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戦いは静かに始まった。
無音で背中の翼を羽ばたかせ勇者へと接近するリリス。その手には禍々しい大鎌が握られていた。
対する勇者は聖剣を構え待ち構える。
両者の刃が触れ合うとその剣戟の余波が両者を中心に広がる。
余波が固唾を飲んで見守っていた両軍にまで及ぶと、魔物は身体が光始めると徐々に身体が膨らみ爆散し人間は身体が塵となり消え去った。
「もっと離れるんだ!ここにいたら戦いの余波に巻き込まれて死んじまうぞ!」
一人の人間からそんな声が上がると、魔王と勇者から大きく距離を取り避難する人間軍。それに呼応するかのように同じく魔王軍も大きく距離を取った。
激しく聖剣と大鎌がぶつかり合い、剣戟の応酬が続く。
魔王リリスの圧倒的な筋力によって振るわれる大鎌を勇者は涼しい顔で受け流している。
「大した力ね。アンタも力自慢ってワケ?」
未だ余裕の表情を崩さない勇者にリリスが大鎌を打ち込むと同時に話しかける。
「ハッ!そのテメェみたいな脳筋と一緒にするんじゃねえよ!」
大鎌を受け止めながら勇者がリリスの言葉に反応する。
(クソッタレッ!なんてバカ力だ。腕が吹き飛びそうだぜ)
一見涼しい顔で防いでいる勇者だったが、片手で大鎌を振るっているリリスに対し勇者は聖剣を両手で握り対応している。
その手はすでに痺れて感覚が曖昧になりはじめている。
いくら聖剣の効果によってステータスが跳ね上がっているといっても、元々のステータスは魔王と比べれば勇者のステータスはそれほど高くは無い。
総合的なステータスでいえば、勇者の方が優っているのだが、魔王は筋力特化型や速度特化型など、一部のステータスが非常に大きいのである。
今回でいえば、リリスは力と速度が特化されているため、勇者がリリスの攻撃を防ぐのが精いっぱいなのは仕方がないことだといえた。
「何も相手の土俵で戦ってやる義理もねえな」
勇者はそう呟くと後方へと大きく飛びずさる。
そして手のひらに巨大な雷の槍を出現させ、
「オラッ!」
勢いよくリリスへと放り投げる。
「ふん!そんな攻撃____チッ!」
持ち前の反射速度で回避しようとしたリリスだったが、自分の後ろにいる大勢の魔王軍の事が頭によぎり大鎌で雷の槍を受け止める。
「くっ!」
大鎌に帯電した雷がリリスの身体を突きぬけ身体の自由を奪う。
その様子を見ていた勇者は邪悪な笑みを浮かべる。
「クカカッ!魔王のくせに仲間庇いやがった!」
それからの攻防は一方的だった。
勇者の放つ遠距離攻撃をリリスが全て大鎌で受け止め、後方に控える魔王軍に当たらないよう庇いながらの戦いとなっていた。
弱ったリリスの放つ遠距離攻撃は全て勇者に回避され、後方に避難していた人間軍にそのまま直撃するが、勇者は気にも留めていない様子だった。
(コイツ・・・本当に勇者なの?)
先輩である他の魔王から聞いていた歴代の勇者とのギャップに困惑しつつ、目の前にいる自分至上主義の勇者を睨みつけるリリスだったが、身体は満身創痍だった。
筋力と速度に特化している分、リリスの物理防御と魔法防御は他の魔王に比べて著しく低い。
それなのに勇者の放つ属性攻撃を立て続けに浴び続けた為にリリスの命の灯は消えかかっていた。
何度も戦闘に割り込もうとしてきた配下の魔将軍たちを目線で押さえつけ、無駄な犠牲を出さないようにしてきたがそれも限界だろう。
(まったく。魔王になんてなるんじゃなかった・・・)
魔王にさえならなければ、他の魔王に勇者と戦ってこいなんて言われる事もなく、平穏無事に人生を過ごせていただろうにと半ば見えなくなってきている視界と同じくぼんやりとした思考で考えていると首筋に冷たい物が当たっている感覚がした。
「さあて魔王様よぅ。これでお終いだ。さっさと死んでくれや!」
リリスの首筋に当てた聖剣を上段に構え一気に振り下ろす勇者。
振り下ろされた聖剣はリリスの身体を上から真っ二つにし、周囲を鮮血で染め上げる。
はずだった。
キーーーーーーーーーン!!
