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【十一章】二者の欲望 1

【削除のお知らせ】


クロス・ガーディアンを読んで下さっている皆様にお知らせです。


この度、読みづらいということと、ラストがグダグダしているという理由で、クロスを削除することにしました。


8月10日より、毎日一話ずつ削除をしていく予定です。


リメイク版のアップ予定は今のところ未定ですが、なるべく努力はしたいと思います。


ではでは、いつかまた会いましょう(´艸`)


有澤透真

力の、丁度腕を伸ばせば指先が触れる距離に、姫がいた。


でも、何だか普段の子供のような彼女と比べてしまうと、まるで違和感がありすぎるくらい、神秘的で、且つ、不気味な雰囲気。


一言で表すならば、一番しっくりくる言葉は、妖艶。


いつも幼稚にすら見えるピンクを好んで着る彼女だったが、今日は鮮血色のキャミソールにスリット入りの黒のミニスカートで、肌の露出面積も多く、やけに色っぽかった。


更に言えば、今、力はベッドに寝ていて姫は彼の上に跨っている。


「ねぇ、力……」


大きな水色の、猫のような眼をトロンとさせながら、いつもの倍ぐらいグロスを塗った艶やかな唇が動く。


すでにノックアウトされている力は、このあべこべな情景が夢だと気付いていた。


でも、いっそこのまま目覚めなければ、と心の底から本気で願う。


不自然な姫は自分の唇のグロスを人差し指に取り、それを挑発するように力の唇にスー、っと塗る。


「あたしとキスしたい?」


彼女なら有り得ない質問に、少しばかり戸惑いを感じた。


でも、これは夢。


「……したい」


いきなり記憶が途切れたようになって、一瞬何が起こったのか判断がつかなかった。


気がつくと、彼女がやけに上手……なんだろうと思えるキスをしていた。


でも、気抜けするくらいに感覚は全然ない。


やっぱり夢は夢だと自覚したが、それでも妖しげな姫ともう少しだけ一緒にいたいと感じる力がいた。


「ねぇ、あたしとセックスしたい?」


「うん」


その質問には、きっぱりと迷わず、しかも嬉しそうに即答できた。


これは例えば、現実で不意に聞かれたとしてもハッキリ答えられる。


「んふふ……」


いつもの可愛い満面の笑みではなく、艶めかしい笑顔の彼女。


その姿はまるで、天使の容姿を持った悪魔みたいだった。


「おいで、姫」


力は姫の、思いのほかセクシーな体を引き寄せる。


その言葉を放った本人だって、彼自身が気づかないだけで、十分に獣っぽい顔つきをしていた。


しかし、突然、しかもいいところで、またシーンが大きく飛んでしまった。


次に見たのは、もうラスト寸前。


ほんの一瞬、彼女の絶叫が聞こえて、


同時に、目が覚めてしまった。




朝三時の真っ暗闇に帰ってきた力は、祐也が癖でつく溜め息よりも、ずっと深い溜め息を吐き出す。


妙に体がだるい。


そして、ここ数日は疲れもピークに達していて、華園に来た時から女も禁じられていて、更にこの部屋にはプライバシーというものも在りはしない。


目の前の壁には『禁断』の英単語。


力の欲求も、既に我慢の限界に程近いものになっていた。




――昼


綺麗好きな要によって整然と片付けられた部屋には、学校が休みの力と祐也、そして要がいた。


三人は玄関の傍の若干広いスペースに座って、笑い話をしている。


姫はそこにいない。


彼女が何も言わずに部屋を出るのは、つまり短距離移動を示していた。


例えば、彼女の名前に似合う言い方で、お花でも摘みに行っているんだろう。


唯一の女である姫がいないのをいいことに、力は今朝の夢を二人に暴露していた。


ストレートに何でも意見を言う祐也、荒っぽい中に面倒見のいい父親のような一面を合わせ持つ要には、性的なことでさえ、力は包み隠さず何でも言える。


「まさかあんな夢見るなんてな〜」


骨を抜いてしまったかのような、だらんとした胡座あぐらをかいて力が言う。


要、そして祐也まで背中を震わせて笑っていた。


「どうせ変な想像でもしながら寝たんじゃないのか?」


からかうような祐也の発言に、力は少し眉を顰めて小難しい顔をする。


どうやら、本当に思い当たる節があったようだ。


「昨日、学校帰りの車の中で姫が寝ちゃったんだよ。その顔があんまりにも可愛くて……」


