三ヶ月とちょっとの間、会っていなかったことになる。

「昨日ここを訪ねた時、ユウトが寝ていたから、会うのを今日にしたんだ」

「なんだ何か言いたいことがありそうだな」

「ああ、ちょっと調べていることがあって」

 ユウトは上体を起こした。

「ひっかかる言い方だな」

「あのサクラという女のことだ」

「サクラのことだと!? なんだ、言ってみろ」

 アシムは言った。

「説明するのは、もう少しだけ時間をくれ」

「じゃあ、調べた結果がまとまってから言えばいいじゃないか」

 アシムは髪を後ろに払う仕草をした。

「情報が確定するより先に、警告をしておくべきかと思っただけだ」

「警告だと?」

「ああ、なんでも鵜呑みにしないほうがいい」

「……」

 アシムは鳩を招き入れると、その背中に乗り込んだ。

「じゃあ、俺は調査を続ける」

 アシムは手を振ると、アシムの乗せた鳩が飛び立って行った。

 ユウトは鳩が出ていくのを見届けると、バッタリとベッドに倒れ込んだ。




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