消えた同級生(中編)
「さて、何処から手を付けます?」
「履歴書を送ってもらいましたので、住所から訪ねてみましょう」
履歴書を撮影したデータを送ってもらっていた。
履歴書に記載された住所を尋ねた。
そこには小泉家があった。
「おや。小泉さんが住んでいるようですね」
「意外でした。てっきり、適当な住所を書いてあるのかと思いました」
小泉家を訪ねてみる。
「はい」と返事があって、初老の女性が顔をのぞかせた。
警察バッジを見せて「少し、お話をお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」と言うと、「えっ! 警察⁉」と驚いた様子だった。
身に覚えがないということだろう。
「小泉雄太さんのことについて、お聞かせください」
「雄太ですか? 雄太はもう亡くなりましたけど」
「お亡くなりになった?」
「はい」
女性の話によれば、小泉雄太は中学に上がると直ぐに心臓病を発症し、中学を休学し、治療につとめた。だが、その甲斐がなく、一年ほどで亡くなったということだった。
「中学校に通ったのは、一カ月だけでした」
女性はそう言って目頭を押さえた。石川の同級生の話と符号していた。
「小泉雄太さんの名を騙るものがいるみたいです」と言うと、「あの子の名前を⁉」と女性は驚いていた。
心当たりがないか尋ねてみたが、「分からない」という返事だった。
「あの子の名前を騙って、一体、何をしたいのでしょうか?」と聞くので、「それを調べています」と答えておいた。
小泉家を辞去する。
「犯罪者は勿論ですが、俗世のしがらみから解放されたくて、戸籍を売買するものが後を絶ちませんからね。誰かが小泉雄太さんの経歴を利用したのでしょう」と森が言う。
「犯罪絡みでなければ良いですけど」
「経歴詐称は立派な罪ですよ」
「そうでした。さて、次はどうしましょう?」
「携帯電話会社を当たってみましょう」
「そうですね」
携帯電話の登録には身分証明書が必要だ。小泉雄太を騙る人物の本当の名前が分かるかもしれない。
電話番号から割り出した携帯電話会社を訪ねた。
「個人情報を開示するのはちょっと・・・」と対応に出て来た女性に渋られた。
石川が頼み込む。「この携帯電話番号が詐欺に使用されている可能性があります。これ以上、詐欺被害者を増やさない為にも、ご協力、願えませんか」
「詐欺ですか・・・」
「個人情報を開示できないとおっしゃるのなら、“はい”か“いいえ”で結構ですので、答えてもらえませんか?」
「は・・・はあ」
「この電話番号の契約者は小泉雄太という人物ですか?」と石川が聞くと、女性はタブレットの画面を覗きこみながら、「いいえ」と首を振った。
「おや、小泉雄太を名乗る人物が使っていたのが、この電話番号だったのですけどねえ~変ですね~」と森。
「一体、どなたが契約しているのでしょう」
「それは・・・」と女性はタブレットをそっと見せてくれた。
――中山英忠。
契約者の名前はそうなっていた。石川は素早く住所を記憶すると、「どうもありがとうございました」と女性に礼を言って携帯電話会社を後にした。
「次のターゲットが決まりました。中山英忠という人物を訪ねてみましょう」
「そうしましょう」
二人は携帯電話契約にあった中山英忠の住所に向かった。驚いたことに、中山の自宅は小泉家の近所だった。
中山英忠は八十歳の老人だった。
自宅を訪ねると、娘らしき女性が現れ、警察バッジを見せられた時は、はっとした表情だったが、「中山英忠さんからお話をお聞きしたいのですが」と言うと、「父に何の御用ですか?」とほっとした様子で尋ねた。
「父は、その・・・認知症でして、ちゃんとした話が出来るかどうか・・・」と女性。
「認知症?」
「はい。ここ一年くらいで急に悪くなって・・・昔のことはよく覚えているのですが、最近のことは直ぐに忘れてしまいます」
「そうですか。お父様の携帯電話は今、どちらに?」
「携帯電話ですか?」
「ええ。携帯電話をお持ちのはずですけど」
「ええ、持っていましたが、そう言えば最近、携帯電話を見ていませんね。家の中の何処かにあるものだと思って、気にしていませんでした」
「お父様の携帯電話、家にありますか?」
「探してみます」
家の中を探して回ったが、見つからなかったようだ。「ちょっと携帯を鳴らしてみます。そうすれば、何処にあるのか分かりと思いますので」と携帯電話に電話を掛けてみたが、電源が入っていなかった。
「日頃、滅多に使わないので、何処かに置いたまま充電が切れてしまったのだと思います」と女性が申し訳無さそうに言った。
「小泉雄太という人をご存じですか?」
「小泉さん? ああ、ご近所の。雄太君というと、あの病気で亡くなった子ですよね」
「ご存じなのですね」
「ええ、まあ、ご近所ですし。それに、息子の聖也が雄太君と同い年で、仲が良かったですからね」
「ほう~で、息子さんは、今、どちらに?」と森。
「それが・・・」と女性が顔を曇らせる。息子の聖也は就職し、横浜市内のアパートに住んでいて滅多に帰ってこないと言う。
住所を聞いておいた。




