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希望のバンガード   作者: ミツカユリエ
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第4話 トミツカ・ユリエ



『シュウウウゥゥゥゥ───ゴゴゴゴゴ───』



 僕は激しい揺れを感じ、目が覚めると電車の中にいた。ものすごいスピードで電車はどこかに向かっている。

 僕の手はテープで後ろに縛られ、口もテープで塞がれ声も出せない。気が付くと制服らしきものを着ていた。


 気絶している間に着せられたのか?


 辺りを見渡すと、見たこともないライフルや武器で武装した制服姿の人達が大勢同じ車両に乗車していたのがわかったが、全員若い。


 僕と同じ十代だろうか……。


 そして僕はやっと理解した。そう、意識を失っている間に電車に運び込まれ、今僕は出撃目前であるということを。


 ヤバい、ヤバい、ヤバい!!


 どのくらい気絶していたんだ!?もう目的地に到着するのか?

 ……嘘だろ、このままじゃ確実に死ぬ!

 せっかく治療が成功して、百年の時をかけ僕は生き返ったというのに!急に人類が滅亡の危機にあって人手が足りないから出撃しろだって!?


 ふざけるな!!


 こんなはずじゃなかった……!僕が願ったのはこんな未来じゃないんだ!なんで……!なんでこんなことに巻き込まれてしまったんだ!?


 いろんな思いが頭をよぎってしまう。

 僕が起きたことに気づいていないのか周りはひそひそと声を落として話していた。


「あの人だって?逃げ出そうと暴れまわって捕まった男っていうのは……?」


 話を黙って聞いていた金髪の若い男が肩を揺らしながらこっちへ向かって歩いてきた。ガタイが良く背丈は180センチくらいあるだろうか、目は細長くつりあがっていた。


「こいつ、もう気が付いてやがるぜ。お前か。新入りで出撃拒否して暴れまわったってやつは。おい、どうなんだ!?答えろ!」


 男はそう問いかけ、塞がれた僕の口と両手のテープを剥がした。


「ぷはぁっ~、はぁ、はぁ。い、いや、待ってください!これは何かの間違いなんです!僕はここにいるべきじゃないんです!お願いします、この電車から降ろしてください!」


 その言葉を聞いて男の顔つきがみるみる変わっていく。


「お前、逃げるつもりか!人類を救うため俺たちの仲間が何人死んだと思ってやがる、なさけないと思わないか!?恥を知れ!」


 僕は男に顔面を力いっぱい殴られ床に吹き飛ばされてしまう。


 数発殴られた後、僕の頬と男の拳も腫れていた。


 これ以上はまずいと感じたのか、男の隣にいた別の若い男性が止めに入る。僕を殴った男よりさらに背は高く眼鏡をかけていた。


「もうよせ、そこまでにしろ……!隊長がそろそろ来るぞ……!」


「ちぇっ、このクソが……!こんな奴が一緒にいるなんてこの部隊の恥だ!俺の仲間はこんな奴らを守るために死んだんじゃねえ!俺の姉貴だって……!クソッ!!」


 そう言い残して彼は後方の車両へと移動して行った。


 ク、クゥ~ッソゥ、僕がなにしたっていうんだ……!なんで僕がこんな目に遭わないといけないんだよ?

 もう嫌だ……!僕はどうすればいいんだ……!父さん、母さん、ロバート先生……!


