水の洞窟より
「海だぁ」
「うみうみ~」
「うみだね」
「海ってうみだね」
「うみって」
「うみぃ」
なにか目的地を忘れている気がするけれど、きっと気の所為なのだろう。
たしか魔列車が駅について、荷物を抱えて、駅舎からでてみると、視界に海が目に入ってきたことは覚えている。
そして、気づくとみんなで海の波音のする方向にいった。
荷物を階段ふきんに置くと、ヒイロとアマツキ、スズネがハシャいで、海の近くまでいったのを見届けた。
「水着持ってくればよかったかなぁ」
「海みると、入りたいよね」
「わたしは、入りたくないわ」
「ミレイどうして?」
「ええ、まぁ、ちょっとね」
「あぁ、ねぇ……まぁ」
「なにかあったの?」
「「なんでもないわ」」
わたしとミレイは、一緒に同じことを想いだしたみたいだわ。
そう、それはもう遠い記憶。
「わ、わたしは入りたいけど、水着がね」
「メディは?」
「観てるのは好きだけど、泳ぐことは考えなかったなぁ」
たしかに、メディの荷物のなかに水着や遊びものが入っているとは思えない。
遊びものが入っていたとしたら、かえってわたしは、体調でも悪いのかと疑ってしまうかもしれない。
「スズネいいわね」
「なんか、ヒイロとアマツキとスズネがいると、観ていていいわよね」
「ねぇ」
「おいおい、ミレイもネネも、少し前まではあんな感じだったよ」
「ええ! わたしたちは、いつだってオトナなゆったりした暮らしよ」
「そうね、メディ幻よ」
「プールいったり、ライブいったりしたような?」
「プールなつかしい」
「エ○かったわね」
「覚えてるじゃん」
「「わすれるわけないわよ」」
「よくわからないな」
「わたしたちは、そのときから魅力あるいい感じだったって話しよ」
「そうそう」
気づくと、スズネが近くまできていた。
「せんぱいたち」
「うん? どうしたの」
「海入らないですか?」
「水着がね」
「そうそう」
「ここの辺で」
「ふ〜ん? ヒイロとアマツキが楽しいよって」
「いいよ、楽しくて」
「そうそう」
「もしかしてですけど、前になんかありました?」
「え、いやだ、そんなこと」
「ないない」
「あぁ、ナンパされたんですね」
「え」
「あとは、魔海月にからまれたとか」
「え」
「砂かぶって泥だらけとか」
「え」
「そっか、それでね、うふふ」
「ち、違うわよ」
「誤解ね」
「お持ちかえりされたとか」
「「そしたら、そいつ生きてないわ」」
「じゃ、ほかのやつなんですね」
ヤバい。
スズネの追求で、地味にダメージが積み重なる。
あまりメディの前で話したくない内容だわ。
やっぱり水着持ってきて、先に入っちゃえばよかった。
「メディせんぱい」
「なに」
「じゃ、一緒にいきましょ!」
「いや……」
「そのままでいいですよ、あとで乾かしましょ」
「その……」
「ほら、はやく!」
スズネがメディの腕をとり、サッサと海に向かってしまう。
それは、それでヤバい。
「ああ! もう、待って」
「ネネいくわよ」
「もう!」
キャッキャッ
ウフフ
キャッキャッ
ウフフ
してるのは、ヒイロとアマツキとスズネで、スズネがメディを連れまわして歩いて、その少し後ろを微妙な気持ちでわたしとミレイが歩く。
靴は脱いで、手にもち裸足になった。
「たしかに、景色いいわ」
「海みてると」
「微妙な気持ちになるわね」
「そう」
季節がはずれているのか、あまり悪魔たちは少ないけれど、それでも何組か水着でパラソルのグループやビーチボールで遊んでいるカップル、家族で果実バーベキューをしているのがいる。
「ま、せっかくだしのんびりしましょ」
「そ、そうね」
ヒイロとアマツキは、手を繋いで波打ちぎわで足を濡らしたり水をかけあったり、足元にあるものを発見したりして、にこにこだ。
メディも水がくるぎりぎりのそばまでいき、スズネがハシャいでいるのを隣で観ている。
「スズネは、よくくるの?」
「いやぁ、初めてじゃないっすかね」
「そうなんだ」
「あ、荷物置きっぱなし」
