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希望のバンガード   作者: 神崎メオ
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 時間の流れがやけに遅く感じられた。

 迫りくる大型ジェミニの爪。

 僕は思わず目を閉じた。


 ここで終わるのか。


 第二の人生も、ここで幕を閉じるんだな。


 一度死んだ身だ。

 痛みも感じない。

 このまま身体を貫かれても……それでもいいのかもしれない。


 そんなことを考えていた。

 だが、いつまで経っても、衝撃は来ない。

 

 ……おかしい。

 どうなってるんだ?

 僕はまだ生きているのか?

 

 ゆっくりと目を開けた。

 そして僕は言葉を失った。

 そこに立っていたのはアレックス隊長だった。

 化け物の巨大な爪は、僕ではなく隊長の身体を貫いていた。

 隊長は両腕を広げ、僕に爪が届かないよう庇ってくれていたのだ。


「……うっ……ぐ、ぐふっ……!」

「ア、アレックス隊長!!」


 血を吐きながら隊長は顔を歪めた。


「ば、馬鹿野郎……。諦めてんじゃねぇ……!さようなら……なんて言うな……。二度と口にするんじゃねぇ……!」

「な、なんで……!?どうして僕なんかを……!」


 僕の声は震えていた。

 隊長はかすかに笑った。


「お前は……もう、俺の部隊の立派な隊員だ……。仲間を守るのに……理由なんか……いらねぇだろ……」


 僕は悲しくて情けなくて自分を責めた。


「ううっ……僕のせいで……!」


 隊長は血に染まった口で、なおも言葉を続けた。


「まだ終わっちゃいねぇ……ヤツはダメージを負っている……。今がチャンスだ……。人類の未来のために……あいつを倒せ……!レン……お前にならできる……!」


 そう言って、隊長は腰のホルスターから最後の弾倉を取り出し、僕へ投げた。

 その瞬間。

 大型ジェミニが腕を引き抜いた。

 瓦礫に埋もれたまま、なおも身体を起こそうとする。


『グウウゥゥゥゥ!!』


 言葉は理解できない。

 でもわかる。

 次は僕だ。


 隊長は床にへばりつきながら声を振り絞り僕に指示した。


「い……行け……レン……!!」

「くそおおお!!」

 

 僕は弾倉を装填し、走り出した。

 隊長を早く治療しないといけない。

 そのためにはここで決着をつけるしかない。

 僕は工場の中を必死に見回した。


 何かないのか。

 何か……!

 その時、僕はひらめいた。


「そうだ……!この工場なら……!」


 僕は案内板を探した。


『ドスン……ドスン……ドスン……』


 怪物が迫ってくる。

 背後から巨大な腕が振り下ろされる。

 振り返る暇もなく、薙ぎ払うような一撃が迫った。

 僕は咄嗟に身の捻り、すんでのところで回避する。

 次の一撃が床を叩き砕いた。

 何度も、何度も、奴は僕を掴もうと手を伸ばしてくる。

 その度に、僕は必死に身体を捻りながら、周囲に視線を走らせた。


「案内板……案内板……あった!」


 そこにはこう書かれていた。


『B1:発電機室』


「地下か……!」


 案内板には発電機室の場所が地下1階のB1と記されていた。


 僕は矢印を頼りに階段を駆け下りた。

 暗い地下通路の奥。

 そこに発電機室があった。


 開いたドアの向こうに発電機の起動ボタンが見える。


*Caution : Generator Button*


 この作戦が成功する保証はない。

 この工場は錆びだらけだ。

 長い間使われていない。

 それでも、賭けるしかない。これしか方法はないんだ!


