表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
希望のバンガード   作者: 神崎メオ
PR
1/18

1One

この作品は長編です。


どうか応援よろしくお願いいたします。





 死者を百年かけて蘇らせる。

 そのために作られた装置の名は『アヴァロン』。

 僕がこれから受ける治療は、その装置に身を委ねることから始まる。

 もちろん、誰でも受けられるわけじゃない。

 十八歳以下であること。若いというだけでなく、この治療に適合する身体条件を満たしていること。

 そして何より今の医学では救えない病を抱え、余命を宣告されていること。

 ……僕は、そのすべての条件を満たしていた。

 だからこそ、多くの参加希望者の中から、幸運にも初の治験体として選ばれた。

 もう長くは生きられないのなら……せめて賭けてみたい。

 たとえ成功の確率が低くても、百年後に目覚める可能性があるのなら。



♦ ♦



「おはよう、ユウガミ君。昨夜は眠れましたか?今日は朝一番で検査がありますからね。そろそろ準備しましょうか」


 担当の看護師がやってきて、やわらかい声で告げた。

 僕は小さく頷いた。


 ここ数日、体力は目に見えて落ちていた。

 痛みで歩くのも辛く、一日の大半をベッドで過ごしている。夜は眠れず、明け方にうとうとするだけ。

 今朝も早くに目が覚め、ぼんやりとテレビのニュースを眺めていた。


「ユウガミ君、ごめんね。検査の時間なのでテレビは消しますね」

「……はい……うっ、ううっ……!頭が……痛い……!」


 立ち上がった瞬間、頭に激痛が走った。視界が歪み、そのまま床に倒れ込む。


「ユウガミ君!?だ、大丈夫ですか!?ロバート先生!!ユ……ガミくっ……が……!!」


 看護師の声が、まるで水の底から聞こえるように遠ざかっていく。

 朦朧とした意識のまま、僕はストレッチャーに乗せられ、慌ただしい足音に囲まれながらどこかへ運ばれていった。


『ピッ……ピッ……ピッ……』


「先生、バイタルが下がっています!」

「ユウガミ君の命は持ってあと数時間だろう……。意識も長くは持たない」


 ロバート医師の声が、かすかに耳に届いた。


「アヴァロンの準備を。それからユウガミ君のご両親に連絡を」


 そして、その時はやってきた。

 とある研究所で、僕は最期を迎えようとしていた。


「……痛い……息が……できない……」


 体中が痛む。

 呼吸が苦しく、視界がにじむ。これで終わりなのか。

 まだ、何もしていないのに。


「……嫌だ……」


 死を覚悟していたはずなのに、恐怖が押し寄せてきた。

 意識がぼやけていく中で、父と母が研究所に駆けつけ、僕の手を強く握っていた。


「レン、怖がらなくていい。私達はずっとそばにいるから!」

「そうだ……!百年後も、お前は生きている……!信じてるぞ、レン!」


 二人は泣かなかった。

 息子を見送る悲しみよりも、未来に託す希望を信じ、全てを神に委ねる姿がそこにはあった。

 もうすぐ僕が死ぬことを二人は知っているはずなのに、それでも僕を安心させるために言葉をかけ続けてくれた。

 もう二度と会えないのだと、わかっていた。


「……父さん……母さん……ありがとう……」


 兄弟はいない。恋人も、いなかった。

 だからこそ、最後に考えるのは父さんと母さんのことばかりだった。

 何も返せていない。何もしてあげられていない。

 それだけが心残りだった。

 もっと伝えたいことがあった。

 けれど、それ以上は言葉にならなかった。


「ユウガミ君。君にこの処置を施し、効果を確かめるには百年の時が必要です。たとえ成功しても、君のご両親も友人も……私自身も、その時にはもういない。君が目覚める頃、孤独に耐えなければならないかもしれない。それでも私は、君なら乗り越えられると信じています。君の存在は、未来の人々の希望になるのです」


 ロバート医師の声が、静かに心へ沁みていった。


 ……先生。


 百年後。

 僕は生きているのだろうか。

 病は治っているのだろうか。

 新しい時代の人達と、笑い合えるのだろうか。

 浮かんでは消えていく疑問が、闇の中へ沈んでいく。


 最後の力を振り絞り、僕は口を開いた。


「……みんな……今まで、本当に……ありがとう……行ってきます……」




 游神蓮(ゆうがみれん) 十七歳

 2040年3月26日 死去



挿絵(By みてみん)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