「平気だよ。いちおう黒鉄に頼んであるし」
「あぁ、クロクロもこっちにくればいいのに」
「鳥は水ニガテじゃないかな」
「えぇ、そうでもないとおもいますよ?」
「黒鉄が水浴びしてるのを観たとき以外は、あまり水イメージがないな」
メディが話す内容は、ときどきよく観ているなぁと思うときがある。
「ネネせんぱいは、水キライですか」
「えぇ、悪魔で水好きなのいるの?」
「羽濡れるわね」
「乾かさないと、上手く飛べないし」
「塩水とか、べとつかない」
「なんか、ずいぶんとマイナスな感じが。ほら、ヒイロもアマツキも楽しそうですよ」
「楽しめるっていいわよね」
「いいわね」
「ほら、もっとこっちきて」
「ええ、やだ」
「ネネせんぱいもミレイせんぱいも、なんだか子どもっぽいです」
「スズネに、それ言われるとなぁ」
「ねぇ」
「ミレイもネネも、海楽しんで」
「メディは、いいわ」
「いいわよ」
スズネが、一瞬ジーッとみたあと、
ヒイロとアマツキのところまで駆けていく。
「ねぇ、ヒイロ、アマツキ」
「なに?」
「ネネせんぱいが一緒に遊ぼうって」
「えっ! ほんと?」
「そうそう」
わぁい、と言いながら、ヒイロとアマツキが突進してくる。
避けるわけにもいかないで、受け止めるも、砂浜なため足がすべって倒れてしまう。
ミレイは、見てるだけだ。
「もう! いた……くはないけど、スズネ!」
「ふふふ」
スマホを取り出して写真を撮っている。
悪魔だ。
「ネネは水ニガテなの?」
「ネネは水いや?」
ヒイロとアマツキが、なぜかかわいく訊ねてくる。
「そんなに、かわいく言われても……」
「ネネは、海いや?」
「ネネは、海楽しくない?」
「いえ、その……」
スズネは、満足したようにこちらをみている。
悪魔だ。
「そ、そういうわけじゃないの。海は、いいよね」
「うん」
「そうだよね」
言わされてしまった。
はぁ、とため息をつく。
別に、キライじゃない。
水着きて泳ぎたいし、魔海月もけっこうかわいいのだ。
メディにくっつきたいし、もっと誘惑したい。
うみぃって叫べば、すっきりするのだろうか。
「鯨やイルカもいるかな」
「いるいる」
「魔力を帯びてるけどね」
「悪魔は、あまり海移動はしないよね」
「それぞれ、エリアの担当もきっちりしてるし物資を送るとか、あとは、よほどアクシデントがなければ、転移してるからね」
「でも、船はあるわよ」
「魔船だけどね」
「ま、まふね!?」
ヒイロとアマツキが、再び眼をキラキラさせている。
「船のったことない!」
「いまいるの!?」
「いまは、見えないね」
「なんだぁ」
「そっかぁ」
ヒイロもアマツキも、観るものが新鮮らしく走ったり転んだり、水をかけあったりいそがしい。
「メディはある?」
「船はあるけど、魔船はないね」
「そうなんだ」
「やっぱり魔力を吸収して進むの」
「そうよ」
「小型ならいいわ」
「揺れるけどね」
「大型はきついわ」
「魔力の量が、けっこうきついのよ」
わたしもミレイも、そこそこいろんな場所にいったからか、魔動力の動くものには、かなり乗ってきた。
でも、羽があるから、あまり魔船にのる機会は少ない。
もっとも、魔力酔いと揺れる酔いのダブルでくるため、スキルで新たに平衡感覚などを追加する悪魔もいる。
「あれはきつかったわね」
「飛んだ方が増しだわ」
「なんで乗ったんだったかしら」
「なんでだろ」
あまり、ヒイロとアマツキが、魔船に興味を持たないほうがいい気がする。
旅するには、魔船だよねとか言いそうだ。
波打ち際を歩くと、貝殻や落ちていた小さなものを拾う。
ヒイロとアマツキが同時にかがみ込み、二つの水の魔結晶を拾った。
拾ったそれが、ヒイロとアマツキの手のなかで、キラリとひかる。
「これ、魔結晶だね」
「不思議な色」
「水場の近くとかには、よくできるのよね」
「あ、でも魔力がけっこうあるかも」
ヒイロとアマツキが、欠片となるそれを合せると、瞬間淡く光った後に、それはくっつく。
「あっ!」
