目的地、願う
わたしが、決めた言葉を少しずつ指輪の縁と一部なか側に刻んでいく。
隣のスズネはオトナしいけれど、やや緊張しているのがわかる。
それもそう。
わたしだって緊張だ。
悪魔の眼はよく観えるとはいっても、指輪は小さく、台にうまく固定して、道具も持っていざしようとすると、手に力が入るのだ。
「も、もっと柔らかく」
「わかってる」
「力、入ってます」
「そうね」
「少し眼を離すと、位置がわからなくなる」
「はぁ」
少しだけ、手を離す。
そしてまた、スズネのセリフに戻る。
「もっと柔らかくですよね」
「わかってるけど、力が」
「入るぅ! こっちも力が」
「なんで、スズネが力入れるのよ」
「観てるとヤバいですって」
もう一回ね。
ふう。
台をたしかめて、腕を柔らかくして、力を入れすぎないように、ズレないようにしながらの作業だ。
もう何回めだろう。
ミレイが呼びに来ないから、駅までもう少しだけ時間はあるのだろうけれど、残された時間は少ない。
なんで魔列車のなかで、この作業をしようと想ったのだろう。
「わたしは、なぜ魔列車でこんな細かい作業を……」
「決まってます」
「え、なぜ」
「勢いと成り行きです」
「そうね」
「恋と一緒ですね!」
「特に気にしないけど、スズネ汗すごいわよ?」
「恋に焦ってます」
「勢いだけって怖いわよね」
「そう! 怖いんです」
「恋して焦って、悪魔もよく血の契約を焦ってしまい、とんだことに巻き込まれたりとか」
「ネネせんぱい」
「なに?」
「緊張するのはわかりますけど、わたしも汗ふきますから、早めにどうぞ」
「はぁ、繊細な作業ってどうしてこう手や肩に力が入ってくるのかしら」
「はい汗ふきますね」
「ありがとう」
恋も繊細さも上手くいかないんだわ。
ていうことを考えていても、作業は続けないといけない。
「もっと柔らかくですよ」
「わかってる」
「なんかだんだんと、わたしわかってきました」
「なに?」
「せんぱいのこの "わかってる" が、もっと聴きたいです」
「それは、よかったわね。またひとつスズネの刺さるものが発見できたわ」
繊細な細かい作業を少し揺れたり、ゴトンと揺れたりするなか、丁寧に刻む。
力は入るし、眼はなんかパシパシするし、汗はたれてくるし、スズネは、汗ふいてくれるしで、けっこう大変な作業になった。
「はぁ、せっかくシャワー浴びたのにね」
「一緒にまた浴びましょ」
「はいはい」
「力入ってます」
「わかってる」
スズネとこうして作業していると嬉しいし、意外とスズネの違う面がみられて楽しい。
でも到着する前には、とりあえずでも形をキレイにしないといけない。
「スズネそれとって」
「はい」
「スズネあれとって」
「はい」
「よく、ソレアレでわかるわね」
「愛です」
「あぁ愛ね」
「なぜ流し気味に!」
「作業がね」
「なければね」
「いや、そんなこともないか」
「ネネせんぱい」
「なに」
「わたしって歪んでるんです」
「うん」
「前は一悪魔より五十の楽しいことみたいななんか執着とかよくわからなくて」
「破滅てきね」
「でもいまは、何名かの悪魔には徹底して好かれていたくてたまらないんです」
「うんうん」
「最近でも、いい意味でも悪い意味でもその執着に、なっていて、一瞬悪魔なわたしがいるんですよね」
「スズネはそれでいいんじゃない、悪魔なんだから」
「悪魔なんですけどね、悪魔心と女は悩ましいんですよ」
「そっか」
「ええ。でも、わたしホントこのままでいいのかなぁ」
スズネは、そのままでいいと想う。
それは、ホントにそう想っている。
ミレイのまっすぐな愛情やスズネのそれは、わたしがなかなか手に入れられないものだ。
いまもまだ、わたしは迷う。
どうすれば、ヒイロやアマツキ、スズネのように、手を伸ばせるのだろうか。
ワガママとは違う。
そう、いま刻んでいる願いのような光のようなものだ。
もう少しでできる。
目的地ももう近くなのだろう。
