ドラゴン石
話は三日前に遡る。
城の中で、ハヅキと従者、取り巻きの女性が五人集まっていた。
そこへユウトがやってきてちょっとした会話があった。
それはハヅキの石を一緒に探してくれるという話だった。
ユウトは去り際に、女性たちに向き直って言った。
「わかった。君たち、ハヅキがドラゴン石を探すのを手伝ってくれ。ただ、これ以上口外するな。絶対にだ」
『はい』
と女性たちは、明るく、大きな声で返事をした。
聞いたか聞いていないか、ユウトは急足でその場を立ち去っていった。
ハヅキと従者はそれぞれ一頭の馬に跨って、スズミヤ家の屋敷に向かっていた。
取り巻きの女性たちは、各々馬車に乗ってハヅキを追うように続いていく。
ハヅキは屋敷の正面で馬を降り、従者に馬を渡した。
ハヅキはそこで五台の馬車が順番に止まっていくのを、出迎えた。
ミミ、メイ、クミ、ハナ、リサ。
今日の今日まで、名前も知らない女性たちだった。
突然、親しげに話しかけてきた彼女たちが、なぜ自分を慕ってくるのか、理由がわからなかった。
だが、スズミヤ家の敷地内にあるというドラゴン石を探すことが、ハヅキ一人の手には負えないことは間違いなかった。
「さあ、どうやって探しましょうか?」
「お屋敷の見取り図や、敷地の地図があると分担しやすいですわ」
「ドラゴン石がある場所のヒントになる言葉などはないのですか?」
従者が見取り図、敷地の地図、何も書かれていない紙とペンを持ってきて、全員に配った。
それを見てハヅキが言う。
「見取り図や地図は一枚しかないので、皆さん一人一人で写してください」
「ヒントになる言い伝えとか、言葉はないのですか?」
ハヅキは木製のマスクを指で抑え、言葉を思い出していた。
「ごめんなさい。それはよく分からなくて」
「じゃあ、どんな形かとかは?」
ハズキは手を出して言う。
「この手にのる小さいものだと聞いています」
「あのさあ、なんで『石』なのに『コード』と言うの?」
その点に関して、ハヅキは城の図書で読んで知っていた。
「今は『水晶の女王』がいないですが、ドラゴン石は水晶の女王が自らの不在時の為に作り出したものと言われています」
「待ってよ、なんでそんな重要なものがスズミヤ家にあるのよ」
「水晶の女王がドラゴン石を作った時に、今、国を治めている王家はいないから、渡せるはずもありません」
その場にいる一人一人、従者の手を借りながら、動きやすい服装に着替えている。
「で、『石』が『コード』と呼ばれる所以は?」
「石の中にドラゴンを操れるようになる『コード変更の力』が込められていると言う事です」
「意味わかんない。コード変更って何?」
ハヅキはため息をついた。
「皆さんは水晶の女王が、なぜ『水晶の女王』と言われるかご存知ではないのですか?」
「水晶のようにお美しいからでしょう?」
「違います。水晶の性質を表す本質を書き換え、異世界転生してきたから彼女が『水晶の女王』と呼ばれているのです」
従者たちは着付で忙しくその言葉を聞いている様子はない。
ミミ、メイ、クミ、ハナ、リサの五人は何を言っているのか理解できず、互いの顔を見合わせた。
「やっぱ分からんわ」
「そこはほっとこう」
「もっとありかを示すようなことは知らんの?」
ハヅキは考えた。
だが何も浮かばない。
「その点に関してはさっぱり」
「まあ、いいわ、探す場所と担当を決めましょう」
ハヅキを入れて六人は、二人づつペアになり、屋敷内や敷地ないのそれぞれの担当箇所を調べていくことになった。
ミミとメイが敷地の東側。
クミとハナが質地の西側。
リサとハヅキが屋敷内と言うことになった。
それぞれが探し終えたら、まだ探索しているペアに合流する。
ドラゴン石の探索が始まった。
四人が屋敷の外に出ていくと、リサとハヅキは屋敷の中で呆然としていた。