みると、前に手渡された水のビンが今度は、淡く光っている。
「水の結晶に反応するのね」
ふっと、波打ち際の先を観ていくと、手にある魔結晶と同じ色に、薄い路ができている。
「くろくろぉ」
スズネが黒鉄を呼ぶと、スズネのバックを抱えて黒鉄鳥が飛んでくる。
スズネは、受け取りなかから、中くらいのボトルを取り出している。
「これ、路だよね」
「ボトルにしまっていい?」
「うん」
ヒイロが持っていてくっついた魔結晶をボトルに収めてから、ヒイロに渡す。
「水の魔力に反応してる」
「妖精かな?」
「どうだろ」
「道あれば」
「進もう」
淡い色で光の路ができているなかを進んでいく。
砂浜を進んだ先、大きな岩の影の向こうまで、続いているようだ。
ヒイロが持っているボトルを先頭にして、アマツキも隣を歩いていく。
なんだか楽しそうだ。
「どこまで進んでるのかな」
「水の魔力に惹かれてるんだから、水があるんじゃないかな」
「海だもん、水だらけ」
「海の向こうまでいかないよね」
「水着持ってくればよかったね」
荷物の見張りは黒鉄鳥たちに任せて、進んでいくため、できれば海に潜るのはやめてほしいのだけど、
もし海の中だったら黒鉄鳥たちは、入ってこられるのだろうか。
「岩の先なんだけど」
ヒイロとアマツキが立ちとまる。
入れなくはないけれど、水のなかを進んでいくか、岩を登るか。
「登る?」
「あ、まって」
後ろを歩いていたミレイが、少しずつ後ろに下がる。
なにか見つけたのだろうか。
「どうしたの?」
「岩と岩の間が、なんか変なの」
「変って」
「こっちきてみて」
ヒイロとアマツキが、少し戻ってミレイの側にくる。
たしかに淡い光の先は、岩の向こうだけれど、岩を通るのに、道があるのかもしれない。
「どこのことかしら」
「ほら、岩とあの青っぽい岩の影になる、ところ」
よく見えないけれど、ミレイは視力をおとすために眼鏡をかけるくらいだから、
なにか変化が解るのかもしれない。
「少し岩を伝ってみましょう」
ミレイの提案の通りに、ヒイロとアマツキが、岩まで近づいて、そのあと海から少し遠くなりつつも歩いてみる。
「ミレイは、探検慣れてるわよね」
「探検っていうか、ほら違うところ探すのって、なにか楽しいわよ」
「そっかぁ」
「男の子の変化とかも観てると笑っちゃうときあるし」
「どこ観てるのよ」
「羽とか髪の変化とか、服装もよく観てると楽しいわよ」
「え、そ、そうなんだ」
「ネネは、あまり観てないでしょう」
「こ、これからは気をつけるわ」
ヒイロとアマツキが岩と岩の間をスッと入っていき、みえなくなる。
「あれ、ヒイロ? アマツキ?」
「…………こっち」
「え、どこよ」
「上」
「うえ?」
ススッとアマツキの顔が岩の向こうにみえる。
「そこ狭くない?」
「ううん、階段がある」
「階段?」
「いいから、入ってみて」
「こわいなぁ」
「少し狭いから、ゆっくりとだよ」
「やっぱり狭いのね」
「いいから」
ヒイロとアマツキが、声だけになるため、仕方ないとわたしから入っていく。
せま。
かがみ込み入っていくと、羽が当たりそうで縮める。
まだ小さくなる。
明かりも少なくなり、頭や腕をぶつけそうになる。
「いたっ」
足をぶつける。
「よくここ入ったわね」
「メディ平気?」
メディは、まだ後ろにいるらしい。
それもそうか。
狭いからゆっくりとになる。
左に曲がり右に曲がり、なんとなく手探りで歩くと、急に開けて階段があった。
「いや階段じゃん」
ヒイロが少し遠くからなにか言っている。
たぶん、まだかなって呼んでいる。
「ヒイロぉ」
まだこちらの声は聴こえていないらしい。
狭い階段を上っていき、明るい場所にでると、すぐにアマツキが顔をみせた。
「ネネ、ぶじ?」
「ここ、よく入ったわね」
「階段あったでしょ」
「階段だったわ」
「妖精いない」
「そっか」
すぐに後ろから声がするため、下をみるとメディの顔がお尻近くにあった。
「め、メディ!」
「ネネもう少し先に」
「あ、そうだよね」
