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これこそが不定期更新!すみません。
一人の魔族が魔界の遥か上空を恐るべき速さで飛行していた。背中に生えた蝙蝠のような羽根を羽ばたかせ、魔界特有の黒き雲を切り裂きながら遥か先に見える天を突き抜けるようにそびえ立つ高き黒き柱を目指す。
近付いてみるとその建造物の大きさがよく分かる。面積1万5千平方メートルと東京ドームよりやや大きいサイズの円系の塔が雲を突き抜け遥か上空まで伸びている。
遠目から見れば武骨な黒き塔に見えたソレも、鏡のように映った物を反射するほどまで磨き上げられた黒き鉱石で作られており、悠久の時を経た今なおその輝きは失われておらず神秘的な風格が漂っている。
要所要所に設けられた真四角の窓が規則正しく配列されており、中からは丸い筒のようなものが突き出している。
この塔に接近する外敵を排除するために設置された砲台なのだが、ここ数百年の間、敵として認識される者は現れておらず使用されることは無かった。
そんな黒き塔の地上付近へと速度を徐々に緩め降り立った魔族は着地と共に羽根を折りたたむと自身の前にそびえ立つ巨大な門に向かって大きな声で言う。
「七大魔王が一人!リリスである!開門を乞う!」
高らかに門に言い放った魔族の少女___リリスは全身に冷や汗を掻きながら門を見つめる。
見つめる先には山羊のような捻じれた角をこめかみの辺りから生やしているこの世の物とは思えないほどの禍々しさを漂わせた骸骨が二対、壁から上単身だけ姿を見せている。
この髑髏たちこそが門に配置され、数千年の時を外敵から身を守ってきた守護者であった。かつて魔神に生み出された守護者たちが存在するだけで下級魔族や魔物はその圧倒的な気配に怯え、門に近付くことは無い。近付く者が現れようとも守護者の放つ眼力だけで生命活動を停止させる事が出来る恐ろしい能力を使い即座に抹殺を図る守護者。
一説には現在存在する7人の魔王と匹敵する力を持つのでは?と噂されているほどだ。
魔王以外の者がこの塔に侵入しようとすれば初めに眼力で威圧され、次に守護者の両手に持った巨大な大鎌がその猛威をふるう事になるだろう。
事実、魔王継承前のリリスはこの大鎌に一度殺されそうになったことがある。
先人の魔王が魔王以外の物が塔に入る際に持たせるアイテムをリリスに持たせ忘れたのが原因だったのだが、外敵と判断され、眼力によって心臓を半ば停止させられた状態で大鎌を振るわれたのだ。
付き添っていた魔王が寸前で大鎌を防がなければ今、魔王として君臨することはなかっただろう。
闇に灯る赤い結晶のような眼がリリスを認識すると重々しく扉が左右に開かれる。
小さく息を吐いたリリスはこの場に長く留まっていたくないのか早足で塔の中へと入っていった。
リリスが塔内へと入ったのを感じ取った守護者は再び門を閉じ、眠りについた。
(ま、毎回ここに来る度寿命が縮むわ・・・)
門が閉じたのを音で聞きながら安堵の表情を浮かべるリリス。
過去の出来事がトラウマとなり、守護者を見る度に心臓が縮みあがってしまうのだ。出来れば二度と来たくない場所なのだが、今回ばかりはそうもいかなかった。
人間軍が魔界へと侵攻してきた為に発生した第三次人魔大戦の結果報告に来たのだ。
とはいっても魔王たちが直接ここにいるわけではない。この塔にはかつて魔神が作りだした様々な魔法道具が格納されている。
その中の一つに遠く離れた者と意思疎通を図れる魔法道具が設置されており、魔王の住む居城に設置された魔法道具とリンクさせることで会話が可能なのだ。
通信するだけならばリリス自身の城から魔法道具を使用すればよかったのだが、生憎リリスの城の魔法道具が故障していた為、わざわざ魔神の塔まで出向いたのだった。
リリスは塔のらせん階段を足取り重く昇っていく。戦争の戦況はリリスの部下が遠隔投射魔法を使い、塔内部にある円卓の間と呼ばれる会議室のような場所にある魔法道具を介して各魔王の城に映し出されていたのだが、勇者の登場以降、正確には幸雅覚醒による余波で気絶してしまった為、戦況が分からなくなってしまったのだ。
現場からの映像が途切れた瞬間に突如あふれ出した魔王ですらぞっとさせるほどの魔力量を持った何者かがその場に顕現したのを肌で感じ取った魔王たちはリリスからの報告を今か今かと待ち望んでいたのだった。
黒い大理石のような岩を削られて作られた廊下を歩いて行くと両開きの扉が現れる。
中からは隠そうともしない強大な魔力から放たれる威圧感が漏れ出していた。そんな強大な魔力を持つ者の存在が6つ確認出来る。
「ふぅ・・・」
息を落ち着かせ扉に手を掛け、開けるリリス。目の前には長方形の床と同じ素材で作られた長テーブルに6つの椅子があり、椅子に座っている者には大きな影がさしていた。
「遅れて申し訳ありませんでした」
リリスがテーブルに近付くと椅子が設置されていなかった場所から椅子がせり上がってきた。それに優雅に座ると一番奥の黒く塗りつぶされていたシルエットが動いた。
「皆気にはしていない。それより早速本題に入ろうではないか。勇者に押されている所までは見ていた。その後の事を簡潔にいいたまえ」
