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「や、やあ……グレンさ……ぐはっ、げほっ……」
無理に言葉を捻り出したせいで喉の奥がひくりと痛んだ。
グレンに敬称をつけるなんて自分でも気分が悪い。だが、ここで敵意を向けるわけにはいかない。
「さ、さっきはどうも……。そしてヒューズさんも……。これからよろしくお願いします……」
「黙れ。俺に話しかけるな」
「……よろしく」
短い返答だったが、ヒューズは一応応じてくれた。
グレンとは正反対だ。無愛想ではあるが、理性はある。
「え、ええと……トライアングル・フォーメーションは、ユリエさんが中央で……前方を僕とヒューズさん、後方をグレンさんが──」
「は?」
グレンが低く鼻で笑い、言葉を遮った。
「お前が後ろだ。この隊の最後尾を護れ」
「……え?」
即決だった。
後方担当。
つまり、最も狙われやすい位置。
ユリエが中央なのは理解できる。
だが、何の経験もない自分が最後尾……。
「グレンさん、待ってください!僕一人で後方なんて、後ろから攻められたら──」
「死ね。だが死ぬまで護れ。それがお前の役目だ」
「……これでいい」
ヒューズも淡々と同意する。
言葉が詰まる。
反論したいが、理屈では覆せない。
「ユリエさん!せめて──」
「ちょっと静かに……!」
低く鋭い声。
ユリエは周囲に意識を集中させ、わずかに手を上げて制した。
今は口論している場合じゃない。
敵はもう近くにいるかもしれない。
「フォード、中央の確認を頼む」
「了解」
隊長の指示で、フォード達四人が霧の奥へ消えていく。
「グレン、ヒューズ、レン。後方は任せた。どこから来るかわからん。油断するな」
「……はい」
僕は歯を食いしばり、拳銃を構えた。
霧の中を進むにつれ、街並みがぼんやり浮かび上がってくる。
焼け焦げた建物、崩れた外壁、そして、今でも焦げた鉄の匂いがところどころに残っていた。
ここは一年程前、スペクターによって壊滅した街。
“終焉の日”の戦場跡だった。
人の気配はなく、死んだ街が静かに横たわっている。
「市街地に入った。警戒を怠るな……フォード、中央はどうだ?」
隊長が無線に呼びかける。
だが、返事はない。
「……中央のフォード達は?」
誰かの声が震えた。
次の瞬間、嫌な予感が背筋を貫く。
さっきまで確かにいたはずの四人の姿が消えていた。
「……はぐれたのか?」
「それとも……」
「うわあああぁぁ!!!」
悲鳴。
「ジェイク!?どうした!」
「ぜ、前方に……います!た、たくさん……!!」
叫びと同時に、前方の霧が割れた。
現れたのは、青黒い四足歩行の怪物達。
体高は二メートルを超え、黒い眼がぎらついている。
剥き出しの牙と爪が霧の中で鋭く光った。
まるで猛獣を悪夢のように歪めた姿だ。
『グゥゥゥ……ワォォォォォン!!』
視界いっぱいに迫る牙。
震える手で拳銃を構えたその時──。
「前だけじゃない!後ろにもいるぞ!!」
「クソッ、囲まれた!全員撃て!!」
銃声が一斉に響いた。
戦場の幕がついに切って落とされた。
『ダダダダァァァン!!』
逃げ場はない。
耳をつんざく轟音。
火花と咆哮が霧を切り裂く。
そして僕はまだ知らなかった。
この瞬間こそが、本当の地獄の始まりだということを。
次回に続く




