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水晶の令嬢 〜転生者から持ち込まれた悪役令嬢という概念に翻弄された話〜  作者: ゆずさくら


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国策を決める議場

 議場に向かうサクラの前に五人の女性が立っていた。

 五人の女性は、ハヅキの家にドラゴン石を探しにきていた者だった。

 小声で話をしているようだったが、サクラは顔を真っ赤にしていた。

 そこへユウトが現れた。

 サクラの顔が赤く、彼には怒っているように思えた。

「何か揉め事か」

 王子に対し、全員が横並びになり頭を下げた。

「何も言わないと何もわからない。サクラ」

「この者たちから『支度金』返せと。ユウト様の婚約者はハヅキ様だけだ、と」

 ユウトは何と説明するか悩んだ。

 支度金を送った理由の一つは、この議会にサクラを呼んでいい理由を作る為、表向き『婚約者』の形をとりたかったからだ。二つ目は、サクラにゴブリンとの交渉を進めてもらうための資金にしてもらうためだ。

 だが、ここでそれを言う訳にはいかない。

「私は、ハヅキもサクラも同じように扱う」

「この国では妃は一人です」

「そうです、ハヅキ様が可哀想」

 ユウトはこの女性たちのことを思いだした。

 ハヅキを囲んで『ドラゴン石』を探すと言っていた者たちだ。

「王子に意見するなら、それなりの覚悟はあるのだろうな」

 言いながら、ユウトはグラスを指で押し上げた。

「……」

 女性達は口をつぐんだ。

「そういえば、君たちはハヅキと一緒に『ドラゴン石』を探していたと思うが、見つかったのか?」

 俯く女性達は小さい声で否定する。

 見つからなかったのか、とユウトは思う。

 この会議ではハヅキの案は戦争の対案にはならないのか、と思うと心細くなった。

 いや、だが、サクラの案は本物だ。この案で皆に合意をとることは可能だ。

「さあ、会議だ。サクラは中へ」

 サクラが頭を下げ、廊下を進んでいく。

「君たちは客間にいてください」

 女性達は各々、ユウトに頭を下げると下がっていった。


 会議が始まった。

 ユウトはサクラの具体的なゴブリンとの交渉に付き添ったため、サクラの説明を所々、補う発言をした。

 説明が終わると、臣下たちが言った。

「何度も聞くが、人質を取り返したらルコール地方を取り返せるのか?」

「人質がいなければ、ゴブリンだって支配を続けることは出来ないだろう。粘り強く交渉すれば、取り返せる」

 交渉とはいうが、最終的に戦争になるかもしれない。

 だが人質を取り返してしまえば、人質を取られたまま戦うのとは訳が違う。

 まず、大型のスリングショットを並べ、ルコールを撃てばいい。

 命中度が悪くとも、破壊力があるスリングショットで叩かれたら、ゴブリンといえど、すぐに交渉に応じるだろう。

 人質がいる間はスリングショットが使えない。

 人質がいる場所を避けれるような精度がないからだ。

 人質を助けるために、剣と盾の距離に飛び込めばゴブリンの思う壺だ。

 近接戦ではゴブリンには敵わない。我々は数で圧倒するしかないのだ。

「国に金がどれだけあるというのですか」

「ルコール地方を救えるくらいはある」

「二度目、三度目の時に金を釣り上げてきたら?」

「そこは恐れている点だが、人質の解放はなるべく同時にし、大勢を一度に解放するようにする」

 臣下達の質問に、次々答えていくユウト。

 議場の正面に立っているサクラは祈るような気持ちで資料を握りしめていた。

 ハヅキはサクラとそれを庇うように説明し、回答を加えるユウトを恨むような目で見ていた。

 質問が収まったところで、ユウトが言う。

「ここに集まった者に言いたい。戦争という選択は最悪だ。戦争は遊びではない。健康や生命をかけて戦うものなのだ。かけている限り、それが失われることがある。ゴブリンが死ぬだけではない。人質も兵士も、時には指令官も死ぬ」

 議場の女性達がざわめいた。ここにいる臣下達は指令官クラスだ。自分の夫が死ぬかもしれないと聞けば、戦争という選択をするだろうか。

 ユウトの狙いに指摘する臣下がいた。

「ユウト様、女どもを議場に呼んだのはこのためですか?」

「戦争は国民の犠牲の上に成り立っていることを述べたに過ぎん。女性を呼んだのは、この議場が歪んでいたから正したのだ。国民には男も女もいる。議会に女が同数いないのはおかしい。それだけだ」