しわがれた声だが、覇気のこもった声の主がリリスに問いかける。
リリスはやはり「隠すのは無理そうね」と小さく呟き説明を始めた。
「はい。その後ですが、私が勇者に倒される寸前に救ってくれた御仁がいました。その方の力は凄まじく、勇者を一撃の下、屠ったほどです。その後、勇者を失った人間軍は統率を失い敗走致しました。」
「人間軍は殲滅したわけではないのか。まあよい。問題はリリスを救ったという魔族だな。そやつは今どこにおる?」
「分かりません。勇者を倒した後すぐさまどこかへ飛び去ってしまいましたので・・・」
「ふむ。突如巨大な魔力反応が現れ、すぐ消失したのはそのような理由からか。方角はどの方角にいったのかね?」
「恐らくはフュンフテリトリーの方面かと」
「リリス。嘘は感心せんな。正直に答えなさい」
リリスの返答に先程までと比べ物にならないほどの威圧感を言葉に乗せて放たれては、いい訳は出来なかった。
相手は現存する魔王の中で最古参の重鎮なのだ。新米魔王如きの嘘はその場にいなくとも声色や表情で分かるのだろう。リリスは俯き、拳をギュッと握りながら答えた。
「て、訂正します。私の領土に・・・向かったと推測されます」
「ふむ。嘘ではないようだね。どのような風貌だったのかね?」
「意識が混濁していた為、あまり覚えてはおりませんが、金髪に仮面を付けた三つ目の魔族だったと記憶しております」
「三つ目か。珍しい種族だな。シヴァの所の末裔か?まあ良い。何者かを突き止めるべきか。リリスよ。お主の眼から見てどうだったね?」
「私より強者なのは確かです。私如きでは推し量れませんでした」
「七大魔王の中でも攻撃力に秀でたお主より強者とな?確かに感じ取れる魔力量はリリスを、いや私ですら上回っていたように感じ取れた」
最古参の魔王の言葉により今まで沈黙を保っていた他の魔王からどよめきが起こる。
最古参の魔王サタンは魔神が去ってから100数年後に誕生した魔王である。
他の魔王と比べ、生きている時間は遥かに長く、また保有する魔力量も桁違いだった。
そのサタンよりも魔力保有量が多い可能性がある魔族とはいったい何者なのか。
魔王たちは尽きない疑問をぶつけあいながら時間は過ぎていった。
コンコンと机を叩く音が聞こえ、全員が一斉に静まった。
「静まりなさい。考えていても仕方が無いじゃろう。人選を募り、探索に向かわすことにする。その際、リリスはメンバーから外す。理由は分かるな?」
「・・・・はい」
「よろしい。では・・・」
「俺が行こう」
声を発したのは黒いシルエットで姿は見えないが、自信に充ち溢れた若い声の主だった。
その声に続く者はおらず声の主がゼクステリトリーに向かう事が決まった。
「では頼んだぞ。お主はタフだが、攻撃力はリリスには及ばぬのだ。何かあった際は仕方が無い。リリスを頼りなさい」
「ハッ!助けなんていらねーって!勇者ごときに負けるシャバいヤツに力を借りる気はねーよ」
そう言うとシルエットから気配が消え、サタンはやれやれといった声色でその場を締めた。
「せっかちなヤツじゃ。脆弱な奴らとはいえ、人間軍は追い返した。残る危険因子は僅かだ。魔界の平穏を乱す可能性を秘めた存在は摘み取らねばならない。謎の魔族については彼奴に任せるとして、残りの各人は来る戦いに向けて己を鍛え、研鑽を積むように」
交信が終わり席を立つリリス。暗かった部屋に光が灯り、全体を照らす。
するとそこには6つの小さな人形が置いてあった。
デフォルメされているが、悪魔のような人形や豚のような人形があり、これこそが各領地にいる魔王たちの城へと映像と音声を届ける魔法道具だった。
誰が呼んだか、リバースドールと名付けられたぬいぐるみ達を部屋に残しリリスは塔を発った。
リリスが塔を発ってから数分後、数百年間自ら動く事が無かった塔の守護者が動き出した。
ギギギと音を立てながら両手を門に押し当て這いずり出た一体の腰から下には立派な骨の足があった。
それどころか、普段見えなかった背中には骨で編まれた複雑な形をした翼があった。
守護者は大きく咆哮すると背中の翼を大きく羽ばたかせ空へと浮上した。
手に持つは巨大な大鎌が一振り。赤く光った眼を凝らし、自身を呼び寄せる強大な波動のいる先を見つけた。
するとリリスを軽く上回る速度で守護者は飛翔する。
目覚めた主が呼んでいるのだ。駆けつけねばなるまい。例え不要だと言われようとも、この身は主の為に存在するのだから。
目指す先はゼクステリトリーの端にある平原だ。守護者は数千年振りにまみえるだろう主を思いただまっすぐ突き進む。そうひたすら真っ直ぐに。
「ひゃっ!なんでアイツがここに!門から出たことなんて一度もないじゃないっ!?いや、追いつかれる!てか私より早い!誰か!たすけっ___ぷぎゃっ!!」
途中何かにぶつかった気もするが関係ない。この身は主に為だけに。
いざ行かん。我が主、魔神様の元へ。腹の激震アタックが震えるのが待ち遠しいわ、と。
この日、刎ね飛ばされたのは哀れな少女だけでなく、翼手族や有翼族だけでなく空の王者である竜種までもが刎ね飛ばされ、餌食となった。
凶悪な守護が門から飛び出し空を飛び獲物を狩る姿はまさしく死神のようでその日を境に塔の半径数千キロメートルを飛ぶ魔族や魔物はいなくなったという。