よく観てみると、あとにミレイも続いていて、先頭がわたしだった。
アマツキの手をかりながら、上につくと見晴らしがよくなった。
「わぁ」
「さっきより景色いいよね」
「うんうん!」
ヒイロとアマツキが、みんなを順番に上に案内する。
「さっきの場所どこなの」
「少し下のあそこ」
観ると、なんとなくみんながさっき着けた足跡が、まだ残っている。
「はぁ、岩の上にまだ路が続いてるんだわ」
「ミレイ平気」
「うん平気、すぐ治るわ」
ミレイは、どこかにぶつけてしまったらしい。
メディが傷の場所をみている。
あとから、スズネがササッとなにやらお水で洗ってそのあと塗り薬をつけている。
「そんなの持ってきたの?」
「必需品っす」
「貴女だけよ。持ってくるの」
「マジっすか」
「まじまじ」
「へへ」
「スズネってギャルサバイバーだったのね」
「生存戦略」
「競争って戦略よね」
「サバイバーってなに?」
アマツキが、ミレイの傷痕をみながらきく。
「いわゆる生き残るために工夫して、周りが死滅しても、最後まで闘う戦士かしら」
「スズネって闘う戦士だったんだ」
「すごい」
「いや、誤解っす」
「戦士って、闘うんだよね?」
「だれかと闘うのね」
「いや、誤解……」
「すごい! すごい!」
「ミレイせんぱい、誤解が拡散されてます」
「いいじゃない、いい誤解もあるわ」
「あの、ギャル戦士になっていい誤解とかある」
「あり」
「あり、なのか」
「ありあり」
「そう、なんすかね」
「ギャル戦士ってかっこいい」
とりあえず、ヒイロが先に行きたそうなため、そのまま歩いていく。
岩の上に路が続いていて、まだ先がある。
やや塩っ気があるのは、海のせいなんだろう。
「先にいくよ」
「うん、いこ」
アマツキとヒイロがまた歩きだす。
「ねぇ、もしかしてなんだけど」
「うん、なに」
「前から、こんな感じでアマツキと歩き回ってるの?」
「どんな感じ?」
「いえ、あの」
「うん、こんな感じだよ」
アマツキが返事をする。
岩をいくつか越えていくと、また砂浜が続く。
少し景色は違うものの、海の側を少しずつ
歩いていくことになるみたいだ。
それにしても、ヒイロとアマツキは、わたしたちと離れている間、こんな冒険をしていたのか。
何度か離れた行動はしていたものの、普通に散歩したり、少しなにか買ったりするくらいかと想っていたのに、まさか岩登ったり穴のなか入ったり、危険もいっぱいらしい。
わたしの小さい頃は、クラフトに夢中でその材料探しをするか、あとは、ミレイがついてきてまだいまほど正確でない未来視で、なにやら怪しいことになったことが何度もあるくらいだ。
そう何度もあった。
想い出すのは、やめておこう。
「ミレイせんぱい、足平気ですか」
「うん、なんてことはない」
「まだお水ありますからね」
「わかった」
「ヒイロ、進みすぎないようにね」
「わかってる」
スズネが、随分とお世話やきになっている。
さっきの挽回なのかもしれない。
ギャルはやめたくないらしいけれど、サバイバーではありそうだ。
反対に、メディはなんだかボーッとしている。
海を眺めていたり、ときどきスマホをみたり。
もしかしたら、仕事のことかもしれないし、それはそれで、心配になる。
ヒイロとアマツキが、なにか発見したらしい。
下におりる小さい洞窟だ。
少し急になっていて、階段はない。
どうやって降りるのだろう。
ヒイロの持っている目印しは、洞窟のなかを指している。
淡く光っているけれど、その先は見えない。
「これ?」
「おりる?」
「うん」
「だよね」
なぜ、そんなヒイロとアマツキは楽しそうなのか。
わたしは、嫌な予感しかないのだけど。
「そっか、降りるのね」
スズネにもらった指輪が、キラリと日差しを受けて光る。
洞窟でなくさないようにしないと。
まさか、わたしとスズネと付加していたアクセサリーのひとつが、わたしへのプレゼントだとは、思わなかった。
指輪を触る。
どこか、スズネの魔力を感じる。




