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水晶の令嬢 〜転生者から持ち込まれた悪役令嬢という概念に翻弄された話〜  作者: ゆずさくら


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議場へと向かうサクラ

 シロガネ家の敷地を出ると、サクラは城を向いた。

「よし!」

 両手で頬を叩き、気合を入れた。

 歩き出した彼女の姿を、街の人々が振り返る。

 真新しい、色鮮やかな青い服。

 いつもの亜麻色で、あちこちほつれた見窄らしい服ではない。

 眉も整え、髪も艶やかだった。

 シンプルではあるが、化粧をしていて、周囲が見てた『いつものサクラの姿』とはまるで違っていた。

 周りの人々の視線に気づいたサクラは思い出していた。


 多足虫が走る際の、振動で目が覚めた。

「!」

 多足虫の綱を手放してしまっている。

 サクラは驚いて揺れている綱に手を伸ばそうとした。

 綱は誰かの手に握られている。

「目が覚めたか?」

「ユウト様?」

「君は多足虫を操りながら、寝てしまっていた」

 寝てしまった? 多足虫の上で? サクラは混乱した。

「多足虫が突然加速して、落ちたら危険な状態だった」

 そんな状態だったら……

 サクラはユウトの行動を推測した。

 横に手を伸ばしても、並行して走る多足虫の綱を取ることは出来ない。

 ……となると飛び移ったことになる。落ちたら危険な速度でそんなことをしたら、下手すれば二人とも死んでしまう選択肢だ。

「私のことなど、捨て置けばよろしかったのです。ユウト様が亡くなったら、国は……」

「君は俺の妃候補だぞ。俺が助けなかったら誰が助ける?」

 道が上り坂に差し掛かる。

 傾いた多足虫の上で、サクラの体はユウトに倒れかかった。

 背中越しにユウトの力強い筋肉を感じる。

「……しかし、国のことを考えると、正しかったとは」

「もう忘れろ。今、こうして二人で生きているのだから」

「……」

 ユウトの顔が、髪を撫でているように思える。

 少し体を捩って、後ろを見上げると、一瞬、ユウトと目が合った。

 ユウトはすぐに道の先に視線を戻す。

 グラスをしていて頼りなく見えた王子の顔が、まるで違う男の顔に見えた。

 ユウトは言う。

「今日は行きよりいい宿屋を選び、ぐっすり眠ろう」


 サクラは街を歩きながら、急に街の喧騒で意識が戻る。

 ここまで歩いてきた記憶がない。おそらく間の抜けた顔をして歩いていたに違いないと感じ、恥ずかしくなった。

 しかし、サクラは再び思い出していた。


 昨日、サクラが家に着いた後のことだった。

 城から『王子の使い』と言う者が、複数名で大きな箱とともにやってきた。

 シロガネ家に使えてきた侍従が迎えると、尋ねた。

「この荷物はなんでしょうか?」

「妃候補であるサクラ様へ、お洋服や装飾品と少額ではございますが、支度金を持ってまいりました」

「それらがこの中に」

 色褪せた館に、真新しい箱が運び込まれた。

「それでは私どもはこれで」

 王子の使いはシロガネの館を出ていく。

 サクラと侍従は顔を見合わせる。

「どのようなものが入っているのか、開けてみましょう」

 サクラは頷いた。

 二人で蓋を持ち上げ、箱に立てかけた。

 服が五着、六着ほど、別の箱に入ったネックレスや小さなティアラなどのアクセサリが数点。さらに違う箱に目一杯入れられた金貨が合った。

「これで明日の食事がなんとか用意……」

「待ちなさい。この金貨に手をつけてはいけません」

 侍従とサクラは顔を見合わせる。

「……どのみちこの程度では足りません」

「ですが、無駄にすることはできません。あの件(・・・)は一刻を争うのです」

 侍従は深く頭を下げた。

 サクラは箱に入れられていた服を取り出し、鏡の前で体に当ててみる。

「これは、先日議会で着たドレスよ」

 サクラは体を振って、ドレスの裾が開くのを鏡で確認する。

「よくお似合いです」

 鏡に映る自分の姿。

 その背後に、ユウトの姿が見えた。

「!」

「サクラ様。どうなさいましたか?」

 サクラは強い決意で鏡を見つめ直した。

 すると、背後に見えていたユウトの姿は消え去った。


 サクラは城の前についた。

 門番と共に城に使える臣下が一人、サクラを見て通すように指示する。

 城の中に入っていくと門番の近くにいたその臣下が近づいてきた。

「馬車で来られるものと思っていましたが」

「馬車壊れていて……」

 なぜこんなことを言うのか、臣下の視線で気づいた。

 サクラは街中を歩いてきたせいで、ドレスの裾が汚れてしまっている。

「壊れているなら、街中を走る馬車を借りてもよろしいかと」

「シロガネ家には、そのようなお金は」

「支度金をお渡ししたはずでは?」

 サクラ肩を窄め、返事に困ったような表情を浮かべる。

「そんなことを聞いてどうする」

「ユウト様!」

 臣下が慌てて振り返り、膝をつく。

「失礼だぞ」

 引き攣ったような顔をしている臣下。

 ユウトはサクラに向き直っていった。

「サクラ。無礼を詫びる」

「きっとこのことを言いたかったのです」

 サクラはドレスの裾を持ち上げて、見せる。

「大切な汚してしまって申し訳ございません」

「そのような細事、気にするな。すぐに綺麗にすればいい」

 ユウトは膝をついている臣下に、サクラのドレスについている汚れを処理するように命じた。

「サクラ、すぐに会議だ。議場で待っている」

 ユウトは先に城の奥へ去っていった。




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