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希望のバンガード   作者: ミツカユリエ
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第2話 百年後の世界




♦ ♦ 百年後



 体中がとても気持ち良い、そして温かい。これまで経験した事のないようないい気分だった。このままこの感覚をずっと感じていたいと思いながら僕の目は徐々に開いていく。

まるで長い眠りから醒めた後の様な不思議な感覚。目を開くと視界がぼやけていた。

 僕は見渡しながら目の前に何があるのか探ろうと手を伸ばしてみると硬い何かが触れた。

 少し時間がたつと視界のかすみが消え、分かった事は縦長の透明なカプセルの中に僕は入っていて体は青色の液体の中に浸かった状態だということだった。

 その中で僕はちゃんと呼吸ができ、息は苦しくなかった。むしろ気持ちが良かったのはこの液体のおかげなのだろうか。

 僕は……いったい……どうなった……?


 しばらくして騒がしい声が聞こえてきた。

 誰の声だろうと思ったその時、僕が完全に目覚めたのを察知したのかカプセルの液体が抜き取られる。

 そしてそれまで閉まっていたカプセルの扉がプシュゥゥ~と音をたてて開いた。


 僕は体を起こしカプセルから足を一歩踏み出す。広い空間を見渡すと、周りには見た事もないような近未来的な機械がいっぱいあり、数人の医者や研究者らしき人達が僕を見つめていた。その中の五十代くらいの髪の毛の薄いおじさんが僕を出迎えてくれた。


「ユウガミ・レン君、ですね?えぇ~と、私の名前はマツダと申します。この実験の推進リーダーを務めています。私の声が聞こえますか?」


「はい……」


「私の姿が見えますか?」


「はい……」 


 答えた直後に周りから歓声があがった。



「初期モデルのアヴァロンだったため予定時間まで絶対にカプセルを開けてはいけないとの事だったので少し心配でしたがどうやらうまくいったようですね。彼の測定報告をお願いします」


「先生、検査結果は異常なしです。身体の状態も問題ありません。痛覚神経除去、身体強化剤投与、効果は今の所順調です」


「そうですか、上出来です。ありがとう」


「しかしひとつ問題が生じまして……」


「問題?……同化率の事ですか?」


「はい、そのことなのですが、0%です……」


「ん~、そうですか。わかりました」


 報告を受けマツダ先生の顔が険しくなった。


「仕方ありません。次のステップに移りましょう」


 一体何の話だろう?


「マツダ先生。こ、ここは、いったい……?」


「ここは東京の地中奥深くに存在する地下都市内にある研究所です。そして、おめでとうございます!今は2130年の3月26日。治療は成功したのですよ。ここはあなたが亡くなった百年後の未来です。ユウガミ君、あなたは蘇ったのですよ!」


「2130年の3月26日……ここが百年後の未来?僕は蘇った……?」


 そうだ、思い出した。百年前の出来事を。

 僕は現代医学では治せない病に侵されていたんだ。

 体中の痛みが消えている。体が起こせる……。百年経って病気が治ったのか……?あの実験が成功したのか……?


「どうぞこれに着替えてください。長い眠りを経てお疲れかと思いますが、部屋を移動して色々ご説明致します」


 しかし、僕は移動する前にどうしても先生に聞きたい事があった。


「マツダ先生、あの……僕の両親や友人は……?」


 僕の質問に少し戸惑いながら先生は答えを出す。


「えぇ、非常に申し上げにくいのですが、あなたのご両親やお友達のみなさんは、残念ながらこの世界にはもう……」


 僕はわかっていた。

 そして死ぬ前にロバート先生に言われたことを思い出した。

 ここは百年後の未来。僕の知っているみんなはもういないという事を。でも、僕の頭は父さんや母さん、そしてみんなのことをつい先程まで一緒にいたかのようにしっかり記憶していた。蘇ったのがあまりにもあっという間の出来事のように感じ、もしかしたら時間はそれ程経過してないのではないか?みんな生きているのではないのかと思ってしまいそうだった。

 でも実際は自分以外には誰もいないんだ。

 僕は泣きたい気持ちを懸命にこらえる。

 覚悟していたことだろ!?僕は泣かない……!


「すみません、マツダ先生、こんな質問を聞いて……」


「いえ、ユウガミ君の気持ちは理解できます。とても辛いと思いますが、共に頑張りましょう」

「はい……」


 そして僕はその場で服を着替え、少しふらつきながら先生のあとについて行った。


「ユウガミ君、あなたは長い間仮死状態だったため全身の筋肉が萎縮してしまいました。しかし問題ありません。失った体の筋肉を取り戻すため、あなたに身体強化剤を投与しました。徐々に体のフラフラも落ち着くはずです」


「そうですか……」


「一日から二日で変化が全身に行き渡ると思います。最終的に体の調子は全盛期以上に強化されるでしょう。その時はびっくりすると思いますよ」


「わかりました……」


 僕は両親達の事を考えながら広場を抜けた。

 しばらく歩き先生が用意してくれた部屋に入ると、そのとたん先程まで穏やかだった先生の表情が真剣な顔になった。


「さて、ユウガミ君。落ち着いて聞いてください。一つ大事なことを伝えないといけません。実は、現在地球は謎の地球外生命体に侵略されています」


「えっ……?」


 突然マツダ先生の口から出た言葉を僕は理解できなかった。


「あの日からもう一年が経ちます。この侵略者たちは一年前突如として地球上の各地に現れ攻撃を仕掛けて来て多くの人々の命を奪いました。世界各地の部隊も応戦しましたが物凄い数の犠牲者が出てしまいました」


先生は悲しい表情を見せながら続けた。


「我が国の部隊も甚大な被害を被り生き残った隊員達はそれぞれ別部隊へと振り分けられていきました。そして我々は半年前日本に現われた新たな地球外生命体が何者なのか正体を突き止め、迎え撃つためにもはや一刻の猶予もないのです。単刀直入に言います。ユウガミ君、あなたを第二部隊に配属することにしました。今日、ここに駐屯する小隊と共に任務につき出撃していただきたいのです」



「は、はい!?」





次回に続く

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