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お待たせしております。
・・・なんで俺は一人でこんなところに転がっているのだろうか?
身体に力を込めるも、ズキッとした痛みが全身に走りまともに身体を動かせそうにない。
『不老不死』のスキルを持っているといっても身体に怪我を負えば治るまで時間はかかるし、『物理攻撃無効(小)』も肉体ダメージをそれなりに無効化してくれるが、万能じゃない。
それに痛覚遮断みたいなスキルがあれば別だろうけど、俺の場合は受けた痛みはそのままだのだから身体は平気でも痛みで身体が動かない、なんてこともあるわけだ。
そんなことを原っぱに寝そべりながらぼんやりと考えていた。
装備はこの世界に飛ばされてきた時と同じ装備。それに加えて空間収納の魔法のかかった革で出来た鞄と、その鞄に収納している聖剣だけといった状態だ。
どうして俺がそんな状況に陥ってしまったのか。
それは俺があのスキルを発動させ、調子に乗ってしまったことが原因だった。
遡ること数日前、俺はスキル着る者を発動させ、猛々しい角の生えた牛のような魔物であるバッファモーを素材としたきぐるみを作成し着た。
その姿は『焼き肉焼いても家焼くな』のキャッチフレーズで昔CMに出演していた某牛型の二足歩行キャラが誕生していたのだ。
知らない人はググってみてほしい。本当にそっくりだから・・・。俺のが数倍、いや百倍は可愛いかもしれない。
鏡を見た当初は驚いたというより、呆れて何も言えなかったんだが、ゆるキャラ怪人として異世界に来てしまった俺にはお似合いのスキルなのではないかと今では思っている。
まあそんな訳で俺は眼が覚めたであろうエミリアにこの姿を見せてやろうと思って自宅を飛び出しのだが、それが間違いだった。
意気揚々と家を飛び出した俺だったが、すれ違う住人たちがいつもと違う目で俺を見ているのが妙に気になった。
そこで割と話す機会のあった近所のお姉さんに話を聞きに行くことにしたのだ。
場所はハンナさんが経営する宿屋に向かう道中でもあったし、他に親しい人の家は生憎とハンナさんの宿屋を過ぎた所にしかない。
シャーニッド村のメインストリートから一歩わき道に入り、レンガで出来た家の前まで来た。
ドアをノックして、幾ばくかの沈黙の後、中から許可を得た俺はドアを開けて中に入った。
「こんちわー」
「あら、珍しいわねこんな時間にお姉さんに会いに来る、なんて・・・?」
そう言いながら奥から現れたのは身長160センチ後半の女性だった。
丸っこい角を見え隠れする黒い巻き髪のロングヘアをなびかせ、おっとりした表情で黄土色の瞳をこちらに向け歩いてくる女性は、地球では見ることは叶わないであろう超巨乳にスレンダーな身体が共存している魅惑の肉体をしていてタンクトップに短パンといったラフな格好をしていた。
この人こそがハンナさんの次にお世話になっているラナーさんだ。
男連中が未だに帰ってこない中、村唯一の男でとしてバッファモーを狩りに行くことになった原因の一人でもあったりする。
こんな若くて可愛くて巨乳の女性に色っぽく何か頼まれ事してみろ。そりゃ平凡な高校生だったボクは聞いちゃいますよ。
そんなラナーさんは俺の姿を視認した時から俺を見て固まっていた。
そういえばスキルでバッファモーの着ぐるみ状態のままだったことを思いだし、説明することにした。
「えっとですね」
「何コレ!カワイイーーー!!」
「!?」
俺が言うより早くラナーさんは俺に向かってタックルをかまして来た・・・っていうより抱きつかれた。
ちょっ!爆乳が当たってるぜ!
鼻血がっ!息子がっ!!
色々大変なことになりそうだったので、俺は丁重にラナーさんを引き剥がし事情を説明した。
するとラナーさんは腕を胸の前で組みうんうんと頷きながら結論を出した。
「よしっ!コウちゃんは今日からウチに住みなさい!」
「はい。わかりまし・・・えっ?」
あっぶねぇ。危うく誘惑に負けて肯定するところだったぜ・・・。
てか、はいって言っちゃったけど、突然こんな事を言い出すには何か理由があるはずや。
それを聞き出さな同棲なんて出来まへん!
