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これから戦うというのに、僕だけ武器を持っていなかった。手ぶらもいいところだ。
……いや、待て。
まだ希望が残っているかもしれない。腰に掛けられたサイドポーチの中に何かあるはずだ。
祈るような気持ちで中を探った。
「……嘘だろ……?」
指先が掴んだのは百円ショップにありそうな安っぽい懐中電灯ただ一つ。
「あああぁぁぁぁぁぁ!!!」
ふざけるな!
これでどうやって戦えと言うんだ!?本気なのか!?
僕が頭を抱えて叫ぶと、隊長が眉間に深いシワを寄せながら近づいてきた。
「お前、急に大声を出すんじゃねえ!びっくりしただろうが!」
「ア、アレックス隊長!ぼ、僕の武器がありません!」
「知らん!全員武器は受け取っているはずだ。お前は何をやっていた!」
「ど、どうして……どうしてこんな……!」
隊長は深々とため息を吐き、呆れを隠そうともしない。
周囲の兵士達の視線は冷たく、グレンに至っては〝お前は足手まといだ〟 とでも言いたげに睨みつけてきた。
その時──。
ユリエが一歩前へ進み、申し出る。
「アレックス隊長、レン君には私の拳銃を渡します」
静かだが、芯のある声だった。
「だがユリエ。お前の拳銃は一丁だけだろう。俺のライフルは貸せんぞ」
そのやり取りを聞きながら、僕は思い出していた。
車内で交わされていた兵士達の会話や、断片的に耳に入ってきた話を。
今の戦況では物資も資源も慢性的に不足している。
武器の生産や補給は追いつかず、前線に回せる装備は最低限しかない。
そのため、支給される武器は隊員一人につき一丁のみ。
余剰など最初から存在しなかった。
「問題ありません。私は衛生兵です。基本は後方に下がっています。前衛に仲間がいる限り、敵が私に到達する可能性は低いです。だから……私は治療に専念します」
そう言うと、ユリエは太ももに装着していた拳銃をためらいなく引き抜き、そのまま僕へ差し出した。
隊長はしばらく黙り込み、細めた視線で僕を見据える。
「……いいだろう。ただしレン。ユリエに危険が迫ったときは、お前が命に代えて守れ。それができるか?」
「……はい……!」
ユリエは短く頷き、拳銃を僕の手に押し当てた。
「……レン君。これを。弾は十七発よ」
「……ありがとうございます」
「使い方はわかる?」
「……す、すみません……全く」
「わかった。手短に説明するから、しっかり聞いて。まず、両手で──」
※※
彼女は落ち着いた手つきで構え方を教え、僕の指を軽く添えて動かしてくれた。
地上へ出れば、命を落とす可能性のある状況だというのに、彼女の指導は驚くほど丁寧だった。
「最後に一つ。撃つ前に必ず安全装置を外すこと。忘れないで」
僕は小さく頷いた。
百年前から進化した銃器を想像していた僕は、レーザーでも撃てるのかと思っていたが、意外とシンプルだ。これなら扱える。
僕は拳銃と弾倉二つを受け取り、胸の前で強く握りしめた。
「僕はユリエさんのそばにいます。だから何かあっても大丈夫です!」
「うん……」
返事は短く、彼女の表情には不安の影が落ちていた。
「ユリエさん、大丈夫ですか?」
尋ねると、彼女は突然僕の手をぎゅっと握ってきた。
「ど、どうしたんですか?」
「ごめんなさい……少しだけ、このまま手を握らせて……」
彼女の手は小さく震えていた。
……そうか。
怖いのは僕だけじゃない。
ユリエさんも、皆も怖いんだ。
ただ、それを必死に隠しているだけなんだ。
「……終焉の日に出撃したのが、この第三地上エリアだったの……。街は突然炎に包まれて、私と……あの時、一緒だった女の子と、グレンとヒューズ以外は全員死んだ……!」
ユリエは一度、言葉を切った。
小さく息を吸い、震える声で続ける。
「私は怖くて何もできなかった……。グレンのお姉さんも仲間も、私達を逃がすために犠牲になって……。だから今回も同じことが起きるんじゃないかって……震えが止まらないの……!」
彼女の声はかすれ、目は揺れている。
グレンの姉や仲間を失った恐怖を抱えながら、それでも彼女は今もここにいる。
未来に蘇ったばかりで何もわからない僕に、自分の命を削る覚悟で、唯一の武器を託してくれた。
僕よりずっと過酷な思いを背負っているのに……。それでも僕を気にかけ、守ろうとしてくれている。
……それなのに。
僕は自分の身の安全ばかり考えて、逃げようとしていた。
そんな自分が、心底恥ずかしかった。
ユリエさんを死なせたくない。
彼女が守ろうとしている仲間も、守りたい。
……全員を助けたい。
僕は彼女の手をしっかりと握り返した。
「ユリエさん……こんな僕なんかに親切にしてくれて、本当にありがとうございます。あなたは……未来で僕が初めてできた友達です」
「……私なんかが、友達……?」
「はい。だから──」
僕は一度、言葉を区切った。
「僕は……あなたを死なせません。まだ戦える自信はありません。でも……それでも、必ず守ります」
自分が弱いことは、嫌というほどわかっている。
守られる側でしかないことも。
それでも、弱いままではいられない。
僕は、強くなる。
ユリエはかすかに微笑んだ。
「レン君……ありがとう。気持ちが少し楽になったわ」
彼女の手の震えはいつの間にか止まっていた。
放した指先にかすかな温もりだけが残る。
「もし、あなたに何かあったら……その時は私が必ず助ける。だから……お願い。死なないで。一緒に帰りましょう?」
「大丈夫です。僕は絶対に死にません。……あっいや、一度は死んでますけどね。でも何があっても、必ずユリエさんを守ります!」
「ふふっ」
ユリエは小さく笑った。
「ありがとう。……頼りにしてるわ」
その直後──。
『ゴゴゴゴゴゴーン───ドッゴーン───』
重い衝撃と共に、エレベーターが地上に到達した。
アレックス隊長が扉の前に立ち、号令を放つ。
「総員、油断するな!人類の未来のために、行くぞ!!」
「人類の未来のために!!!」
声が重なり合い、僕も全力で叫ぶ。
そして僕達は、ついに地上の扉を開いた。
そこに待つのは、ジェミニか。
それとも、人知を超えたあの存在か……!?
次回に続く




