第6話 謎の知的生命体
エレベーターはゆっくりと地上を目指していた。
これは到着するまで時間がかかりそうだ。
その間僕はユリエさんに話しかけることにした。彼女にはいろいろ聞きたいことがある。
「ユリエさん、今話しても大丈夫ですか?」
「ええ、地上に到着するまで三十分くらいはかかるから大丈夫よ」
「教えてください。あの時言った〝あなたも〟とはどういうことですか?ユリエさんも僕と同じアヴァロン経験者なんですか?」
「私は違うわ。でも、初めて任務に出た時ね、ある女の子がレン君と同じようなことを言って、戦いから逃げようとしたの」
「僕と同じようなことを……?」
「ええ。彼女はずっと“こんなはずじゃない、何かの間違いだ!”って出撃を拒んでいたの。私は衛生兵だから、怖がっている彼女を落ち着かせようと話を聞いたの。そしたら、彼女もアヴァロン治療を受けて蘇った子だってわかったのよ。未来に目を覚ました途端、人類の戦いに駆り出されるなんて当然受け入れられないわよね。だからレン君を見た時、もしかして同じなのかもしれないと思ったの」
「そうだったんですか……。その彼女は今どうしてるんですか?」
「それ以来、会っていないの」
「そうですか……残念です。僕も彼女にいろいろ聞きたかった」
「前衛部隊にいるって聞いたけど、部隊を移ったのかもしれない。でも大丈夫。戦場は広いけど、きっとまた会えるわ」
できれば戦場ではなく、安全な場所で会いたいけど……。
「前衛部隊ってことは、最前線にいるんですよね? 一体、部隊は何を相手にしてるんですか?」
「……私たちが戦うのは、四足歩行のジェミニという青黒い生物よ」
「ジェミニ……!?」
「体長は二メートル以上ある」
「に、2メートルも……!」
「それだけじゃない。ジェミニは仲間意識が強く、常に群れで行動する。昼夜を問わず活発で、広範囲で獲物を襲うの」
頭の中で特徴を整理してみる。
青黒い体、四足歩行、体高二メートル超、横幅は一メートル近く。まるで犬を巨大化させたような姿。肉食獣で、人を襲う。そして稀に進化する……?
「ユリエさんや隊員は、そんな相手にこの軽装備で大丈夫なんですか? 防護服でもなく、僕たちの制服なんて普通の布じゃないですか」
「私たちは機動性を重視しているの。……というより、ジェミニの顎と牙は鉄すら砕く。どんな防具も意味をなさない。だから重装備で鈍くなるくらいなら、動けるように軽装で挑むしかないの」
「……なんてことだ……」
「ジェミニに弱点は?」
「体内に“ブレイズ”と呼ばれる生体エネルギーの結晶があるの。それが心臓の役割を果たしている。頭を撃ち抜くか、ブレイズを破壊、あるいは体から引き離せば絶命するわ」
生体エネルギーの結晶……まるでファンタジーの世界だ。
でも軍隊の力があれば倒せそうなものじゃないか……。なのに、なぜ世界の九割が死んだ?
「軍はどうやって対抗したんですか? 勝てない相手じゃないように思えるのに」
「最初は劣勢だったわ。でも少しずつ数を減らすことに成功して……。ただ、ある日、状況が一変した」
「一変……? 一体何が?」
「さっき隊長が“一年程前、第三エリアを火の海にした”って言ってたでしょう?」
「ええ。あれは……ジェミニじゃなかった?」
「違う。2139年4月15日、新たな謎の生物が出現したの。第三エリアだけじゃなく、世界中に現れた。あの日は『終焉の日』と呼ばれてるわ。一日で世界中の都市が崩壊し、軍は壊滅……そして奴らは姿を消したの」
「世界中が……一日で……?」
嘘だろ……。そんな相手に勝てるのか?
いや、姿を消した? 一体何のために……?
頭が混乱して呼吸が浅くなる。
「その生物についての情報は?」
「人知を超える力を持つ……それ以外は何もわからない。あの日現れたきり、これまで一度も情報がなかった。まさかまた出現するなんて……」
大変だ……。
僕たちの敵はジェミニだけじゃない。人知を超える未知の存在までいる。これから向かう地上には、一体何が待っているんだ?
考え込んでいるうちに、僕は隊長の声を聞き逃した。
「総員、聞け! 間もなく地上に到着する! ライフルを再確認しろ! 徹甲弾に切り替わっているか? 着いたらすぐ安全装置を外し、撃てるようにしておけ!」
「了解!!!」
隊員たちの声が響く。
「もう到着するわね……」
「そうみたいですね。ユリエさん、いろいろ教えてくれてありがとうございます」
「気にしないで。……不安なことがあれば、何でも聞いてね」
僕はまだ聞きたいことがあったけど、もう時間がない。
「大丈夫です。隊長に一言、伝えたいことがあります。少し行ってきます」
僕はアレックス隊長のもとへ歩いた。
「隊長、さっきは申し訳ありませんでした。覚悟を決めました。僕も戦います」
「ほう、小僧……よく言った。名は?」
「ユウガミ・レンです」
「覚えたぞ。俺は覚悟ある者の名は忘れん」
「ありがとうございます!」
ユリエのもとへ戻り、僕は彼女の隣で心に誓った。
必ず生き残る。最後まで戦い抜く。
その時、ふと体が妙に軽いことに気づいた。
……何かを忘れている?
ポケットを探り、辺りを確かめる。
ん……? あれ……? 嘘だろ……!
無い! 無い! 無い!
僕の武器が……どこにも無い!!!
次回に続く