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希望のバンガード   作者: 神崎メオ
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 僕は地面に倒れたまま動けなかった。

 視界が暗くなっていく。

 もう身体に全く力が入らない。

 目の前に立つ女性が何かを言っているようだったが、声がうまく聞き取れなかった。


「……カっ……ユっ…… 」


 僕は必死に首を動かした。

 少し離れた場所に、カユが立っている。

 無事だ。


「良……かっ……た……」


 それを確認した瞬間、張り詰めていたものが切れた。

 その言葉を最後に、意識が急速に遠のいていく。



♦ ♦



 ヴァレンダは、倒れている少年を見下ろしていた。


「何なの、この傷……!かなり危ないわね」


 少年の傷口から血が流れ続けている。


「出血がひどい……!」


 ヴァレンダは腰のポーチから注射器を取り出し、少年の傷口に手を当てた。

 そして、止血剤を注射した。

 注射器が一瞬だけ点滅したが、すぐに光が消えた。

 装置は作動しない。

 血は止まらなかった。


「……効かない?」


 ヴァレンダは眉をひそめた。


「……もう使われてる」


 少年の傷はあまりにも深い。

 このままでは助からない。

 しかも、血の匂いで他のジェミニが寄ってくる可能性もある。

 ここに長く留まるのは危険だ。


 ヴァレンダは周囲を見回した。

 アレックスの姿がない。

 だが、今はそれを気にしている場合ではなかった。


 その傍らでは、少女が少年にしがみつき、泣いていた。


「死なないで!」


 少女は震える声で訴えた。

 ヴァレンダは少女へ視線を向けた。


「怪我は?」


 少女は涙を拭いながら、首を横に振った。


「歩ける?」


 少女は小さく頷いた。


「そう。じゃあ、こっちへ来て」


 ヴァレンダはすぐに戦斧を背負い直し、倒れている少年を抱き上げた。

 そして少女を背負った。


「しっかり掴まって」


≪限界突破・加速(フルアクセル)≫


 彼女は地面を蹴り、一気に加速する。

 少女はヴァレンダの肩にしっかりとしがみついていた。

 信じられない速度で、崩れた街を駆け抜けていく。

 その姿は、まるでジェミニのようだった。

 人間とは思えない速度で瓦礫の散乱する道を疾走する。

 それほどの速度にもかかわらず、ヴァレンダの息はほとんど乱れていない。


 少し進んだところで、前方から一人の男が駆けてきた。彼女はすぐに足を止めた。


「ヴァレンダ!いきなり飛び出して、何──!」


 キョウヘイの言葉が止まった。


 ヴァレンダに抱えられた少年。

 その背中にしがみつく少女。


「……何があった?」

「ジェミニに襲われていた」


 ヴァレンダは短く答えた。


 キョウヘイは少年の傷を見た。

 服は血で染まり、傷口から血が流れている。


「……ひどい傷だな」


 少年の顔を覗き込んだ。


「……この少年が、例のレンか?」


 ヴァレンダは頷いた。


「助かるかはわからない。すぐに避難所へ戻ってユリエちゃんに診てもらわないと。キョウヘイ、この子をお願い。怪我はない」


 キョウヘイは少女をヴァレンダの背中から受け取り、背負った。


「……この子は?」

「わからない」


 少女は俯いたまま、何も答えなかった。


「分かった」

「じゃあ、あたしはこの少年を連れていく。そのままついてきて。避難所へ戻るよ」


 キョウヘイは頷いた。

 ヴァレンダはそれを確認すると、再び地面を蹴り、猛スピードで走り出した。あっという間にその姿は遠ざかっていった。


 しばらく走ったところで、ヴァレンダは崩壊した道路の一角にある排水溝へと入った。

 地上からは見えない古い地下通路。

 ヴァレンダは少年を抱えたまま暗い通路を一直線に進んでいく。

 腕の中の少年はまだ目を覚まさない。

 血はまだ流れ続けていた。


「……早くしないと」


 ヴァレンダは少年を抱く腕に力を込めた。

 そして長い地下通路をさらに進む。


 やがて、前方に小さな明かりが見えてくると、ヴァレンダはスピードを落とした。その先にあるのが、ヴァレンダ達が身を寄せている避難所だった。


 その頃、避難所の一室を利用した医療室では、ユリエが椅子に座り、暗い表情で俯いていた。

 昨夜、ジェミニとの戦闘で多くの仲間が傷ついた。

 ユリエは、その負傷者達を必死に治療した。それでも、多くの隊員を救うことができなかった。


「……私、何もできなかった……」


 ユリエは両手を強く握りしめた。


「……レン君……」


 ユリエは小さく呟いた。

 レンとアレックスはまだ戻ってきていない。

 きっとどこかで生きている。

 そう信じてユリエは待っていた。


 その時、避難所の入口が騒がしくなった。

 ヴァレンダが戻ってきたのだ。

 その腕には、血まみれのレンが抱えられていた。


 周囲の隊員達が騒めく。

 ヴァレンダは足を止めることなく、レンを抱えたまま医療室へ向かった。


「クローバーちゃん、ジョン!すぐに手を貸して!」

「分かった!」

「すぐ行く!」


 ヴァレンダの声に、避難所で待機していた二人が駆け寄ってきた。


 その後ろから、グレン、ヒューズ、ジェイクも駆けつけてきた。


「ヴァレンダ!それは……レンか!?」


 だが、ヴァレンダは答える余裕もなく、医療室へ急いだ。


「ここから先は、関係者以外立ち入り禁止!」


 ジョンは周囲の隊員達を制止すると、ヴァレンダの後を追った。


「ユリエ!ヴァレンダが戻ってきた!」


 クローバーは医療室へ向かって叫んだ。

 ユリエはそれを聞いた瞬間、目を見開いた。

 そしてヴァレンダの元へ駆けつけた。


「レン君!?」


 その姿を見た途端、ユリエの顔色が変わった。 

 血まみれのレンを前に、ユリエは唇を震わせた。

 口元に両手を当て、今にも泣き崩れそうな表情を浮かべた。


「まだ息はある!」


 ヴァレンダの言葉に、ユリエはハッとし、すぐに気持ちを切り替えた。


「ユリエちゃん!出血量がやばい!すぐに診て!」

「すぐ治療する!」 


 遠のいていた意識がほんの少しだけ戻ってきた。

 ここは一体どこなんだ……。

 何をされているのかも、よくわからない。

 ただ、誰かに抱えられて運ばれていることだけは、かすかに感じていた。

 そして僕は、仰向けに治療台へ置かれた。


 薄く目を開ける。

 ぼやけた視界の中に見覚えのある顔があった。


「……ユリ……エ……さん……」




次回に続く。

ここまでお読み頂きありがとうございます。もし少しでも楽しんで頂けましたら、ブックマークや評価を頂けると嬉しいです。今後ともよろしくお願いします。

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