第9話 ジェミニ
「や、やあ、グレンさ……グハッ、グハッ、ん……」
思わず血反吐を吐いてしまった。グレンにさん付するなんてはらわたが煮えくり返る。しかし落ち着くんだ……。ここは我慢だ……。
「さ、さっきはどうも……。そしてヒューズさんも……。僕の名前はユウガミ・レンです、よろしくお願いします……」
「黙れ、俺に話しかけるんじゃねえよ」
「よろしく」
やっぱこいつ嫌いだ!グレンめ。でもヒューズの方は挨拶してくれたぞ。口数は少ないがヒューズは良いやつなのかもしれない!
「アハハハ、え~とトライアングルフォーメーションはユリエさんが真ん中で僕達はそれぞれどの配置にしましょう?個人的には後方はグレンさんにお任せし、前方は僕とヒューズさんでいいんじゃ……ないですか?」
「は?何言ってやがる、お前は後ろだ、この隊の最後尾を護るんだ!」
グレンが僕の言葉を遮った。
「え、は、はい?」
ドドーン フォーメーションが決定した。
ええぇぇぇぇ!!!
僕がこの組の後方で隊の最後尾だってぇ?
おかしいなぁ。
ユリエさんが真中、それは問題ない。でも何も出来なさそうな僕が後方を護る?グレンとヒューズは前方!?
これ、俺大丈夫か?
「アハハハ、グレンさん。最後尾、僕一人って、後ろから攻められたらこれ死んじゃいますって、僕……。ヒューズさんも何か言ってくださいよ……」
「ああ、死ね!お前は最後尾を死んでも護り抜け!お前がこの組の後方にいくんだ!」
「これでいい」
こいつらやっぱり嫌いだあぁ!!ヤバい、こいつら僕を死なせるつもりだ。
はっ!
そうだ、ユリエさん!
「ユリエさん、彼らのどっちかが後方の方が良いと思いませ──!?」
「ちょっと静かに!」
僕の言葉はユリエさんにさえぎられてしまった。
僕の提案、そんなことは今はどうでもいいように彼女は周りの気配に集中していた。
そうだった……。こんなことで争ってる場合じゃなかった。僕達の行く手には憎い敵が待ち構えているんだ。今は周りに集中しなければ……。
それに僕とユリエさんの隊は後方だから、後ろから攻めてこられない限り安全だろう。
「フォード、お前らの組は中盤を確認しろ」
「了解」
アレックス隊長は鉢巻を締めているフォードと他の3人の部下に中盤を任せることにした。隊員たちはそれぞれの役割を引き受けた。
「レン、お前とグレンとヒューズに後方は任せた。敵はどこから攻めてくるかわからん。油断するなよ!」
「分かりました……。もうこうなったらどこからでもこい!」
僕達は静まり返った中、銃を構えゆっくりと進んで行く。しばらく進むと辺り一帯焼け野原となった街が現れ、かすかに焦げ臭い匂いが残り目を凝らすと今にも崩れ落ちそうな建物がところどころにあちらこちら見えた。
僕達はすでに市街地に入っていたのに霧のせいで全く見えていなかった。そこは一年程前、謎の地球外生命体によって破壊された街だった……。あちらこちらで煙がまだくすぶっていた……が、それにしても、人の気配がしない。まるでゴーストタウンだった。
「市街地に入った、みんな警戒しろ。それと、おい、フォード。中盤はどうだ、何か見えたか?」
隊長は後ろを振り向きフォード達に声をかける。
でも何かがおかしい。
「あれ?中盤にいたフォード達は?」
隊員の誰かがそう言う。
先程まで僕達の前にいたフォード達の姿は見当たらない。
「どこに行ったんだ?はぐれたのか!?それともまさかやつらに殺られたのか!?」
そう言って僕達が周囲を確認した途端……。
「うわああぁぁ!」
「どうしたジェイク!?」
隊長が隊員の名を叫んだ。
「ぜ、前方に!い、います!たくさんいます!!!」
前方で隊長と同じ組で行動していたジェイクが叫ぶと、他の隊員も正面の謎の生物に気づき悲鳴を上げた。
大きさは二メートル以上で黒い目玉はギョロリと見開き青黒い体をした四足歩行の生き物があちらこちら歩いていた。
人間ではない事はわかった。
犬か?いやライオンか?手足の爪は五センチメートルくらい、牙は十センチメートルほどもあり猛獣のような口をしていた。
『ぐぅわわわわぉぉぉ~ん、ぐぅわぉぉ~ん』
「うぎゃあああ!!!」
あまりの驚きに僕は変な叫び声を出し、地面に転んでしまった。
いなくなったフォード達はこの化け物たちにやられたのか!?
そしてそいつらは黒い目で僕を睨みながら鋭い牙と爪を向け、僕の所に近寄ってきた。その時、
「レン君、立って!」
一瞬恐怖で立ち上がれなかった僕はユリエさんに呼ばれ腕を掴まれた。
「ご、ごめん!」
あわてて立ち上がり、震えながら拳銃をそいつらに向けた。と同時に周りのみんなが騒ぎ始めた。
「前だけじゃないぞ!後ろにもいるぞ!」
「クソっ!囲まれたぞ。全員撃て!!」
絶対絶命のピンチ!
『ババババァァ~ン───!!!』
隊長が合図を出すと一斉に銃声が鳴り響いた。
次回に続く