 ん、でも待てよ?僕は殴られたのに痛みを感じないのはなぜだ?たしか──。


 僕が不思議に思っていると──。


「グレン!!」


 誰かが僕を殴った男に向かって叫んだ。しかし男にその声は届かなかった。


「なんて酷いことを……!あなた、大丈夫!?」


 床に這いつくばっていた僕に前方の車両からやってきた少女が声を掛けてきた。

 僕と同い年ぐらいに見え、可愛くて髪は銀色のセミロング。羽織った白いジャケットの両肩と背中には衛生兵らしきマークがある。

 彼女は僕が殴られた瞬間を目撃していたようだ。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


「はい、なんとか大丈夫です……。あなたは一体……?」

「私は富塚友里恵(とみつかゆりえ)。もう大丈夫だから。顔の傷を私に見せて?」

「あ、ありがとうございます……。でも……」


 未来で蘇ってからというもの、悲惨な目にしかあっていない。

 もう嫌だ……!この人にまで関わったらまた何かに巻き込まれるんじゃないか……?あまり関わりたくないな……。

 僕はそう思ったが彼女は構わず続けた。


「心配しないで。私はこの小隊の衛生兵だからあちらの車両で傷を見せて?……ね?」


 彼女は僕に優しい笑顔を向け、本当に助けたいという気持ちが伝わってきた。この世界で唯一、最初に手を差し伸べてくれた彼女に僕は従うことを決める。この人なら信用できそうな気がした。


「なんて呼べばいいかしら?」

「ぼ、ぼくの名前は(れん)……。游神蓮(ゆうがみれん)です……。お願いします……」

「ええ。任せて、レン君」

 彼女は僕を誰もいない車両へと案内した。


「あの……。実は──」


 椅子に座り、顔の傷の手当を受けながら僕は彼女にこれまでのいきさつを話した。



※※



「それでこんなことになってしまい……」


「そうだったの……。大変なことばかりで辛かったわね……?」


「いったいどうしていいのか……」


「レン君、大丈夫。私が何とかしてあげる。だからあまり動かないで?後はこのテープを頬に貼ってと……。これでよしっ!」


「ありがとうございます、ユリエさん」


「気にしないで、それが私の役目だから。怪我をしている人を放ってはおけないわ。……それと、先程彼があなたにした事、本当にごめんなさい……!どうか代わりに私の謝罪で許してもらえないかしら……?」


「ユ、ユリエさんが誤る理由なんてないですよ!」


「そうはいかない……。彼は私の仲間。仲間の行為は私にも責任がある。本当にごめんなさい……!!」


 彼女は僕に深々と頭を下げた。


 本人から謝って貰いたかったけどここまでされると彼を許せないなんて言えないな……。痛みも無いし彼を許すとしよう。


「わかりました。頭を上げてください。もう大丈夫ですよ。僕は彼を許します」


「よかった……。そう言ってくれて。ありがとう」


「でも彼は一体誰なんですか?」


「……彼の名前はグレンよ。実は、彼は半年前に慕っていた姉をこの戦いで失ってね……」


「お姉さんを……」


「その事件の後から彼は人が変わってしまったの。その前まではとても大人しい子であんな事するような子じゃなかったのよ。人を殴るようなことはしなかったわ……」


「そうだったんですか。そんな事が……」


「えぇ……」


 ユリエさんはそう答えた後、哀しげな声で小さく何かつぶやいた。


「この戦いに私達は勝てるのかしら……」


 そして彼女はぼんやりしていた。


「ユリエさん?」


 名前を呼んでも返事がない。


「ど、どうしたんですか?」


 考え事をしているようだ。しばらくすると彼女は正気を取り戻す。


「ご、ごめんなさい、ちょっと何かを思い出しちゃって……。でももう大丈夫だから……」


「そうですか?」


 よくわからないけど今はその事には触れないでおこう。

 少し間が開いた後彼女は再び何か言ってきた。


「ところでレン君、伝えそびれたのだけれどやはりあなたもアヴァロン経験者だったのね?」


「えっ……?ユリエさん、あなたも、とは?」


「……実は──」


 ユリエさんが説明を始めようとした時、彼女の言葉は何らかの理由で遮られてしまう。車両の前方から足音が段々と近づいてきたのだった。

 彼女は足音に気がつき胸ポケットに入ってる時計の時間を確認した途端慌て始める。


「待って、そろそろアレックスさっ……隊長が戻ってくる。私達も戻りましょう」


「隊長?待ってください、ユリエさん!」


「レン君、後で説明してあげる。まずは戻りましょう」


「わ、わかりました……」


次回に続く

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