なんとか到着までには間に合いそうだ。
「ネネせんぱい」
「うん?」
「ありがとうございます!」
「え、なに?」
「懸命にしてくれるお礼です」
「わたしのは趣味と実益と兼ね合わせてあるから」
「たしか、販売も少ししてるんですよね」
「けっこう好評よ。ここ最近は在庫だけだしてあって、新しいのは作成できてないわね」
「ネネコレクションみてみたい」
「ああ、少し持ってきてるのもあるから、あとでね」
「作業もう少しでおわりだね」
「そうね、けっこうな時間かかったわ。でもいい出来になりそう」
「力だいぶ優しくなった」
「スズネのおかげだわ」
「え、なんで」
「隣で紛らわしてくれるから、通常より楽しめたかも」
「へぇ、またお邪魔しよっかな」
「うん、いいわよ」
スズネが、いてくれてよかった。
ここの場所でも集中できたし、久しぶりの作業でなんだか心地よかった。
「ネネせんぱいは、そうやって集中してるとカッコいいし、クラフト観てられるの嬉しい」
「そう? スズネもホントは器用でしょ?」
「え、わかります!?」
「いつもヘアスタイルも変えてくるし、小物もいいわよね」
「へ、へぇ、そんなに、わたしのことみてくれてたなんて……照れる」
「なんだ、もっとほめようかしら?」
「い、いいです! 充分です」
「照れてる? いつもそんな感じなら、もっとほめてもいいわ」
「い、いいです、いいです」
あとは、こうして、これで、こうでとほぼ完成ね。
「はい、どう? あとは、魔力付加を調整するけど、いい感じじゃない?」
「うわぁ、すごいよくなった」
「でしょ?」
「え、ネネせんぱいの周りのって、いつもこうやってるんだよね」
「そうそう!」
「うわぁ、いいなぁ」
「ふふっ、魔力付加するけど、スズネもやる?」
「いいですか?」
「ええ、一緒に!」
"ねがい"
"ひかり"
" "
「あ、付加ってどうやるの」
「そうね、いま体内魔力を調節しているでしょ」
「うん」
「それとは逆で、調節しているものを、触っているものに集めるようイメージして」
「それから」
「夢をみているときのように、そのイメージをできるだけ具体的に表面をつくって」
「それから」
「あとは、一気に魔力を放つ」
「わかった! できるかな」
「わたしが補助スキル足すから平気」
「わかった!」
"ねがい"
"ひかり"
" "
「いくよ」
「お願い」
わたしの中心から魔力補助と付加を同時に進める。
スズネも隣で集中しているのがわかる。
いけるいけるはず。
あぁ、でも魔列車内だからか、吸収調整しながらの放出にはバランスが必要だ。
魔力集中しつつのイメージの構築に時間がかかる。
調整とイメージ、放出とイメージ
集中ね。
集中。
うう。
集中を繰り返していると、
だんだんと違う世界が観えてくる。
そういえば、ミレイも未来視しているときには、どこか遠く違うところをみている表情になる。
少しずつ魔力のイメージが固定化されると、瞬間指輪の周囲に魔力の色や形がみえる。
でも、それはすぐに消えてしまう。
できたらしい。
スズネとわたしの余分な魔力が拡散されていく。
「付加するときのノイズが発生するかもと想ったけれど、上手くいったわ」
「え……うん」
「どうしたの、スズネ?」
「……なんか、いま違う景色を観ていました」
「あぁ! わたしのスキルをスズネにも流していたからだわ。スキルの共感作用ね、たぶん」
「ネネ……」
「どうしたの? なんか、ひどく驚いてるけど」
「驚くっていうか、寂しい……」
「なんのこと?」
「ううん。いえ、うん、平気です」
「そう、わかった」
ミレイが呼びにきた。
目的地に着いたみたいだ。
「これで完成。はい、お受け取りください」
「ありがとうございます。それでは、ネネせんぱい、改めて手を出して」
「うん、いいけど?」
「悪魔ネネせんぱい、わたしの願いです」
「えっ」
「どうか、わたしの願い受け取ってくださいね」




