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希望のバンガード   作者: 神崎メオ
12/18

12


 濃い霧の中を必死に駆け抜けながら、僕はユリエとジェイクの姿を探していた。


 ジェミニも厄介だ。

 だが、それ以上に頭から離れないものがある。

 まだ正体もわからない、別の脅威の存在だ。

 それが現れる前に二人を見つけ、ここから脱出しなければならない。


「ユリエさん!ジェイク!返事してください!!」


 霧の中に向かって叫ぶ。

 化け物に気づかれるかもしれない。

 それでも、もう構っていられなかった。

 今は二人を見つけることが最優先だ。


「頼む……どこにいるんだ……!」


 その時だった。


 霧の向こうから低く腹の底を震わせるような音が響いた。

 クジラの鳴き声にも似た不気味な唸り。


『グゥウウウウゥゥゥ!!!』


「ジェミニ……!あっちだ!」


 声のした方へ全力で駆ける。

 やがて、聞き慣れた声が霧を裂いた。


「ここよ!私はここにいるわ!!」


 その声に向かって突き進んだ瞬間、視界が開けた。

 ユリエさんの背後でジェミニが牙を剥き、今にも襲いかかろうとしている。


 間に合えぇぇ……!


「……お願い、生きて!」


 叫ぶようにそう言うと、ユリエさんは膝をつき、逃げるつもりなど最初からないと言わんばかりに、覆いかぶさるようにジェイクを庇った。

 それは、守ると決めた人間の動きだった。

 ユリエさんは死を覚悟したように目を閉じた。

 だが──。


「させるかああぁぁぁぁぁ!!!」


 全身の力を脚に込め、限界まで踏み切る。

 渾身の飛び蹴りがジェミニの顎を捉えた。

 衝撃とともに砕ける感触。

 巨体は悲鳴を上げながら数メートル先へ吹き飛んだ。


「はぁ……はぁ……」


 足が震える。

 それでも確かに止めた。


「ユリエさん!無事ですか!?」

「えっ、えぇ……ありがとう。助かったわ」


 その隣には右足を押さえ苦悶するジェイクの姿があった。

 

 霧の奥を見ると、無数の黒い影……ジェミニがこちらを取り囲んでいる。


「何があったんですか!?」

「建物を目指していたら、ジェイクが潜んでいたジェミニに襲われたの。彼が目を撃って追い払ったけど、足をやられて……霧で方角も分からなくなって、動けなかった」


 僕達が負傷兵を運んでいる間、ユリエさんは動けないジェイクを置いていくことができず、ここに留まっていたのだ。


『グゥワァァァァァ!!』


 唸り声が近づく。


「あぁ……足が……!」

「ジェイクを抱えるのは私じゃ無理!お願い、彼を背負って!」

「分かりました!」


 僕はジェイクを背負い、ユリエさんに拳銃を返す。


「援護をお願いします!建物に地下水路へ通じる抜け道があります!そこへ!」

「わかったわ!」


 僕の手に武器はない。

 ジェイクのライフルを借りるしかなかった。


 どうやって突破する?

 この数を正面から抜けるなんて無理だ。

 しかも、助けは──。


 だが考えている暇はなかった。ジェミニの群れが一斉に動き出した。


「おい!お前ら無事か!」


 霧の中から響いた声に息を呑む。


「アレックス隊長……!」

「隊長!?」


 霧の中から中から現れた隊長。

 地獄で仏。……見捨てられたなんて思ってすみません!


「ジェイクはお前が背負え!ユリエと俺が援護する!」

「はい!」


 僕はジェイクを抱え直し、正面突破を目指した。

 その途端、ジェミニ達が絶叫を上げ、一斉に迫ってくる。


 そして地獄のような銃声が鳴り響いた。

 隊長とユリエが正面を撃ち抜き、迫るジェミニが次々に血を撒き散らして倒れていく。


「いいぞユリエ!その調子だ!そのまま慌てず狙いを定めて撃ち続けろ!」

「了解!」

「すごい……!」


 僕は思わず叫んだ。二人の見事な連携に。


「今だ、走れ!!」

「そのまま行って!」


 僕は全力で駆けた。


「はぁ……はぁ……建物が……見えた!」


 しかしその時。背後のジェミニが突然動きを止めた。


「待って……おかしい!ジェミニが止まってる!」

「え……?」


 振り返ると、奴らは硬直していた。


 数秒後、奴らは一斉に方向を変え、霧の奥へ逃げ出していく。


『クウウウンンンクウウウンンン!!』


「……助かった?」

「違う!」


 隊長の顔が険しくなる。


「ジェミニが逃げる理由は一つ。奴らですら恐れる存在が近づいている!」


 隊長が何かに気づいたその時。


 『ドスン……ドスン……』


 地面が震え、建物の壁から粉塵が舞い落ちる。

 一歩ごとに響く重い衝撃音。


「な、なんだ……!?この揺れ……!」


 次第に揺れは強まり、鼓動のように大地を震わせる。

 そして霧の向こうから“何か”が姿を現した。


「……ッ!!」


 言葉を失い、その様子に戦慄が走った。

 理解すら拒むような“巨影”がこちらを睨んでいた。


 ユリエさんを見ると彼女の顔は青ざめていた。


『グオオォォォォ!!!』


 空を裂く咆哮。


 僕は初めて、その存在を目にした。




次回に続く

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