「お屋敷の中が一番可能性高そうなんだけどね」
ハヅキは否定も肯定もしなかった。
「ねぇ、どこから調べる?」
ハヅキは答えない。
「……その調子だと話が進まないからさ。そうだ。お屋敷の部屋をそれぞれ案内してよ。それから怪しい部屋を絞り出して、その部屋を徹底的に調べる、って段取りでどう?」
「……」
ハヅキは黙って頷いた。
ようやく屋敷の探索が始まった。
まずハヅキが先頭に立って、部屋を巡り一つ一つ説明していく。
「玄関ホールです。あまり改修されておらず、五十年ほど前の様子のままだと聞きました。今となっては大きすぎ、暗すぎると思っています」
リサはホールを見回す。
「立派じゃない。伝統的出し」
二階に上がる階段が奥にあり、左右に対照的な絵画がかけてある。
階段の手すりに施された細工も古風だが、上質な感じだ。
「どうしましょう?」
ハヅキは見慣れた風景から何か新しい気づきがあるわけもなく、戸惑っていた。
「……ん、いいんじゃない。次行こうか」
ハヅキは正面に向かって左へと進んでいく。
「ここは応接室です」
「ここも調度品が古いね」
「あまり使う機会がなく、ここも改修していないと聞いています」
リサは中に入ると、ささっと周りを見回す。
「あちこち置物が沢山あって、モノを隠すには良さそうだね」
北側には大きな暖炉もある。
「私はあまりこの部屋が好きではありません」
リサは声に出さなかったが『ここで間違いない』と思った。
「何で?」
「『何か』に見られているような気がするのです。私はそもそも『見られる』ことがあまり好きではありません」
そう言われて、リサは改めてハヅキの姿を見直した。
今は、探索用に軽装に着替えている。
ドレスでは胸を押さえ込んでいたのだろうか。
女性の特徴を誇張したような、大きく丸い胸が目につく。
くびれた腰としっかりしたお尻。足も長い。
身長が高く、トータルで見れば均整は取れている。
顔はグラスをかけ、木製のマスクをしているせいで、はっきりしない。
髪は短く首の辺りまでで切り揃えていて、清潔感はあるが、見た目として良くも悪くもない。
「ねぇ、ハヅキ。視線を集めるのは、その木製マスクのせいじゃないか、って思うんだけどね」
と、リサは言った。ドレスでもこの状態のように胸が主張されていたら、そのせいで『男の』視線を集めてしまうかもしれない、という事は、思っただけで口にしなかった。
応接室の置物は北側の壁に並べられていた。
動物を形取ったものや、歴史上の英雄とされる人物だったり、と様々だった。
「これ……」
全体的な格好は首が長く、白鳥のように見えるが、鱗があり、蛇のような尾がある。
足は鷹のように鋭い爪がついた、強力なものだった。
ドラゴンの全身を形どった置物は、かなり大きなもので、彼女たちが両手を広げたくらいの大きさがある。
「ドラゴンですね」
リサだって、ドラゴンの姿くらいは分かる。
「……」
今にも口からブレスを吐きそうな、そんなリアルさが伝わってくる。
リサが見つめているにも関わらず、ハヅキは応接室を出ようとしていた。
「次の部屋に行きましょうか?」
「ええ」
そう返事をすると、ハヅキが部屋を出ていく。
それを追うようにリサもドラゴンの前を離れ、一、二歩歩いた時だった。
リサは部屋の中が変化したように思えて、立ち止まった。
「暗くなった?」
再び仄かに明るくなったと思うと、ハヅキが顔を出した。
「どうしました? 次の部屋に行きましょう」
「……何でもない。すぐいくから先に行っていて」
「そうですか?」
再びハヅキが部屋を出ていくと、リサは横目でドラゴンの置物を見ていた。
ハヅキが十分離れると、ドラゴンの置物が少し暗くなった。
誰もいない応接室で、リサはニヤリと笑った。




