第3話 地球外生命体
「ど、どういうことですか……? 仰っている意味が……」
「エイリアンと言えば理解できますか?」
マツダの声は淡々としていた。
「それはすべての『始まりの日』。一年前、2139年3月26日。突如として奴らは現れ、これまでに世界中を攻撃し、世界人口の約九割が死んだのです。
「九割……!?」
エイリアンは我が国にも攻めてきて生き残った者の多くは、日本各地の地下都市に避難しました」
耳鳴りがした。
僕が眠っている間に、世界が――。
「そんな……嘘だ……!」
「時間はありません」
マツダは言葉を切らなかった。
「第二部隊の隊長から要請がありました。人手が足りない。君を、二時間後の出撃に同行させます」
「冗談じゃない! 蘇ったばかりなんですよ!? まだ……!」
「私だって冗談であってほしい。しかし事実です」
心臓が暴れる。
九割が死んだ? 何十億人も?
信じられるわけがない。
僕はまだ両親の死すら受け入れられていないのに。
まさか蘇った直後にこんな想定外の事態に直面するなんて考えもしなかった。
蘇ってすぐに戦場に送られる?訓練も受けたことがない僕に出撃しろといっている。
冗談じゃない……!
死ぬに決まってる……!こんな自殺行為に付き合うことなんてできない!
(逃げる言い訳を……何か……!)
「君を出す理由はもう一つあります」
マツダの視線が鋭く僕を射抜いた。
「君の肉体は蘇生により強化されている。しかし不完全だ。潜在する能力を引き出すには、実戦こそが必要なのです」
そして彼は続けた。
「ああ、それからもうひとつ、君は痛みを感じない身体を手に入れているはずですよ」
「潜在能力……?僕はただの十七歳ですよ!まだ高校生だったんです!それに痛みを感じない体だなんて……ありえない!」
「ユウガミ君、君はもう十七歳。立派な大人です。人類の危機に未成年も関係ない。君には戦ってもらう」
「そんな理屈……! 僕は治験体第一号で、特別な存在じゃないんですか? 僕が死んだら、この研究は……!」
マツダは静かに首を振った
「アヴァロンは、もう君だけのものではない。技術は進歩し、短期間で蘇る者も増えた。……君は、特別ではなくなったのです」
そう言って彼は、隣室を指さした。
ガラス越しに見えたのは無数のカプセル。
その中で眠る人々。
背筋が凍った。
「理解できましたか?」
言葉を待たず、マツダはなおも続けた。
だが、もう何も頭に入らなかった。
(こんなこと、認められるか……!)
「……僕は行きません。絶対に。出撃なんて、拒否します……!」
まだ、父と母を失った現実にすら向き合えていないのに。
僕は立ち上がり、扉へと向かう。
「止めるな……!」
ドアに手をかけた瞬間、背後で声が響いた。
「――彼は失敗だ。捕らえろ」
振り返る間もなく、数人の警備員が飛び込んできた。
「いやだ……やめろ! 誰か――助けて……!」
必死に走る。だが出口はわからない。
背後から迫る足音。
次の瞬間、硬い衝撃が後頭部を打ち抜いた。
視界が闇に溶け、音も消えていった。そして僕は意識を失った。
次回に続く