そう言いながら語尾が段々とこもる。


力のその反応は、言ってしまえばまだ隠していることがあることを二人に告げていた。


勘がいやに鋭い要は、たまらず横槍を入れる。


「だけじゃないんだろ? わかってるんだぜ? ま、スカートがギリギリまで捲れてたとか、胸の谷間がちらっと見えたとか」


「……」


力は言葉を返せなかった。


その憶測が完璧すぎて言葉を返すより先に、自分の車に何か不審物が仕掛けてあるんじゃないかと不安になってしまう。


また溜め息をついた力は胡座をかいたまま壁に背を預け、魂の抜けたような顔でぼそりと呟く。


「したいな……」


それに即座に返答したのは要だった。


「ここ娼婦街だってこと忘れてんのか? 女ならいくらでもいるだろ」


「……俺、商売の人は無理。一回だけ経験あるけど、なんか虚しくなって中断した」


「へえ……。なんか意外だな」


最後に驚きの言葉を表したのは祐也だった。


彼は力の尻軽っぷりを数々の場で、それも幾度となく見てきていたので、ついてっきり彼のことを『オールマイティー』だと思っていた。


「あんまりだと思わねえ? 彼女作るなっつーのはわかるけどさぁ……」




力達があけっぴろな話をしている、まさにその時。


階下にある女子トイレの鏡に自分を映した姫は、力のような深い溜め息をついていた。


さっきからずっと、心には同じ悩み事ばかりが終わり無く渦巻いている。


(そろそろちゃんと力に返事しなくちゃいけないのに……、どっちが好きなのかわかんないよ……)


彼女の心には、いつの間にか二人の男が根を張っていた。


力と、もう一人はどこに惹かれたのかもわからない、彼。


でも、何故か彼が四六時中気になって、会いたくもなって、その上、胸が締め付けられる。


(……今頃、何してるのかな。見夜都)




切なさを抱え込んで、おまけに精神的な張りもなく、彼女はトイレから出て外階段を登った。


その耳に部屋から突き抜けた、気だるそうな力の声が飛び込んでくる。



「ガーディアンじゃなかったらこんな目に遭わなかったのになぁ〜。嫌んなっちゃうよ、本当に……。姫がいなきゃ問題ないんだよ……」



姫の足が次の段を踏み込もうとしたまま、止まった。


聞いてはいけない力の、心の内。


相手が彼女でなくても、大いに誤解を与える言い種だった。


浮いたままの足を下ろし、姫は、突発的に残りの段を駆け上がって部屋のドアをバァンッ、と勢いよく開けた。


ドアが壁に当たって跳ね返るその音に、後ろを向いた力の脈拍が急激に上がる。


眼の先には、怒りながら悲しんでいるような、複雑な表情の姫がいた。


その口からは震える声が出る。


「……もう解放してあげるから、ここから早く出て行って……」


早とちりしてると推測できた祐也と要は、とっさに誤解を解こうと言葉を挟みかけた。


しかし、姫の叫びがそれより先に彼に突き刺さった。


「どうせあたしに好きって言ったのも冗談だったんでしょ? 尻軽男の言うことなんか信用しなきゃ良かった……! ……これだから男って嫌い! その中でも力みたいな嘘つきが一番大っ嫌い!!」


涙を溢れさせながら込み上げる怒りをぶつける姫。


要は彼女を刺激しないように平静を保ちつつ、諭し始めた。


「あのな、姫。今話してたのは」


その横を、重く腰を上げた力が無表情で通り過ぎる。


そのまま車の鍵を持ち、口をつぐんだまま部屋の扉を開けた。


「おいこらっ、本当に出ていくつもりか、王子! お姫様のガードはどうすんだよ!!」


「他の荷物はそのうち取りにくる」


またしても気だるそうな声で、落ち込みもせず、怒ることもせずに力は言った。


閉まるドアの音だけが、嫌な空気の流れる部屋に、変わりなく広がる。


正直にさらけ出してしまうと、今の力は全てに疲れ果てていた。


休みなく殺し屋には襲撃され、気を緩める隙を微塵も与えられないガーディアンとしての生活に。


姫が言っていた、力のプライドを激しく傷つける言葉に反論しなかったのは、ほんの一瞬でも『解放されたい』と思ってしまったから。


そして彼の望みが叶って、拘束が解かれた。


しかし、胸中はまだ、厚く日の光を遮る曇り空のまま。


さながら、今、真上を覆っている空のように。



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