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俺がシャーニッド村に住み始めてから数日が経過していた。
遠征組の男連中がまた戻らない為、魔物を狩って肉を手に入れるという仕事が出来ないでいたので、干し肉を含む肉の備蓄が残り僅かという事態が発生していた。
肉が無くても魚や野菜があるじゃないかと思う方もいるかもしれないが、この村に住む大抵の住人たちはワーウルフやワイルドキャット等の二足歩行型の犬、狼や猫の肉食系の魔族である為、肉の枯渇には敏感だった。
備蓄が尽きそうな事を悟ると、村唯一の男手である俺に魔物を狩ってきて欲しいと頼み込んできたのだ。
その勢い足るや、飢えた肉食獣そのものので、睨まれた俺は思わず背筋をピンとして、
「サー!イエッサー!」
と敬礼しながら応えてしまったほどだ。
他にも頭に可愛らしい角が二本生えた薄着のグラマラスなお姉さまに頼まれたら行くしかないでしょう。
そんなワケで俺は早朝から狩り場である草原地帯へと向かっていた。
平原は荒野地帯を東方向へ向かっていった方角にある。荒れた大地だった荒野から薄っすらと草が生えた大地へと変わり、周囲にはいくつもの岩山や樹木が乱立している。
「狩りの対象はバッファモーって名前の毛がフサフサの魔物なの」
俺の隣を歩く小学校高学年~中1位の少女がそう説明してくれる。
薄い褐色の肌に茶髪のショートヘアの女の子。服装は狩りに適した革製のジャケットを上から羽織り、スパッツのような物を履いていて背中には背丈に似合ったサイズの弓と矢筒を背負っている。
俺が狩り場に行くのにエミリアが案内をかってくれたのだ。
しかもこの装備。確実に殺る気だ。
「エミリアは狩りに出掛けたことはあるのかい?」
「うん。大人に混ぜてもらって何回か来たことあるよ」
「そっか。頼りにしてるぜ?」
そう言いながらエミリアの頭を撫で撫ですると目をつむり満足そうに微笑むエミリア。
フフッ、まだまだ子供よ。
道中エミリアに癒されながら草原へと向かい何事も無く草原へと辿り着いた俺たちは息を潜めていた。
「あれがバッファモーだよ」
エミリアの目線の先を見るとバッファモーはいた。
てか、アレだ。普通の白黒のまだら模様の牛さんだった。
違いがあるとすれば頭に丸っこい角を二本生やしている位だろうか。
さっそく近付こうとする俺をエミリアが手で制し、
「見てて」
と、背中に背負っていた弓を手に持つと矢をセットするエミリア。
なかなか様になっているじゃないか。
そうニヤケているとヒュッ!という風切り音と共に矢が放たれバッファモーの眉間に矢が突き刺さっていた。
「えっ?」
思わず声を漏らし、音を立てて崩れ去るバッファモーと淡々とした顔で弓を背中に戻しているエミリアの顔を交互に見る俺。
俺の視線に気が付いたのか顔をこちらに向け、
「早く解体しよう!」
と俺の手を引きながらバッファモーへと向かいつつ、反対の手でハンティングナイフを取り出している少女の姿はまさに狩人だった。
小さな女の子に牛型の魔物の解体方法を習っているゆるキャラという奇妙な構図になってしまったが、一般人である俺にそんなスキルもないワケで大人しく教わる。
頭を下にして持ってと言われた俺は大きなバッファモーの後ろ脚を掴みあげ逆さ吊りにして持ちあげる。
7、800キロ程はあるだろうバッファモーを軽々と持ち上げられる俺のパワーに自分でビックリだ。
何をするかのと見ているとエミリアがハンティングナイフをバッファモーの首筋にあてがうと
ピシャッ!
という音と共にバッファモーの首が半分切断された。所謂血抜きってやつだろう。
てか、切り方が悪かったのか、角度的なものだったのか噴き出した血が俺の顔にバッシャーーーーってかかっているんですけど。
血まみれのゆるキャラとか怖すぎるわ。子供も寄ってこないわ!
当の本人はゴメンゴメンと笑っているだけだし、エミリア恐ろしい子。
この後の工程を説明するとR15の範囲を超えそうな気がするので割愛させてもらう。
無事に解体が終わったバッファモーの部位をエミリアが持っていたポーチに入れ始める。
・・・ん?ポーチにって・・・おいっ!!?
