12
濃い霧の中を必死に駆け抜けながら、僕はユリエとジェイクの姿を探していた。
ジェミニも厄介だ。
だが、それ以上に頭から離れないものがある。
まだ正体もわからない、別の脅威の存在だ。
それが現れる前に二人を見つけ、ここから脱出しなければならない。
「ユリエさん!ジェイク!返事してください!!」
霧の中に向かって叫ぶ。
化け物に気づかれるかもしれない。
それでも、もう構っていられなかった。
今は二人を見つけることが最優先だ。
「頼む……どこにいるんだ……!」
その時だった。
霧の向こうから低く腹の底を震わせるような音が響いた。
クジラの鳴き声にも似た不気味な唸り。
『グゥウウウウゥゥゥ!!!』
「ジェミニ……!あっちだ!」
声のした方へ全力で駆ける。
やがて、聞き慣れた声が霧を裂いた。
「ここよ!私はここにいるわ!!」
その声に向かって突き進んだ瞬間、視界が開けた。
ユリエさんの背後でジェミニが牙を剥き、今にも襲いかかろうとしている。
間に合えぇぇ……!
「……お願い、生きて!」
叫ぶようにそう言うと、ユリエさんは膝をつき、逃げるつもりなど最初からないと言わんばかりに、覆いかぶさるようにジェイクを庇った。
それは、守ると決めた人間の動きだった。
ユリエさんは死を覚悟したように目を閉じた。
だが──。
「させるかああぁぁぁぁぁ!!!」
全身の力を脚に込め、限界まで踏み切る。
渾身の飛び蹴りがジェミニの顎を捉えた。
衝撃とともに砕ける感触。
巨体は悲鳴を上げながら数メートル先へ吹き飛んだ。
「はぁ……はぁ……」
足が震える。
それでも確かに止めた。
「ユリエさん!無事ですか!?」
「えっ、えぇ……ありがとう。助かったわ」
その隣には右足を押さえ苦悶するジェイクの姿があった。
霧の奥を見ると、無数の黒い影……ジェミニがこちらを取り囲んでいる。
「何があったんですか!?」
「建物を目指していたら、ジェイクが潜んでいたジェミニに襲われたの。彼が目を撃って追い払ったけど、足をやられて……霧で方角も分からなくなって、動けなかった」
僕達が負傷兵を運んでいる間、ユリエさんは動けないジェイクを置いていくことができず、ここに留まっていたのだ。
『グゥワァァァァァ!!』
唸り声が近づく。
「あぁ……足が……!」
「ジェイクを抱えるのは私じゃ無理!お願い、彼を背負って!」
「分かりました!」
僕はジェイクを背負い、ユリエさんに拳銃を返す。
「援護をお願いします!建物に地下水路へ通じる抜け道があります!そこへ!」
「わかったわ!」
僕の手に武器はない。
ジェイクのライフルを借りるしかなかった。
どうやって突破する?
この数を正面から抜けるなんて無理だ。
しかも、助けは──。
だが考えている暇はなかった。ジェミニの群れが一斉に動き出した。
「おい!お前ら無事か!」
霧の中から響いた声に息を呑む。
「アレックス隊長……!」
「隊長!?」
霧の中から中から現れた隊長。
地獄で仏。……見捨てられたなんて思ってすみません!
「ジェイクはお前が背負え!ユリエと俺が援護する!」
「はい!」
僕はジェイクを抱え直し、正面突破を目指した。
その途端、ジェミニ達が絶叫を上げ、一斉に迫ってくる。
そして地獄のような銃声が鳴り響いた。
隊長とユリエが正面を撃ち抜き、迫るジェミニが次々に血を撒き散らして倒れていく。
「いいぞユリエ!その調子だ!そのまま慌てず狙いを定めて撃ち続けろ!」
「了解!」
「すごい……!」
僕は思わず叫んだ。二人の見事な連携に。
「今だ、走れ!!」
「そのまま行って!」
僕は全力で駆けた。
「はぁ……はぁ……建物が……見えた!」
しかしその時。背後のジェミニが突然動きを止めた。
「待って……おかしい!ジェミニが止まってる!」
「え……?」
振り返ると、奴らは硬直していた。
数秒後、奴らは一斉に方向を変え、霧の奥へ逃げ出していく。
『クウウウンンンクウウウンンン!!』
「……助かった?」
「違う!」
隊長の顔が険しくなる。
「ジェミニが逃げる理由は一つ。奴らですら恐れる存在が近づいている!」
隊長が何かに気づいたその時。
『ドスン……ドスン……』
地面が震え、建物の壁から粉塵が舞い落ちる。
一歩ごとに響く重い衝撃音。
「な、なんだ……!?この揺れ……!」
次第に揺れは強まり、鼓動のように大地を震わせる。
そして霧の向こうから“何か”が姿を現した。
「……ッ!!」
言葉を失い、その様子に戦慄が走った。
理解すら拒むような“巨影”がこちらを睨んでいた。
ユリエさんを見ると彼女の顔は青ざめていた。
『グオオォォォォ!!!』
空を裂く咆哮。
僕は初めて、その存在を目にした。
次回に続く




