王子①
こと、恋愛において勝者とは、常に一人。
たとえ募集が1000人を超えようと、たった一人しか選ばれないのが恋愛だ。
今回は恋愛ではなく婚姻だが、似たようなものである。
王子の妻になる権利はたった一人にしか与えられないのだから。
……その妻が子供を産めない石女だった場合は除く。
判定勝ちではあるが、勝ちは勝ち。
麗羅は王家への嫁入りが決まった。
麗羅自身いろいろと考えねばならない事もあるが、そんな事よりも王子との対面の方が重要であった。
なにせ、王子は公に一度として顔を出したことが無く、写真なども出回っていなかったのだから。
王子がどのような顔をしているか。
王子はどのような人柄なのか。
自分は、王子に気に入られるのか。
期待と不安が入り混じり、麗羅の胸はまったく落ち着かなかった。
王太子との対面は、王家の館――王城は戦争用の施設なので居住には向いていない――の応接室で行われることになった。
麗羅念願の、初顔合わせである。
「湊殿下、ご入場!」
結婚が決まり婚約者になったとはいえ、麗羅は爵位を持たない「公爵の義娘」でしかない。王太子殿下が入場するとなれば頭を下げて待つのが道理だ。近衛兵などは直立不動であるが、麗羅は一人、椅子の前に跪き対面の時を待った。
「面を上げよ」
許可を得て顔を上げた麗羅が見たのは、10代半ばの、若く美しい男だった。
長く伸ばした黒髪を後ろで束ねている。顔立ちは整っており歴代女王のそれとよく似ている。王家は代々美男を婿入りさせてきたので、生まれる子は美形遺伝子の集大成であり、ある意味当然の事であったが。
服は王家の儀礼に使われる伝統的な服を着ており、現在が公式の場であることをうかがわせる。
初めて顔を合わせた王子の第一印象は、「華奢」であり、「触ったら壊れそう」だ。
多くの女性と戦い続けてきた麗羅にしてみれば、線の細いその体からは10歳の幼女にも劣る身体能力しか見いだせず、魔法の能力にしても訓練を全くしていない素人としか言いようがなかった。
おそらく、戦闘能力は婚約者候補の中にいた5歳児といい勝負といったところだろう。もしかしたら、それ以下かもしれない。
ならば知的であったり交渉事に強いといった、内政向きの能力の持ち主であるかと聞かれれば、それにも首をかしげるだろう。
王子からは自信といった物が感じられず、今も不安そうで、自分への自信が無いように見えた。悪く言えば、臆病者に見えるという訳だ。
ただ、そういった弱さや肉食獣に怯える小動物のような雰囲気は美しさもあって庇護欲を掻き立てる要素であった。
自分が守らねば、麗羅にそんな感情を抱かせるものだったのである。
「は、はじめまして。よ、余が湊である。神手家の娘、楽にせよ」
王子は麗羅に着席を促し、ようやく麗羅が椅子に座る。
そうして、テーブルを挟んで二人は向かい合った。