・・・テンションが上がってエセ関西弁になってしまったが落ち着こう。そして説明を聞こう。
そんな事を一瞬のうちに考えていたらラナーさんが喋り出していた。
「いやもう見た瞬間にクラッと来ちゃったのよ。何なのその愛らしい姿?魔物でもない、魔族でもない。全身フサフサの毛に・・・なんていったら良いのかしら?そう、まるで獣人型の魔族に愛される為に生まれてきたような存在。そんな感じ?」
「は、はぁ・・・。それが何故、ラナーさんと同棲することに?」
興奮気味に語るラナーさんにそう返すとラナーさんは頬を赤らめながら、
「キャッ!同棲だなんてもぅ!そんなんじゃないわよう!私には旦那がいるんだし~。その姿のコウ君を見てると気分が高揚してきて、独占したくなっちゃうのよね」
そう説明してくれたラナーさんの言葉は俺にあまり入ってこなかった。
何故なら、ラナーさん。結婚してたの?
マジか!脈あると思ってたのに!
裏切られたー!マジか!いやっ!マジか!?
嘘だろ!まあこんな可愛い人?にいい人の一人や二人いるとは思った事もない訳じゃありませんでしたけどねっ!?
唐突過ぎやしませんか!
凹むわー!マジ凹むわー!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
お見苦しい所をお見せしていまい申し訳ない。
いや、まさかラナーさんに・・・。
もうこの話は止めよう。うん。
ラナーさんの話を総合すると異世界には存在するはずのない超プリティーでナイスガイの超絶ゆるキャラ(笑)の俺が爆誕したことで、地球でいうところの、ドラ○もんやピカ○ュウ、ふ○っしーのようなマスコットキャラ的な存在として俺を認識したということなのだろう。
若干誇張した気がしないでもないが、許せっ!
その効果として独占欲が高まり俺を住まわせようなんて言い出したんだろうな。
きっとそうだ。結局見てくれが大事だったってわけかい。ケッ!
・・・ふてくされていてもしょうがないか。
話が進まないからな。
とりあえず未だ興奮状態にあるラナーさんをどうにかするか。
「そうですか?すみませんが一緒には住めませんよ?俺にだって生活がありますし、旦那さんいるのなら勝手に決められないでしょう」
「大丈夫よ。身の回りの事は全部私がやるし、旦那だって獣人型の魔族ですもの。アナタの姿を見たらきっと納得してくれるわ」
そんなバカな。マスコットキャラは男にも通用するというのか!?
いや、日本でもそうだったか。
異世界でも有り得る話ってわけか・・・?
それにしても身の回りの事を全てやるってことは俺はただのヒモになるのではないだろうか?
部屋で何もせずだらだらと過ごし、モフモフされるだけの人生。
それもいいかもしれないが、俺は冒険をしなくちゃいけない。
そんな使命にも似た感覚が俺の奥底から何故だか湧き上がって来るのだ。
ヒモには、ならねぇ!!
「いえ、仮に旦那さんが許可しても俺は此処には住みません。俺にはやるべき使命があるんです」
「やるべき使命?何なのそれは?」
「今はまだ分かりません。でもそう思うんです」
俺の強い意志を読み取ったのかラナーさんは伏せ目がちに「そう・・・」とだけ呟くと、
「それじゃ仕方がないわね。でも、ちょっと位触るのは良いわよね?」
「えっ?まぁそれぐらいならいいですけど?」
「やたっ!ではでは~」
俺からの返事があるや否や再び俺に抱き付きモフモフし始めるラナーさん。
いや、確かに触るのはいいとは言ったが、ここまで異性に対してやるのはどうなのよ?
まさかとは思うが俺は男として見られているのでは無くて、ゆるキャラとして見られているから性別の括りはないということか?
それは悲しいものがあるな。
と思う俺と、心のどこかで合法的に若い女性とイチャイチャ出来るのだからいいではないかと囁く俺がいる。
どちらの声に耳を傾けるべきか・・・。
悩んだ末、俺は・・・。
数日後、人魔大戦に出兵していた男の魔族たちがシャーニッド村へと帰ってきた。
久方振りの故郷に無事に戻って来れた男魔族たちは遠目に見える村の変わらない姿に目頭が熱くなっていた。
早く嫁や娘の顔を、と既婚の魔族たちは抑えきれない気持ちのまま村への道を突き進む。
そしてシャーニッド村の入り口へと辿り着いた。
男魔族たちの帰りに気付いた村人たちが口々に男たちを指差し、涙を流しながら走り寄り、愛しい者と抱き締めあいながら、嗚呼俺たちは無事に故郷へ帰って来れたんだな。と実感するんだと男たちの誰もがそう思った。
しかし現実は違っていた。
男魔族たちが村の出入り口である門を開け凱旋したというのに迎えには誰一人として来ていなかったのだ。
それどころか普段はそれなりの人で賑わうはずのメインストリートに誰一人姿が見えなかった。
もしかしたら戦争の結果を知らず、村から総出で避難してしまったのではないか?
