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エレベーターは轟音を立てながら、ゆっくりと地上へ向かっていた。
広すぎる空間に、乗っている人数はあまりにも少ない。
到着までは、まだ時間がかかりそうだ。
僕は隣に立つユリエに、ずっと引っかかっていたことを尋ねることにした。
「ユリエさん、今……話しかけても大丈夫ですか?」
「ええ。このエレベーターは地下深くから地上まで上がる構造だから、到着まで三十分くらいかかるの。聞きたいことがあるのね?」
「はい。さっき、〝あなたも〟って言いましたよね。ユリエさんも……アヴァロン経験者なんですか?」
ユリエは少し首を振り、穏やかに答えた。
「私は違うわ。でも、初任務の時に出会った女の子がそうだったの」
ユリエは一度言葉を切り、続けた。
「彼女は、〝こんなはずじゃない、間違いだ〟って泣き叫んで、出撃を拒んでいた。話を聞いたら……アヴァロン治療で蘇った子だったのよ」
「……僕と同じだ」
「ええ。未来に目を覚ました直後に戦場へ放り込まれるんだもの。受け入れられなくて当然よ。レン君を見た時、あの子のことを思い出したの」
少し迷ってから、僕は尋ねた。
「その子は……今、どうしているんですか?」
「それ以来、会っていないわ。前衛部隊に移ったって噂は聞いたけど……」
ユリエは一瞬だけ寂しそうに目を伏せた。
未来に蘇っても、待っているのは戦場。
その事実が、静かに重くのしかかる。
「……残念です。僕も、彼女に話を聞いてみたかった」
「戦場は広いわ。でも……きっと、また会える」
……できれば、戦場じゃない場所で。
「前衛部隊って……最前線ですよね?一体、何と戦っているんですか?」
ユリエの表情がわずかに引き締まった。
「……私達が戦っているのは、ジェミニよ」
「ジェミニ……?」
「青黒い体の四足歩行生物。体高は二メートルを超えるわ」
「二メートル……!」
「群れで行動して、昼夜を問わず獲物を襲う。仲間意識が強くて、一体を倒すと周囲の群れがすぐ反応するの」
想像しただけで背筋が冷えた。
頭の中で特徴を整理してみた。
青黒い体。四足歩行。
体高は二メートルを超え、横幅は一メートル近い。
まるで犬を巨大化させたような怪物。肉食で、人を襲う存在。
「……そんな相手に、この軽装備で大丈夫なんですか?防護服でもなく、僕達の制服なんて普通の布じゃないですか」
「私達は機動性を優先しているの。……それに、ジェミニの顎と牙は鉄すら砕く。どんな防具も意味をなさないわ。だったら、少しでも動ける方がいい」
僕は何も言い返せなかった。
しばらく言葉が出てこなかったが、それでも絞り出すように問いかけた。
「……弱点は?」
「体内に『ブレイズ』と呼ばれる生体エネルギー結晶があるの。それが心臓の役割を果たしている。頭部を破壊するか、ブレイズを壊すか、体外へ引き剥がせば絶命するわ」
ジェミニ……と生体エネルギーの結晶、ブレイズ……。
まるでファンタジーの世界だ。
「……それでも、軍の力があれば抵抗できそうなのに」
「そう思われていたわ」
ユリエは一度息を整えてから続けた。
「最初は劣勢だった。でも、少しずつジェミニの数を減らすことに成功して……正直、このまま押し返せると誰もが思い始めていた」
そこでユリエは言葉を切った。
「でも、ある日、すべてが一変したの」
「何があったんですか?」
「……一年程前、第三地上エリアを火の海にした存在」
「ジェミニじゃ……ない?」
ユリエは重く頷いた。
「違う。あれはジェミニなんかじゃなかった」
「じゃあ、一体……」
「誰もわからない。何なのかも、どこから来たのかも」
ユリエは視線を伏せた。
「2139年5月1日──」
その日付を口にした瞬間、ユリエの声がわずかに震えた。
「後に終焉の日と呼ばれることになる日よ。そいつらは世界中に同時に現れた。そして、たった一日で都市を壊滅させ、軍をも飲み込んだ」
「そんな……一日で……?」
頭が混乱して呼吸が浅くなる。
「その生物についての情報は?」
「わかっているのは一つだけ。あれは人間が太刀打ちできる相手じゃなかった」
ユリエの表情が曇る。
「最新兵器も、防衛部隊も、何もかも通用しなかった。そして現れた翌日、忽然と姿を消した」
「消えた……?」
「ええ。なぜ現れ、なぜ去ったのか……今も不明」
思考がまとまらない。
ジェミニだけじゃない。
人知を超えた何かが地上に現れた。
そんな存在を相手にして、生き残れるのか。
それに、姿を消したって……一体何のために……?
考え込んでいるうちに、僕は隊長の声を聞き逃した。
「総員、聞け!間もなく地上に到着する!」
隊長の声が響いた。
「ライフルを確認しろ!徹甲弾に切り替えろ!着いたら安全装置を外し、すぐ撃てる状態にしろ!」
「了解!!」
一斉に響く隊員の声。
「もうすぐね……」
ユリエが小さく呟いた。
「いろいろ教えてくれてありがとうございます」
「不安なことがあれば、いつでも聞いて」
まだ聞きたいことはあった。
でも、もう時間がない。
「隊長に一言、伝えたいことがあります。少し行ってきます」
僕は隊長の元へ向かった。
「隊長。さっきは……すみませんでした。僕も戦います。覚悟は決めました」
「……ほう。小僧、名は?」
「ユウガミ・レンです」
「覚えた。覚悟ある者の名は忘れん」
「ありがとうございます」
ユリエの隣へ戻り、心の中で誓う。
必ず生き残る。
最後まで戦い抜く。
その時、ふと体が妙に軽いことに気づいた。
……何かおかしい。
ポケットを探り、周囲を見回す。
……無い。
無い。無い。無い。無い……!
僕の武器が……どこにも無い!!!
次回に続く