「ちょっ!エミリアさん一体何をしてらっしゃるの?」
思わず敬語になりながら俺が聞くと、
「持って帰るのにポーチに入れてるんだけど?」
さも当然のように答えられた。
しかも小さなポーチのくせにバッファモーの部位が入る入る。
あんぐりと口を開けながら見ている間に全部収まってしまった。
聞いてみるとこのポーチは「アイテムストレージ」と呼ばれる魔法がかけられた特別な物らしい。
村に数点しかない貴重な物でその昔、魔王リリスが直轄領の各村々に数点配布したとのこと。
大きさは様々で、ボストンバッグのような大きなものもあれば、エミリアの持ってきている縦横20センチ程の大きさのものまであるそうだ。
村共有の財産との事で、村の住人なら誰でも借り受けられるとのこと。
村長の家にあるらしいので俺も今度借りに行こう。便利すぎるしな。
そんな話をしながら二匹目のバッファモーを見つけた。
まだ距離は離れてはいるが、相手も俺たちを発見したようで突進の動作に入っている。
トコトコとゆっくり俺たちの方へ向かってきたバッファモーを見つつエミリアが、
「バッファモーは初速は遅いけど、どんどん早くなるから気を付けて」
と注意を促してくれる。
確かにみるみる内に突進の速度が上がっているようだ。
「了解」
と返した俺は腰からハンティングナイフを取り出す。狩りに行くのに村の共用品を借用したのだ。刃渡り30センチはあり、握りやすいようにグリップ部が波打っている。
俺はナイフを右手で握り締め、踵を少し浮かした状態でいつでも動けるようにスタンバイする。
速度を上げつつ突進するバッファモー。その目は俺を確実に捉えていた。俺とバッファモーの視線が交差し、相手を敵としてお互いの存在を意識しあう。
突進してきたバッファモーの横を軽やかに横っ飛びで回避しすばやく立ち上がり態勢を整える。
突進の速度を緩めないまま反転してくるバッファモーに対し、俺はスライディングでその巨体の下に潜り込み後ろへと滑り込む。その際にバッファモーの腹を掻っ切るのを忘れない。
腹を縦に裂かれたバッファモーは大量の血を噴き出し絶命する。
よし。これで行こう。
脳内で一連の動作をコンマ数秒でイメトレし終えた俺はさっそく行動を開始しようとする。
が、
「ハッ!」
俺が行動を起こす前に隣に居たエミリアが素早い動きで矢を番え、放つ。
直線的な動きで俺たちに突進していたバッファモーの眉間に吸い込まれるように矢が刺さり絶命する。
だが、突進の勢いまでは殺せず、前のめりに倒れこんだバッファモーが土煙を立てながら俺たちに向かってくる。
まあ、最初ほどの勢いもないので回避するのは簡単だったけどな。
てか、二頭目も眉間に一発て・・・。俺要らなくない?
「エミリアさん。解体を教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「いいよ~」
完全にエミリアに対し敬語になってしまった俺は一人でバッファモーの解体に取り掛かる。
いつまでも幼い少女に任せてばかりはいられない。
とはいっても動物の解体なんて初めてのことなので、エミリアに教えてもらいながら先ほどのエミリアの解体方法を思い出しながら行う。
悪戦苦闘しながらも一人で解体を無事終えた時、頭の中で魔神化した際に聞こえた複数の獣の雄たけびのようなファンファーレが鳴り響いたと思うと、
『スキル【剥ぐ者】を獲得!』
と、こんなところでスキルを獲得してしまったようだ。
動きを止めている俺をエミリアが首をかしげて見ている。どうやらスキルを獲得したのは他の人には分からないらしい。
「エミリアさん剥ぐ者ってスキル知ってる?」
動物の皮を剥ぎ取った事で獲得したスキルであるならばエミリアも当然獲得しているはずだ。
「ううん。知らないよ。初めて聞いた」
なん、だと・・・?
てことはですよ。【剥ぐ者】は動物を剥ぎ取ったをキーとして獲得できるスキルではないのか?
ステータスでスキルの詳細を見てみる必要があるな。
今はエミリアがいるし、せっかく二人で来ているのだからスキル検証は後回しにするか。
その日はバッファモーを10頭ほど狩って解体しポーチに詰め込み狩りは終了となった。
本当はもっと狩れそうではあるが、乱獲は生態系を乱しここの主を怒らせてしまうことにもなるだろう。
朝早く出てきたお陰で時刻はまだお昼を過ぎた頃だ。
昼食はハンナさん特製のフィッシュサンドだ。もちろん取り出すのは生肉をこれでもかとぶち込んだポーチからである。
中はどうなっているのやら。本当に謎だ。猫型ロボットのお腹に付いているポケットみたいだな。
無事に昼食を食べ終わった俺たちは平原を後にしようとする。
すると、轟音と共に周辺の岩を砕きながら俺たちに接近してくる存在が1体。
「ま、まずい・・・」
先ほどまでのにこやかな笑顔が消えうせ、ガクガクと体を震わせるエミリア。
不審に思った俺が事情を聞き終わるのとソイツが俺たちの目の前に現れたのは同時だった。
「モオオオオオオオオオオッ!!」
現れたソイツは全長5メートルほどの全身を機械の装甲で身を包んだ・・・、
いや、全身が機械で出来た牛だった。
頭部から伸びた鋭く鋭利な角が二本。俺の目の前に突き出している。
全身は銀色で出来ており、眼光は赤く光っていて、口から白い息を吐きながら俺を見ている目には怒りが宿していた。
配下であるバッファモーを狩られて出てきたのだろう。
___これが俺が始めて遭遇したエリアボスといわれる存在との出会いだった。