そう思う者も少なからずいた。だが村の建物には洗濯物が干してあったり、窓が開け放たれていたりと生活感が漂っていた。
どうやらその線はないらしい。
そう判断した男連中の耳に、何やら騒がしい黄色い歓声が聞こえてきたのだ。
村の奥の方で何かやっているらしい。
村人総出で集まって何をやっているのだろう。
男たちは疑問に思った。
「もしかしたら、俺たちが帰ってくるのを事前に察知して宴の準備をしているんじゃないか?」
一人の魔族がそう口にした。
なるほど。確かにそうかもしれない。
シャーニッド村はお世辞にも都会のような娯楽がある村ではない。
特産物はあれど、観光地としての要素は皆無であったし、何より村でのお祭りは一年に一度ある成人する村人がエリアボスに挑み体の一部を持ち帰ってくるという成人の儀や、農作物の豊作を祈願してシャーニッド村の中心にある湖にある木造のステージで行われる人魚による祈願祭などだけだ。
声が聞こえてくるのはどうやらそのステージの方からである。
近くには村唯一の巨大冷蔵庫もあり、そこから食材を取り出し、料理しステージに並べ、俺たちの帰りを待っているのであろう。
そう思った男魔族たちは期待に胸を膨らませながらステージへと続く道を歩いた。
「なんじゃこりゃ」
一人の魔族が目の前に広がる光景を見てそう呟いた。
帰ってきた男衆の目の前には大勢の女魔族たちがステージに向かって黄色い声援を送っていた。
中には額に鉢巻をして白と黒のまだら模様の柄の法被を服の上から羽織り、手にはピンク色に光る棒を持っている者もいた。
その姿はアイドルグループのライブに詰め掛けたファンのような格好だった。
女魔族たちの視線の先には一人の魔族の姿があった。
いや、魔族と表現して良いのかすらも分からない何かがいた。
ソイツは全長はそれなりにあるのにも関わらず、二頭身しかなく、全身が白と黒のまだら模様で丸っこい角が二本生えており、大きな口の中から白目をむき表情の読めない三つ目をした何かがいた。
日本人。いや、地球人であれば、何故かきぐるみを着たゆるキャラが何かをしている。などと思うだろうがここは異世界だ。
見る者には何か奇怪な存在にしか見えないだろう。
だがよく見てみると何やら愛らしく見えてくるのが不思議だった。
男魔族たちはようやく女魔族たちが何に声援を送っているのかを理解した。
この得体の知れない何かに熱狂的になっているのだと。
ステージ上では今なお忙しなく得体の知れない何かが動いていた。
二頭身の為、足が短くちょこちょこと小さな動きしか出来ないソレは一生懸命ステージを走り回り客席に向かって手を振っていた。
その姿を見た獣人型の男魔族達も何か心にくるものがあったのか、気付けば手に汗握って声を張り上げていた。
その声に気付いた女魔族たちがようやく男衆の帰還に気付いたわけだが、今は生憎とショウの真っ最中である。
以前であれば女魔族はショウなど捨て置き、男たちの帰還を喜んだであろうが、既に彼女たちはゆるキャラに毒されていた。
いつの間にか村で販売されるようになった鉢巻や法被を着込み、魔力を通すと光を放つサイリウムと呼ばれる棒を買い込み、バッファモーを模したゆるキャラに声援を送るようになったのだ。
まぁその正体が幸雅が扮するゆるキャラ怪人「マオくん」が使用したスキル着る者で誕生したバッファモーの着ぐるみであることは言うまでもないことではあるが、彼はここ数日で、このスキルを使い精力的に活動を開始していたのだった。
まず、彼は自分が着ぐるみ状態の時にある特定の魔族たちを魅了する事が出来ることをラナーを通して知った。
バッファモー型の着ぐるみでは獣人種の魔族を、スバメと呼ばれるツバメのような魔物を用いた着ぐるみでは有翼種の魔族を、ゼルガと呼ばれるセイウチに似た魔物を用いた着ぐるみでは水棲種の魔族を魅了出来ることをここ数日で判明した。
そしてゆるキャラによる一人公演を画策したのだった。
エリアボスに挑み、その機械パーツを密かに集めその過程で新たに獲得したスキル「創造」でサイリウムや法被などを作成し販売しチケットを販売し始めたのだ。
