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一方その頃、グレン達は負傷兵を抱え、コンクリートの水たまりを駆け抜けながら地下水路の出口を目指していた。
『ピチャ……ピチャ……』
濡れた通路は滑りやすく、足を取られて転ぶ隊員もいる。
「グレン、ペースを上げよう。早く抜けて安全な場所に避難しなきゃならない。夜になればジェミニが暗闇で暴れ出す」
冷静なヒューズが言う。
「ああ、わかってる。お前ら、大丈夫か?」
「はい!……でも負傷兵はもう限界です!」
「あと少しだ、頑張れ!」
時刻は午後六時五十分。
空はすでに薄暗く、夜の気配が忍び寄っていた。
「急げ。暗くなればジェミニの領域だ」
グレンがそう言った時、後方から足音が響いた。
『ピチャ……ピチャ……』
「ヒューズ、待て。後ろから何か来る」
全員が構えると、暗闇からユリエがジェイクを支えながら現れた。
「みんな!」
「ユリエ、ジェイク!無事だったか!」
「ええ、よかった……みんなも生きてて!」
「そうか……で、隊長とレンは?」
「ヒューズ、実は……」
ユリエは険しい顔で事情を説明した。
※※
「それで私達には安全な場所で待っていろって……!今二人は大型ジェミニと戦っているの!」
『僕は必ず戻ります。だから信じて待っていてください』
ユリエは、レンの言葉を思い出していた。
「……そうか。ジェイク、足はどうだ?」
怯えが消えたジェイクは、傷を押さえながらも答える。
「応急処置をしてもらったので、なんとか歩けます。でも……僕のせいで二人が囮に!」
「泣くのは後だ。今は急ぐぞ!」
再び出口へと歩き出したその時、今度は前方から気配が迫ってきた。
「……正面から?おかしいぞ!」
「なら敵か!?」
グレン達は向かい側からこっちへ迫ってくる何者かに備え銃を構えた。
そして小隊と正面衝突するかと思いきや前方からする何者かの足音は途中で止まった。
「誰だ!」
暗闇の奥から、少女の声が返ってきた。
「あんた達、どこの部隊?あたし達は味方だよ」
全員構えた銃を下ろし、隊員達は喜んだ。
「おおお!!!」
「増援が来てくれたのか!?」
「よかった、もう安心だ!」
「俺達は第二部隊だ!姿を見せろ!」
やがて現れたのは、灰色のフードを被り、深藍色の軍服に青い返り血を浴びた少女。
背中には戦斧、腰には刀剣。長い黒髪を揺らし、その背後には同じくフードを被った二人の男性と一人の女性。
四人は特別な制服を着用していて不気味な気配に隊員達は身を強張らせる。
「良かった……!なんとか間に合ったみたいね。第二部隊のビジュアルを確認。でも、彼らの隊長の姿が見当たらない……!」
「おい、どういうことだ?四人だけじゃないか!」
みんなが疑問に思うその次の瞬間。
「ヴァレンダさん!」
ユリエが叫ぶと、少女はフードを外し、素顔を見せた。
「なにっ……ヴァレンダ!?」
「久しぶり。訓練以来ね?ユリエちゃん、ヒューズ、そしてグレン。立派になったわ」
「どうしてここに!?」
「そうだ。お前、何でここにいる!それにその血はいったい……!」
「グレン、相変わらず生意気な性格は変わっていないようだけど説明は後。今はあんた達を安全な場所へ連れていくのが先。しっかり掴まってなさい!」
「ふざけるな!今は隊長とレンが――」
「……ブレイズ・オン」
グレンの言葉が終わる前に、突風が吹き抜けた。
!?!
≪限界突破・加速≫
ヴァレンダの姿が掻き消えた。
気づいたときには、もうグレンの目の前にいた。
グレンが彼女に視線を向けるとその朱色の瞳はピカッと鋭く光っていた。
反応する間もなく、彼の体は軽々と肩に担ぎ上げられる。
その圧倒的な存在感に隊員達は息を呑む。
「……バンガード……!」
ユリエが小声で呟いた。
「そうよ」
ヴァレンダの微笑みと共に、異能の力が炸裂する。
「グレン!大丈夫か!?」
「まっ……全く動けねぇ!?何だこの馬鹿力!人間がこんな力出せるはずがねえ……!お前ゴリラか何かか!?」
「ゴリラとは失礼ね?もう一度言ったらぶん殴るから……。それじゃあ、クローバーちゃん、ジョン、キョウヘイ!残りは任せるから。こいつとユリエちゃんはあたしが連れて行く」
「……行く」
「オーケー!」
「ヘイヘイ~!」
三人もまたブレイズ・オン!と唱えた。
ヴァレンダの三人の仲間達も鋭い眼光を放っていたが動きの速さは彼女の方が圧倒的に優っていた。三人はヒューズや残りの者達の前に現れたかと思うと全員を抱え、先に地下水路の出口へと物凄いスピードで走り去った。
「グレン!」
「うわあぁぁ!」
「ヒューズ!お前ら!」
「さてと。ユリエちゃん、ちょっとごめんね」
ヴァレンダはもう片手でユリエを軽々と担ぎ上げた。
「な、何!?」
「さぁ、行くわよ」
風圧と衝撃が通路を震わせ、あっという間に彼女達は先行する仲間を追い抜いていく。
「すっ、すごい……!なんて速さなの!」
「くっ、クソっ、離せこのゴリっ!」
「……静かにして」
『ドゴッ』
グレンは殴られ、そのまま気絶した。
「作業のジャマなのよ。もう一度言ったら本当に殴るって言ったわよね……ってもう聞こえてないかしら?」
「ヴァレンダさん!お願い!」
ユリエが必死に叫ぶ。
「あなた達の活躍は耳にしている。この力があればアレックスさんとレン君を助けられる……!二人はまだ市街地にいるの!どうか彼らを助けて!」
「ごめんね、ユリエちゃん。詳しい状況は知らないけど、既に日没、もう午後七時を回ってしまったから危険よ。その願いは叶えられない」
しかし、彼女の力があれば今すぐにでも彼らを助けられる、と思うとどうしても諦められなかった。
「ヴァレンダさん……!その力があれば助けられるはずよ!アレックスさんとレン君を、今すぐ助けて!!」
「伝えるか迷ったけど、ユリエちゃんには本当の事を言うね。……ユリエちゃん達の隊長に何度も無線連絡を試みたけど応答がなかった。隊長とそのレンって子はたぶんもう……ダメだと思う……」
「うっ、うそよ……!そんなはずないわ!いっ、嫌……!!!」
「生存しているかわからない二人よりも今は君達を優先して避難させる。二人の捜索は日の出以降になる」
「明日まで……!?」
アレックス隊長とレンが死んだとは到底受け入れられない彼女は、今彼らを助けるようヴァレンダに懇願し説得を試みて暴れ始めた。
「ヴァレンダさんお願っぃ……!!」
「ごめんね……」
ヴァレンダは静かに息を吐き、指先でユリエの首筋に触れた。
必死に抵抗するユリエだったが、力が抜け、意識は闇に沈んでいく。
「これ以上邪魔すると、ユリエちゃんでも容赦できない……」
ユリエの瞳から涙が零れ、彼女は小さく二人の名を呼びながら意識を失った。
「……アレックスさん……レン君……」
ヴァレンダは仲間を想うユリエの必死さに一瞬だけ悲しげに視線を落とすと、二人を抱え、暗い出口へと駆け抜けていった。
次回に続く




