侵入者
日が落ちる頃、東側、西側を探索していたペアが屋敷に戻ってきた。
「疲れた、とても半日では終わらない」
「それっぽい雰囲気はあるんだけど、石って難しい」
そもそも、どんな形の石なのか、誰も確かな状況を知っていない。
それでも探しているという状況も変だが、緊急事態であり仕方のない事だった。
「ハナがこんな石を見つけたけど、どうかな? これ?」
クミとハナが探していた西側に、小さい祠を見つけ、そこに飾れている石があったので持ってきたというのだ。
綺麗に角が取れて丸くなった石だ。
だが、よく河原にある石と言われればそんな風にも見える。
ハヅキに手渡されると、手のひらに置いてみる。
大きさ的にはドラゴン石と言ってもいいぐらいの大きさだ。
しかし、何も感じない。本当にこれが『ドラゴン石』だろうか?
「どう? コード変更の力が込められている?」
ハヅキは何も分からない。
「ちょっとわかりません。どこの祠か、もう一度地図を見せてください」
ハヅキはハナに地図上の位置を教えてもらって印をつけた。
「ドラゴン石かもしれないし、そうでないかもしれない」
「ハヅキたちは何か見つかった?」
「いいえ」
全員が、ため息をついた。
「今日はここまでね」
すると、スズミヤ家の従者が入ってきた。
「皆さま、お食事の用意ができました」
「そうね、今日はおしまいね」
全員がハヅキの屋敷の食堂に移動し、振る舞われた夕食を共に食べた。
食事が終わると、馬車が入り口に回され、各々が家路についた。
慣れない立ち回りをしたせいで、ハヅキは全員を見送った時には、酷く疲れていた。
「すみません、今日はもう横になります」
「すぐ支度をいたします」
従者がハヅキの部屋の支度を終えるなり、ハヅキは部屋に入り、寝てしまった。
その夜。
スズミヤ家に使える者も含め、全員が眠りについていた。
静まり返った屋敷の中に、侵入する影があった。
闇に紛れるよう、服は黒く、頭にも頭巾を被り、目だけがさらされていた。
その黒い影は『リサ』だった。
細く硬い金属を入り口の扉、鍵穴に差し込むと器用にその内部の金属を回して鍵を開けた。
玄関のホールに忍び込むと、迷うことなく左手に進み、屋敷の応接室へ入った。
月明かりがかすかに入っていただけで、部屋は見事に暗かった。
手探りでも分かるはずだと思い、リサは壁伝いに移動して、置物を触れて確認する。
「!」
触ろうと手を伸ばした時、思ったより早く置物に当たってしまい、袖を引っ掛けてしまった。
置物を落としはしなかったが、慌てて足を動かしたために、古い部屋の床が大きな音を立てていた。
気づかれただろうか。
リサは作業を急いだ。
なぜ、こんな盗人のようなことをしているのか。
彼女の狙いは『ドラゴン石』だった。
順番に、置物を確認して進む。慣れてきたにも関わらず、足元を引っ掛けてしまったり、気が付かない小さな置物を倒してしまった。
「……」
これだけ音を立てると、さすがに誰か目を覚ましてしまうだろう。
リサはさらに作業を急いだ。
微かな光を頼りに、ドラゴンの置物を見つけた。
慎重にそれを傾け、大きく開いている口を覗き込む。
指は届かない。
暗闇の中の、さらに置物の内側。
何も見えないまま、傾けていく。
ドラゴンの首が、下を向き始めると、モノが擦れて移動する音がした。
リサの予想通り、ここに何かが隠されている。
「!」
傾けたドラゴンの置物の中で、何かが『光り』始めた。
リサは置物を揺すって、口の奥、喉に入っているモノを取り出した。
ドラゴンの置物を、慌てて戻す。
取り出した石は蛍光を放っている。
これが光るということは、彼女がここに近づいてきているということだ。
リサは石を素早く自分の胸のポケットに入れた。
しかし、光が強く、外に光が漏れてしまう。
これでは自分の居場所、存在を示しているようなものだ。
扉のすぐ外で音がする。
ソファーなど調度品があるため、自分の身を隠す場所はあるが、この光を持っていたのでは助からない。
リサは石の処分をこの場で考えねばならなかった。
ハヅキは普段よりかなり早く眠りについてしまったせいか、夜中に起きてしまった。
何も見えない闇を見つめていると、ベッドのフレームが軋む音がした。
自らの体の動きとは違う、伝わってくる振動が音になったのだ。
枕元にあった木製のマスクと、グラスをつける。
そしてランタンに火を灯し、ゆっくりと部屋をでた。
今は夜中だ。
誰かを起こしてもいけない。
ハヅキはゆっくりと廊下を歩く。音は時折、ギシギシ音がする。
屋敷で今までこんな音がしたことがない。
しばらく改修をしていない玄関ホールか応接室からしていると推測した。
「……」
一瞬、誰かを起こした方がいいかとも思う。
しかし、自分の気のせいだったら……
ハヅキは一人で階下に進む。
階段の壁に掛けてある、細い剣を手に取った。
剣を習ったことはないが、小さい頃からユウト様が稽古しているところは何度も見たことがある。
ハヅキは思い出しながら、剣を振ってみる。
思ったより剣が軽く思えた。
これなら……
階段から玄関ホールを見渡すが、人気はない。
影になりそうなところにも光を回してみるが、いない。
次は応接室だ。
ハズキは慎重に近づいていく。
応接の扉を開ける。
部屋が照らされる。
ランタンの光で置物が壁に影を作り、ランタンの動きで影が揺れる。
見た感じ、人はいない。
だが物音はあった。
ハヅキはここにきて、耐えられなくなり声をあげてしまった。
「誰かいるのですか!」
ソファーの背後に隠れていないか、回り込みながら慎重に調べる。
しかし誰もない。
ハヅキが応接の一番奥へと進んだ時、応接室の扉揺れた。
「!」
人の影だ。
ハヅキは影の方向を追った。
だが部屋の扉まできて、この場で逆に襲われる可能性を考え、躊躇した。
ランタンを動かし扉の外の様子を確認しながら、慎重に扉を抜けた。
玄関ホールにくると、さっきまで閉まっていた玄関の扉が微かに開いている。
「……しまった」
ハヅキが玄関の外を見た時には、侵入者の影も気配も消えていた。