販売したチケットは即日完売。催したステージは大盛況に終わった。
売り上げで金を得た幸雅は定期的にステージを開くようになり、特別な特典付きチケットを販売することにした。
それが公演終了後にマオくんと戯れることが出来る特典付きのチケットだ。
魅了された女魔族たちは競うように限定チケットを買い漁りたちまち完売。
着ぐるみショウは村の娯楽へとなり果てた。
男魔族たちが帰ってきたのは丁度その公演日だったというわけだ。
最近ではチケットは村人全員が買うようになった為、野外ステージでの公演が主流となっていた。
そのため男魔族たちもその公演を見ることが出来たのだ。
何がなにやら分からないまま、男魔族たちもステージ上で早着替えのように衝立越しに着替えて出てくる着ぐるみショウに魅了され野太い声で声援を送るようになっていた。
そして公演終了後、事件は起きた。
「以上で本日の公演を終了します。会場の外ではマオくんのオフシャルグッズが販売しております。是非、公演の記念にお買い求めください」
「えーではこれよりマオくんとの触れ合い会に移ります。チケットの番号順に整列をお願いしまーす!」
拡声魔法を使い大きな声で会場を取り仕切っているのは幸雅が雇ったアルバイトの面々だった。
魅了がかかった魔族達に警護やら何やらを任せるのは不安があった為、魅了の効果の及ばないドワーフ等の魔族にバイト代を払い手伝ってもらっていたのだ。その中にはエミリアの姿もあった。
予め用意されていた柵を移動させ、次々と女魔族たちを整列させていく手腕は度重なる公演で培ったものだ。
瞬く間に列は完成し、マオくんとの触れ合い会がスタートした。
「ではお一人ずつどーぞ」
列に並んだ女魔族を誘導しつつ周囲に気を配るバイト達。
一人ずつ幸雅の待つ天幕に移動し、触れ合い会が始まる。
触れ合い会といってもすることはただの握手会みたいなものである。
幸雅扮するマオくんが着たきぐるみと握手やハグをし言葉を交わして次々と入れ変わっていく。そんな形で触れ合い会は進んでいく。
「来てくれてありがとー」
「マオくんカワイイーー!」
ゆるキャラとしてのイメージをなるべく損なわないよう、演じる幸雅。その甲斐あってか女魔族たちからのウケも良かった。
ハグを求められ了承すると思いっきり抱きしめられる幸雅。その顔は死んだ魚のような眼をして尚、ニヘヘと愉悦で笑っているのが親しい人間には丸分かりである。
調子に乗った幸雅はボディタッチと称したセクハラ行為をし始めるが、それを注意する者は誰一人いない。
セクハラ対象である女性は魅了によって判断能力に問題が生じているし、バイト達は天幕の中までは入って来ていないためだ。
だが今日は少し勝手が違っていた。
「コーくん一人に時間かけす・・・ぎ・・・」
一人につき30~60秒程の持ち時間しか与えられていないのだが、時間がかかっている事に不審を感じたエミリアが天幕の中に入ってきたのだ。
固まる幸雅とエミリア。そしてその中で唯一身体をくねらせ悶え動く女魔族。
「・・・・・・・・・・・」
「いや、ちゃうねん」
年下の、それも小学生ほどの容姿の少女からは想像もつかないほどの圧力を放ちながらジト眼で見てくるエミリアの視線に耐えきれなかったのか、冷や汗を流しながらそっと女魔族を離し距離を取り、何故か関西弁で取り繕うとする幸雅。
「エ、エミリアさん?」
無言で幸雅へとズンズン歩いてくるエミリア。その身体には薄くなって消えかかっていた刻印が全身に赤く浮かび上がり、眼にも幾何学模様が浮かび上がっていた。幸雅へ近づく度に身体から目に見える程濃密な魔力が溢れだし、右拳には幼いダークエルフではあり得ないほどの魔力が込められていた。
それも魔王に匹敵しそうな魔力が、である。
向かってくるエミリアに弁護の言葉を投げかけようとした幸雅だったがその前に、
「調子に乗り過ぎ」
言葉と共に強烈な一撃が至近距離で浴びせられ、幸雅は瞬く間に天幕を突き破り空の藻屑へと消え去った。
天幕の中ではエミリアが彼方へと飛び立った幸雅を見つめ、フンッと鼻を鳴らしながら天幕の出口へと振り返ると同時に小さな声で「コーくんのバカ」と寂しげに呟いた。




