15
あれから、アレックス隊長と僕は地下水路に通じるビルとは逆方向へ必死に走り続けていた。大型の異形がユリエ達を追わないよう、場を引き受けるためだ。
地面の震えは依然として続く。
重い足取りが、後方からこちらへ近づいてくる。
「あの野郎、まだ追ってくるのか……!」
「あの巨体で、なんて速さだ……!」
「最初にあいつと当たっていたら、ここはもう壊滅していただろうな」
隊長の言葉に、背筋が冷たくなる。確かに、この相手に最初に遭遇していたら、第二部隊も第一部隊と同じ結末を迎えていたはずだ。
「隊長、ここまで引きつけておけばユリエさん達は大丈夫じゃないですか?このまま撤退するという選択は……」
だが、隊長は首を振った。
「却下だ。俺達が今逃げたら奴はまた別の部隊を襲う。誰かが止めなきゃいけない。俺達が止めるんだ」
その決意は揺らがない。
「でも、隊長は以前に撤退した相手じゃないですか。どうやって、僕達だけであいつを……!」
「そのときは負傷してたからな。今はダメージを受けていない。それに、もう逃げないって誓ったんだ。例え何があってもな」
言葉に詰まる。隊長は自分の身を省みず、仲間を守る覚悟を抱いている。
やるしかないとだけ思った。
「わかりました。……やるしかないですね」
「そうだ。それでこそ俺の小隊の一員だ」
こうして、僕達はあの巨大な化け物と戦う道を選ぶことになった。
大型ジェミニは、少しずつ追いついてくる。隊長は走りながらも何度かライフルをぶっ放したが、厚い皮膚が弾丸を跳ね返すだけだった。
「やっぱり効果は薄いか……」
口の中が唯一の弱点、隊長の言葉が頭をよぎる。だが走りながら、口の中へピンポイントで当てるのは絶望的だ。
「口を狙って一発撃ち込みます!」
と僕は言った。無謀な気合いだけが先行する。
「やめとけ。走りながら口を狙うのは弾の無駄だ。運良く当てたとしても牙に弾かれて終わりだ」
隊長の忠告は鋭い。だが、僕は自分の手元にあるものに頼るしかなかった。
咄嗟にライフルを構え、引き金を引いた。
しかし、その反動に慌ててしまい、銃が手から滑り落ちてしまった。
「レン!?どうしたんだ!」
「ライフルを落としました……!」
絶望の間に、怪物の大きな足がライフルを踏み潰す。金属の破裂する音がして、僕は取り返しのつかない失敗をやらかしたとわかった。
「この馬鹿者!ライフルを落とす奴がいるかあぁ!!」
隊長の怒声に、自分の愚かさに失望した。だが、隊長はすぐに切り替えた。
「もういい。過ぎたことは仕方ない。残った武器は俺のライフルと、あれだけか……」
僕のせいで武器を失った責任は重い。申し訳なさで胸がいっぱいになる。
「これからどうします、隊長!?」と僕は叫ぶと、隊長は腰から缶状の装置を取り出した。
「マスグレネードだ。知ってるか?」
「し、知らないです……」
「訓練で習わなかったのか?」
「いえ……」
隊長はため息交じりに説明を始める。
「磁性粒子を撒き散らすやつだ。着弾地点を中心に、範囲内の金属を引き寄せて地面に叩きつける。暴動鎮圧用に作られたんだがな……。この改良型は、ジェミニの体内にあるブレイズが何らかの金属元素で出来ていて、磁力に反応することがわかってから対ジェミニ用に改良された。威力は凄まじい。だが貴重でな、一個しかない」
「一個だけ……!それじゃ、ここで使うのは躊躇しますね」
「普通のジェミニなら一個で十分かもしれん。だが、コイツを地面に完全に押し付けるには、このグレネードだけでは足りない。何か『押さえつける』要素が必要だ金属で出来た何かを追加で使えば、効果的に固定できるはずだ」
隊長は周囲を見渡し、ひとつの建物を指差した。工場のように見える一角だ。
「あの扉の開いた工場だ。中には金属類が山ほどある。まずはあそこへ誘導する。マスグレネードでブレイズを地面に叩きつけ、周囲の強力な鉄や機械類でさらに押し潰す。口が開いたところにライフルをねじ込む。手順はこうだ。行くぞ、レン!」
「はい!」
震える手をぐっと握りしめ、僕は頷いた。失敗を取り戻すチャンスがまだある。隊長となら、やれるかもしれない。そんな根拠のない自信すら芽生えていた。
巨大な影が、一歩また一歩と近づく。僕らは工場へ、そして決行の時へと走り出す。
次回に続く




