【十章】我の道 〜秘密〜 3
【削除のお知らせ】
クロス・ガーディアンを読んで下さっている皆様にお知らせです。
この度、読みづらいということと、ラストがグダグダしているという理由で、クロスを削除することにしました。
8月10日より、毎日一話ずつ削除をしていく予定です。
リメイク版のアップ予定は今のところ未定ですが、なるべく努力はしたいと思います。
ではでは、いつかまた会いましょう(´艸`)
有澤透真
――某ラブホテル
生まれて初めて訪れた、まるで異質な場所に姫はそわそわ落ち着かないながらも、興味津々で辺りを探検していた。
祐也に惚れるまでは根っからの男嫌いだった彼女は、性行為の経験が全くない。
「これなに?」
彼女は枕元に置かれた正方形の袋を手にして、祐也に尋ねた。
「……。……そのうちわかる」
普段はストレートに何でも言えてしまう祐也だったが、さすがにそればっかりはストレートに説明できなかった。
手に持った物を不思議そうに色んな角度から眺める姫。
その前で、祐也は誤魔化すように白い上着を脱ぎだした。
「ブレザー脱いで」
「えぇっ?! ぬ、脱いで……って言われても」
「……お前、何しに来たんだ。お前が来たいって言ったから来たんだぞ。……やるのか、やらないのか?」
腕に上着を引っかけたまま止まる祐也に、姫は急激に熱を上げる顔をこわばらせながらブレザーを脱いだ。
ベッドの中央にちょこんとベタ座りしながら赤らめた顔を逸らせ、背中を向ける姫。
祐也はそんな彼女を後ろから抱きすくめて、制服のリボンを解いた。
そのスラリとした指が、更にボタンを下へ下へと外していく。
姫は心臓をぶち破りそうな動悸の中で、ひたすらその指を眼で追いかけた。
ボタンが全部外されると、困ったように『待って』と言い出しそうな顔をした姫だったが、すぐに祐也の手で体を倒されてしまった。
そのまま見つめ合った二人の唇の距離が、一気に縮まる。
キスでさえラブホテルのベッドの上で、しかも脚を下から上へと撫でられ、スカートを捲り上げられながらでは何かが違う。
祐也の薄い唇が、姫の首を這って、更に左胸に到達した、
その時だった。
(……!)
祐也は何かを感じ取って、眼を開けたまま、ピタリと動きを止めた。
「……え?」
悪い夢から目が覚めたような顔で、徐々に、ゆっくりと、姫の体から唇を離す。
「……祐也?」
そして、何も言うこともなく背中を向けて、ベッドの縁に座り込んでしまった。
その様子を起き上がりながら見た姫は、彼にどんな気持ちの変化が起きたのかを、すぐに察知していた。
「……祐也」
彼女は彼の前に回り込み、向き合いながらその膝に跨って、艶のある黒髪を自分の胸に引き寄せた。
「……泣いてもいいんだよ? あたし、見ないから……」
祐也は姫の胸に顔を埋めたまま、長い沈黙の時間を保った。
しばらくの間を置いて、消えそうな程に小さな、息のような声が、彼女の胸の中から聞こえた。
「……泣けないんだ、もう……。ただ、……悲しくて、……辛い」
彼を抱き締めていた細い腕を、もっと、ぎゅっとした姫は、全てを知っていた。
自分とはまるで違うタイプの彼女、『加納美緒』を。
そして、今、自分の彼氏が二人のミオの、どちらを求めていたのかを。
祐也は彼女の左胸に当てたこめかみに、しっかりとしたミオの心音を感じていた。
(……もう、この音を聞くことはできないとわかっていたのに)
受け入れていたつもりの、彼女の死。
しかし、こんなところでそれが嘘だったということを、思い知ってしまった……。
それを振り切る為のような決断を、翌日、彼はすぐに下した。
――
彼は大学を辞めた。
昨日の一件は、医者になったところで彼女が戻ってくることはない、そして自分の背負い込んだ痛みも消えないことを、彼に気付かせていた。
そして祐也は、自分の正直な意志で、真っ直ぐ生きていくことを決めた。
二人のミオに、別れを告げて。
その後、姫が命を狙われ始めてから、彼は自らガーディアンになることを買って出た。
誰かの命令ではなく、純粋な自分の意志で。
再会した時には、まるで元恋人同士とは思えないような仲になっていた二人。
それは、家族のようで、友人のようで、空気のような、不思議な関係。
――
その六ヶ月後。
違う言い方で、現在。
「……美緒。ごめんな。今度、ちゃんと会いに行くから」
独り言を呟く祐也の耳に、車のガラスを二回叩く音が入った。
彼がハンドルから顔を上げると、姫が運転席の横に立って心配そうな顔を見せていた。
車から降りた祐也に、彼女が言う。
「怒ってたでしょ……。今日は美緒さんの命日でもあるもんね……。行けないよね……」
「……さすがだな。お前には隠し事が出来なくて困る」
しょうもなさそうに、少し悲しそうな顔で笑う祐也。
向き合った彼は、姫の顔を上からじっと見下ろした。
「なに?」
祐也は、かがんだ。
そして、
身長差、十九センチの、
キス。
力の攻撃的なキスとは全く違う、どこかたどたどしい、彼の口づけ。
付き合っていた頃に飽きるほどしたこのキスは、二人にとって挨拶よりも軽いものだった。
「……今更?」
慣れた様子で聞く姫に、祐也は鼻で笑いながら、
「お前の甘ったるい口が懐かしくなっただけだ。忘れろ」
と言って車に鍵を締めた。
姫は祐也と並んで歩きながら、綺麗な水色の空を仰ぎ見る彼に眼を向ける。
「力には言っていいんじゃない? あたし達が付き合ってたこと。結局キス以外はしてないんだし」
その言葉に、いつもと変わらぬ突っぱねた調子で祐也は返した。
「これだけは絶対に言わない。秘密だ。わかったな?」
押さえつけるような彼の命令口調に、姫はホッとしたように顔を緩めて上目遣いで笑った。
荻野祐也
高校生の仮面をつけた元医大生。
冷静だが、時と場合によって短気な姫の元彼。
現在、自由気ままに我の道を行き、自己を愛する十九歳。
そして、二人の間でこれからも秘密は隠されていく。
たった二カ月間の、
恋人の、
秘密。