 背後から巨大な足音が近づく。


『ドスン……ドスン……ドスン……』


 その瞬間、背後で爆発のような音が響いた。

 階段が上から粉々に砕け散る。

 コンクリートが弾け、鉄骨がねじ曲がり、粉塵が一気に吹き上がった。

 奴は、階段ごと叩き潰しながら降りてきている。


「頼む……!動いてくれ!!」


 僕はスイッチを押した。


『カチッ───』


 直後、辺りに大きな音が鳴り響いた。


『バン……バン……バン……バババババ───!!』


 発電機が唸りを上げた。

 そして、工場の照明が一斉に点灯した。


「つ、点いた!!」


 突然の光。

 大型ジェミニは悲鳴を上げた。

 暗闇でしか活動しないこの怪物は光に弱い。

 目が眩んだのだ。


「今だ!」


 僕はライフルを構えた。

 大きく開いた口。

 そこへ照準を合わせる。

 だが、その直後。

 

『グオオォォォォ!!!』


 大型ジェミニが突進してきた。

 巨体が前のめりに沈み込み、地面を抉るように踏み込む。

 そのまま低く突進し、鋭い牙が僕の左肩に食い込んだ。


「ぐああああああぁぁぁ!!」


 大型ジェミニは工場内の灯りで一時的に視力を失っていた。 それでも、匂いだけで正確に僕を捉えている。


 左肩の奥で、ボキボキッと骨が砕けた。

 痛みはない。

 だが、壊れていく感覚だけがはっきりと伝わってくる。

 そして傷口から真っ赤な血が大量に垂れ流れた。

 血が止まらない。

 このままでは死ぬ。

 けれど、僕は歯を食いしばった。


「僕は……諦めない……!」


 何度もライフルを落としそうになったが、すんでのところで留まった。

 動く右手で、僕はライフルの銃口を怪物の口の奥へ押し込んだ。


「これで終わりだ!!」


 引き金を思い切り引いた。


 『バババババババ──!!』


 弾丸を撃ち尽くす。

 だが、怪物はまだ生きていた。

 微かに息があった。


「まだ死なないのか……!?」


 愕然としながら見ていると、化け物の喉の傷がゆっくりと動き始めた。

 裂けていた肉が蠢き、弾丸で砕けた骨が音を立てて元の形へ戻っていく。


「なっ……!?」


 喉の傷が、みるみる塞がっていった。

 再生した喉から、低い唸り声が漏れた。 

 まるで笑っているようだった。


 ありえない。

 こんな化け物、どうやって倒せばいいんだ……?

 

 僕は絶望した。


「ここまで来てもう他に手はないのか……?」


 希望を失いかけた、が、跪いてる化け物は苦しみながらうめき声をあげていた。


『グウウゥゥゥゥ!!』


「!!!!!!」

 

 そこで僕は見た。

 銃弾を受け傷ついた怪物の喉の奥。

 黒く輝く結晶。

 ──ブレイズ。


 ユリエさんが言っていた。

 あれが、心臓だ。


 左腕は動かない。

 ライフルも弾切れ。

 ライフルでコイツを殴ろうにも手の握力が段々なくなってきた……。

 何か使える物……!

 グルグルと短い時間の中で考えていると、その時、僕の目に入った。

 サイドポーチ。


「……これだ!」


 僕はライフルを捨てた。右手でサイドポーチの中に一つだけ入っていた懐中電灯を取り出し、それを使って大型ジェミニの目を力いっぱい叩き潰した。


「くそっ、くそっ、くそぉぉぉ!!」


『グゴゴゴォォォォォ!!!』


 大型ジェミニは僕を噛むのを辞め、口を大きく開いた。


「今だ!!」


 こいつの傷が完全に塞がる前に終わらせないといけない!


 僕は懐中電灯を捨て、大型ジェミニの喉の奥へ右腕をおもいっきし伸ばした。

 そして、丸見えになったブレイズをギリギリのところで掴んだ。


「うああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 最後の力を振り絞ってそいつの体からブレイズを引っこ抜いた。


『グゴゴゴォォォォォ!!!』


 怪物が最後の咆哮を上げる。

 その瞬間、ドクンと心臓が強く脈打った。

 視界が一瞬白く弾ける。


「なっ……!?」


 頭の奥に何かが流れ込んできた。

 知らないはずの光景。

 知らないはずの声。

 

 これは……何だ……?


『ドーンッ───!!!』


 大型ジェミニはそのまま大きな音を立てながら床へ崩れ落ちた。

 完全に動かない。

 静寂が訪れる。

 

 さっきのは一体……。

 そう思っていたが、僕はその場に崩れ落ちた。


「やった……やりましたよ……隊長……」






次回に続く

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