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「ぬおおおっ!!」
喉が裂けそうなほど叫びながら、僕は必死に駆け抜けた。
全身の筋肉が悲鳴をあげる。それでも、腕に抱えた負傷兵だけは絶対に落とすまいと、歯を食いしばる。
ようやく建物の入り口にたどり着き、僕は扉を蹴り開けて中へ飛び込んだ。
直後、ヒューズが負傷兵を担いで駆け込んでくる。さらにグレンも別の兵士を抱えたまま突入し、アレックス隊長が援護射撃を続けながら殿を務めていた。
残った隊員達もジェミニの追撃を必死に振り払い、次々と建物の中へ転がり込む。
「はぁ……はぁ……なんとか……運べた……」
三百メートル。
負傷兵を抱えたまま、走り切った距離だ。
痛覚を失った体でも、息苦しさだけは誤魔化せない。
肺が焼けるように軋む。それでも落とさなかった。
僕は負傷兵を他の隊員に引き渡し、その場に膝をついた。
視線を向けると、ヒューズは額に汗を浮かべながらも平然と立っている。
それに対してグレンは汗一つかいていない。呼吸すら乱れていなかった。
本当に人間なのかと思った。
だが、何より驚いたのは自分自身だった。
蘇ったばかりで体も万全ではないはずなのにどうしてここまで動けた?
腕も脚も限界を超えていたはずなのに、まだ力が残っている気がする。
その瞬間、マツダの言葉が脳裏をよぎった
「君の肉体は蘇生によって強化されている。しかし不完全だ。潜在能力を引き出すには、実戦こそが必要なのです」
これが……あの人の言ってた“力”なのか。
理由はわからない。でも確かに、僕はまだ戦える。
「よし、よくやった!」
肩で息をしながら隊長が全員に声をかける。
「は、はい……なんとか……」
「ふん、レン。調子に乗るな。まだ働いてもらうぞ」
グレンが吐き捨てるように言い、僕は思わず顔をしかめた。
「気を抜くな!奴らはまだ外に潜んでいる。戦いは終わっていない!」
隊長の声が建物内に響き、僕は背筋を伸ばして気を引き締めた。
その時。
「おい、奥に誰か倒れてるぞ!」
隊員の声に全員の視線が向く。
埃にまみれた床に、血まみれで倒れている若い兵士がいた。 制服の肩には第一部隊のマーク。まだ息はあるが、傷は深い。
「大丈夫か!?第一部隊の隊員だな!何があった!」
隊長が声を荒げる。
兵士はうっすらと目を開き、かすれる声で告げた。
「……あの……巨大な化け物に……気をつけろ……」
かすかに息を吸い、それだけ言い残して男は息を引き取った。
「しっかりしろ!」
「隊長……彼はもう……」
「……くっ……!」
巨大な化け物。
ジェミニか?
いや、違う。
声の調子がまるで別の存在を指しているようだった。
それは、ジェミニを語るときのそれとは明らかに違っていた。
重苦しい空気の中、別の隊員が声を上げる。
「隊長、これを……道中で拾いました」
差し出されたのは、血に染まった鉢巻。
「……これは……フォードの……!」
隊長の拳が震える。
「残念ですが……フォード達は……」
「……必ず俺達がやり遂げる。フォード……」
沈黙が落ちたその直後。
「見ろ!ここに印がある!」
壁の埃を拭うと、刻まれた文字が現れた。
【BF-00】
「……ブラックフォックス……!」
ヒューズが息を呑む。
ブラックフォックス部隊の印。
彼らが作った脱出口の目印だ。
壁の下には地下水路に繋がる抜け道が隠されている。そこを辿れば郊外に抜けられる。
『カチッ──』
ヒューズが床板を外すと、地下へ続く隠しハッチが現れた。
「隠し通路だ!脱出できるぞ!」
重い蓋が音を立てて開き、狭い縦穴が姿を現す。
「全員入れ!一旦離脱する!」
狭いが、大人一人がやっと通れる穴。
潜れば地下水路に繋がり、そこから郊外へ抜けられる。希望の道だ。
「急げ!」
そして次々と隊員が地下へ降りていく。
狭い穴の先には、暗いが広い水路が続いていた。
ジェミニは入れないはずだ。ここを抜ければ、生き延びられる。
だが。
「……あれ?」
僕は違和感に気づいた。
人影を探す。しかし彼女の姿が見えない。
「ユリエさんがいません!」
背中を冷たいものが走った。
「何だと!?」
「ジェイクも……いない!」
ユリエとジェイク、二人の姿が忽然と消えていた。
建物内に緊張が走る。
嫌な予感が背筋を駆け上がった。
ユリエさんに……何かあったんだ。
「僕、探してきます!」
間に合ってくれ。
「レン、待て!」
隊長の制止を振り切り、僕は外へ駆け出した。
「あの馬鹿野郎……!グレン!」
隊長は命じる。
「お前はここで皆を率いて脱出しろ!俺はレンの後を追う!」
「俺も行く!ユリエとジェイクを見捨てられるか!」
グレンが声を荒げる。
「駄目だ!」
隊長は鋭く言い放った。
「お前が動けば残りが危険だ。……助けられるものも助けられなくなる!」
グレンの表情が揺れる。拳を握りしめ、歯を食いしばった。
「……またかよ。あの日の姉貴の時みたいに……!」
「今は指揮を優先しろ」
ヒューズが静かに言う。
「……クソッ!……わかった……」
悔しさを押し殺し、グレンは頷いた。
「後は任せたぞ!」
そう言い残し、アレックス隊長は僕の後を追って外へ飛び出した。
次回に続く