何かの金属同士がぶつかり合う金属音が辺りに響き渡り、リリスは自分に訪れるはずであろう死が一向に来ないことに疑問を感じながら前を見る。
するとぼやけた視界には勇者と思しき者と自分の間に割り込んでいる人物がいることが分かった。
「何モンだ。テメェ・・・」
勇者は苛立ちを隠せないでいた。
自分が放った渾身の袈裟切りを両腕をクロスして防いだこの人物を。
あと一歩で魔王を殺し、その首を持って魔界征服の証とし、国に戻り悠々自適の生活を送るまでもう少し。といった状況を邪魔したこのイレギュラーな存在に怒っていた。
「腐れ外道に名乗る名は持ってねえ!」
聖剣を押し戻し圧倒的な怒りを持って勇者に立ちはだかる頭が異常に大きい魔物がそこにはいた。
蹲っていた老人に別れを告げた俺はさらに会場がある方角へと向かっていた。
するとそっちにはモンスターのコスプレをした人以外にも、様々な甲冑を身に纏ったコスプレ姿の集団を見かけたのである。
近付いてみると集団はお互いに数キロ程度離れていて、モンスターのコスプレ集団と甲冑集団の間で二人のコスプレイヤーが戦っているみたいだった。
俺がそこに見に行った時にはすでに決着がついていたらしく、力無く膝を折る中学生くらいの露出度の高い衣装に背中の本物そっくりの翼のついた女の子が眼に入った。
もう一人は金ピカの鎧を身に纏った痛々しいコスプレ野郎だった。
おい、何をやっていやがる。
金ピカ野郎が少女を蹴飛ばし、地面に転がしたのだ。
そして腹を、顔を重点的に蹴り始めた。
周囲で見てるコスプレ集団も唇を噛み締め、握りしめている手からは血が出ていた。
「なあ、なんで誰も止めに入らないんだ?」
俺は怒りを含んだ声色で周囲にいたヤツに話しかける。すると
「リリス様が・・・魔王様が来るなと申しておるのだ。それに我らが行けば邪魔になるのは明白。魔王様は・・・魔王様は我らの身に犠牲になるおつもりなのだ・・・」
心底悔しそうな表情のイケメン君が前方の少女を見ている。
てか、コイツ。俺を注意したイケメン君じゃないか。
「そうかい。でもな、俺には関係ねえ!」
「おい!無茶だ!相手は勇者だぞっ!」
無理を通して道理を蹴っ飛ばす!
そんなセリフが頭の中に浮かんできたが自重した俺は目の前でリリスと呼ばれた少女に振り下ろされようとしている相手に向かって突き進む。
甲高い金属音と共に腕にぐっと重みがくる。
俺は両腕について籠手で剣を受け止めたのだ。
「何モンだ。テメェ・・・」
怒りの表情で俺を睨みつけてくる男に俺は、
「腐れ外道に名乗る名は持ってねえ!」
と叫び剣を押し返した。
腕にかかっていた重量はそれはもうとんでもない重量だった。
決してコスプレに合わせた張りぼての剣ではない。
本当は薄々気が付いていたさ。ここがコスプレ会場じゃないってことはさ。
でもさ。もし戦闘員のおっちゃん達がいたら・・・もしかしたらって考えてもいいじゃないか。
でも、そんな希望はこの光景を見た時から諦めていた。
だって目の前で普通に人が、争っているんだぜ?
それも血を流しながら、腕や足を失いながら、魔法の火と思われる理不尽な物に焼かれながら・・・。
しまいには幼い少女を殺そうとする輩まで現れる始末だ。
ここじゃ日本。いや、地球では無いことはもはや明確だろう。
いや、今考えるべきことじゃないな。今は・・・、
「テメェをぶん殴る!」
それこそが俺の今やるべき事なのだ。