 ユウトは言い終わってから間を置いた。

「ハヅキ、『ドラゴン空爆』案を説明してくれ」

 ハヅキが立ち上がった。

 説明を始めるが、途中、手袋をしているせいで資料がうまくめくれない。

「ハヅキ手袋をとれ」

「……」

 ハヅキは手袋を取るのを拒否して、なんとか資料をめくった。

 ドラゴンを操るには、水晶の女王の力がいる。

 だが今の時代は『水晶の女王』がいない。

 ドラゴン石で書き換えたドラゴンを、ドラゴン石を通じて操るしかない。

 作戦は立派だが、大前提としてドラゴンが操れることが条件になる。

「しかし、ドラゴン石は見つかっていない、ということか」

「はい」

 議場で静かな笑い声が広がった。

 ハヅキの左手の甲が疼いた。

 一人でいたなら、すぐにでも手袋をめくって確認しているところだった。

 だが、衆目の集まるこの場所では確認が出来ない。

 サクラが言った。

「ハヅキさん、ドラゴン石を見つける見込みはあるんですか?」

 サクラの顔が笑っているように見える。

『ハヅキさん、私はユウト様とこの三日の間、ずっと一緒にいましたよ』

 言っていない言葉まで聞こえる気がした。 

「本当はスズミヤ家にはドラゴン石の伝承はなかったのではないですか。それを引っ込みがつかなくなって……」

 やめて…… ハヅキは思った。

『もうあなたは許嫁ではなくて、お払い箱なの。私がユウトの新しい婚約者』

 幻聴のように、ハヅキに聞こえてくる声。

 我慢出来ない!

 ハヅキはサクラのところに歩いて行く。

 様子を察してユウトが立ち上がる。

「おい、待て!」

『シッ!』

 一瞬、静まり返った議場に、サクラの頬を叩いた音が響いた。

 一気に二人に注目が集まった。

「無礼がすぎる!」

 ハヅキはそう言って、再び手を上げた。

 珍しく激昂している。

 ユウトは体格でハヅキに負けているが、サクラとの間に入り込んで、ハヅキを押し戻す。

「暴力を振るう人間はこの場から出て行きなさい!」

 叩かれた頬を押さえながら、サクラがそう言った。

 ユウトは火に油を注ぐな、という風にサクラを見返す。

 さらに前に進もうとするハヅキを、全力で食い止めている。

「ハヅキ、議場を出て頭を冷やせ」

 ユウトの言葉を聞いて、急に、ハヅキは冷静さを取り戻した。

「すみません」

 そう言って頭を下げて議場を出ていく。

「では、改めてこの三つの案から国策を決定したい」

 ユウトは全員の注目が集まったのを見て、口を開いた。

「一つ目は真っ向勝負の戦争による解決だ。二つ目は交渉により人質解放を優先する案。三つ目はドラゴンによる王の暗殺案だ」

 男が全員戦争を選び、女性が全員交渉による解決を選べばいいが、女性とて夫の意見に従うものもいる。まともに決議したらら、戦争を選択する方が多いだろう。

「周りの意見に左右されないよう、隣の部屋で投票とする。そこに札を渡しにくるのだ。周りにいる人間に、何に投票したかわからぬよう、一人一人、全ての札を持ってこい。さあ、全員廊下に出てくれ」

 まず全員を廊下に出してしまい大勢と意見を交わすことがないようにする。

 そしてユウトと一対一になる部屋で投票させることにより、投票者が対立した意見を選択しづらくするのだ。

 こんなに卑怯な手を使ってでも交渉案に投票させるのなら『王子が勝手に国策を決めた』と言うことでも良いのかもしれない、とユウトは思った。

 だが、議決された案であると言う『形』が必要だ。

 全員が廊下に出るのを見ると、ユウトも議場を出て、先の部屋に移動した。


 ユウトが名を呼ぶ。

 すると、部屋に臣下が一人、入ってくる。

 投票の札を机に並べさせる。

「お前はどの意見を選択するのか?」

 番号のついた札を一つ、前に出す。

 男性ではあったが、ゴブリンとの交渉の札を選んでいた。

 それをユウトが拾い上げ、袋に入れる。

「残りは……」

 臣下が心配そうに訊ねると、ユウトは無言で、机の端の袋に落とし込んだ。

「これでお前が何に投票したかはわからない」

 安堵したようにため息をつくと、部屋を出ていった。

 ユウトはそれを順番に繰り返していく。

 ユウトの目の前で『戦争』を選択する臣下も多かったが、概ねユウトの狙い通りに進んで行った。


 部屋の中で札を選ぶのに時間が掛かってしまう者もいて、全員の投票が終わった

時には日が落ちていた。

 城に灯りがつくと、議場にいた臣下たちは、中庭に集められた。

 ぼんやりと互いの顔が見える中、ユウトが中庭を見下ろす場所に現れた。

「投票の結果を発表する」

 声が収まり、注目が集まったことを確認すると、言った。

「ゴブリンとの人質解放交渉を進める」

 臣下達はため息が広がるだけで、驚きはなかった。

「次点にドラゴンによるゴブリン王の暗殺、得票が少なかったのは戦争だ」

 その言葉を聞いた時、中庭がどよめいた。

 ドラゴンに関する意見が一番少ないと思われていたからだ。

「ドラゴン石すら見つかっていないと言うのに」

「ドラゴンは水晶の女王にか操れないのでは」

 臣下達には誰が『ドラゴンの案』に投票したのか分からない様子だった。




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