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王子②

 王子は悪い人間では無かった。

 華奢ではあったが見目が美しく、やや自信が足りない面があっても無能ではない。王族として評価するなら及第点である。

 人柄の方も他者に気遣いができるなど横柄さは無く、麗羅に対しても当たりは柔らかい。


 王子との結婚は麗羅にとって、一般的な女性にとって、とても「幸運」な事だと言えた。



 ただし。

 「幸運」と「幸福」は似て非なるものであったというだけで。





「つまらない」


 麗羅が王子と婚約して3ヶ月が経過した。


 麗羅は王配としての心構えと最低限の作法をたたき込まれている最中であったが、それ自体は何の問題も無い。

 もともと高位貴族の出ではあったし、基本能力が高い麗羅にとって、礼法などを学ぶ事は苦になる事ではない。必要である事は分かっていたし、理性と感情の両面で納得もしている。


 問題が無い事が、問題であったのだ。



「あの頃は楽しかったのになー」


 麗羅が思い返すのは、あの決勝戦の戦いだ。

 そしてそこに至るまでの道程である。


 とても刺激的で、生を実感する日々だった。


 それに比べると礼法を学ぶ事も新しい立場にふさわしい心構えを学ぶのも、簡単すぎて面白みが無いのだ。



「殿下とも上手くいかないしー」


 麗羅の考えるもう一つの問題は、湊殿下との関係だ。


 殿下は優しい人であるし、常識人であったし、女性に暴力を振るうような人ではないのだが。

 残念ながら、根っこが武人な麗羅とは微妙に感性がずれているし、同年代最強の名を得た麗羅に恐怖心を抱いている節すらあった。王太子だけあってさすがに素で表に出すほど愚鈍な教育を受けてはいないが、それでもなんとなく分かってしまうのが乙闘女(おとめ)心なのである。

 決定的な対立をするどころか表面上は何の問題もないが、上手くいっているとは言い難かった。



「すぐに上手くいくわけないよね。

 うん。こういう時は体を動かすに限るわ」


 麗羅は婚礼前の忙しい身の上であるが、自由時間が無いわけではない。

 その少ない時間を鍛錬に充て、近衛兵などと(物理的に)交流を図るのだった。


 それが、王子との距離感を広げることになっていると気が付かずに。

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