私は、ヴァレンツァ公爵と出会いました。
披露宴は相手方の屋敷で行われた。ホールは公爵邸というだけあって豪華で、天井に飾られた蝋燭の火にシャンデリアの影がゆらめき、壁自体が宝石のような輝きを持つ。
けれど、それとは対照的に宴の席は薄寒いまでの沈黙と、陰口に満ちていた。
公爵家と伯爵家の結婚披露宴とは思えないほど招待客は少なく、そのほとんどは公爵の縁者と残りの少しはセチーリアの友人である。
セチーリアの夫となるルークス・セルヴィア——ヴァレンツァ公爵の事は父からいくつか聞いた。
まず彼は社交界では有名な存在で——まあ、公爵家なのだから当たり前といえば当たり前か——剣の名手で文武両道だが、いついかなる時も言葉を発さず、そのことから「口無し公爵」と呼ばれているらしい。
ちなみにセチーリアは「恥知らずのセチーリア」と呼ばれているし、実家のモンティーニ伯爵家は「カンネランニ伯爵家」と呼ばれている。
貴族というのはよくよくあだ名が好きらしい。
隣に座るヴァレンツァ公爵を、気づかれないよう目だけで振り返る。確かに、初対面の今朝の結婚式から今まで、セチーリアは一度も彼の声を聞いていなかった。
整えられた黒髪と真っ直ぐ前を見つめる赤い瞳は硬い雰囲気があり、あだ名のことを知らずとも確かに話しかけにくいだろうな、と思う。
父はというと、セチーリア達への挨拶を手早く済ませ、酒に頬を赤らめながら親類とご機嫌に話していた。
彼の隣のテーブルを見るとちょうどカンネランニが置かれている。
カンネランニは筒状の生地を焼いた料理で、要は”芯がない”のである。
ふと視線を感じて目をやると何人かの女性たちがちらちらとこちらを見ていた。
中心にいる金髪の女性が扇の裏で何かを言って、周りの人々が笑い合う。
けれど残念ながら、『声』は言葉を連れてくるからセチーリアにはそれが何なのかわかってしまう。
声を低くして、扇で口を隠してまでこちらにばれないようにしている——もしくはその振りをしている——のにその努力を水の泡にするようで、その遊びに水を差すようで、ごめんなさい、といつも片隅で思っている。
セチーリアがちょいちょいと手をこまねくと、彼女達から生まれた『声』達が吸い寄せられるようにこちらに寄ってくる。彼らが連れて来た声に耳を澄ます。




