消えた同級生(後編)
「ところで息子さん、どちらの高校を卒業されました?」、「大学はどちらに?」、「大学卒業後はどちらにお勤めで?」と石川が尋ねた。
女性の答えは、例の履歴書に書かれた経歴と一致していた。
どうやら間違いないようだ。経歴に書いたのは自分の経歴だったようだ。中学校まで小泉雄太と同じ学校に通ったのだから、当然、中学まで同じ経歴になっていて不思議ではない。
中山英忠に会ってみた。
にこにこして人の良さそうな老人だった。耳が遠いようで、「あんたの言うことは分からん」と石川の言葉が分からないようだった。
代わって森が「携帯電話はどこにあります?」と聞いてみたが、「昼飯は食った」とまるで通じなかった。何度か耳元で怒鳴ったが、「知らん」、「分からん」という答えしか返ってこなかった。
「すみません。男性の低い声が聞こえ難いようです」と女性が謝った。そして、「あの・・・息子が何か、しでかしたのでしょうか?」と不安そうな表情で聞いた。
何か息子に関して心配なことがあるのだ。
「いえ、お話をお聞きしたいだけです」
二人は中山家を辞した。
「亡くなった小泉雄太さん、そして携帯電話の持ち主、中山英忠さんと親しい人物が浮上して来ましたね」
「話を聞いてみましょう」
中山聖也のもとに向かった。
日中の昼間だと言うのに、聖也はアパートにいた。
「刑事さん?」と意外そうな顔で二人を迎えた。
「ちょっと話を聞かせてください」
「はあ、何でしょう?」
「小泉雄太さんをご存じですよね。あなたの幼馴染で中学生の頃に亡くなった」
「はい」と聖也の顔が曇る。
「あなた、小泉雄太さんの名を騙って就職の面接を受けましたね?」と石川が言うと、間髪入れずに「すみません!」と聖也が頭を下げた。
「携帯電話番号として、お祖父さんの携帯電話番号を使いましたね」
「すみません」と聖也が重ねて謝る。
「何故、そんなことをしたのですか?」
「すみません」ともう一度、謝ってから聖也が事情を説明してくれた。
聖也には付き合っていた女性がいた。会社の同僚だった女性で、一年ほど付き合ったのだが、突如、別れを切り出された。
聖也は納得できなかった。
突然、「別れてほしい」と言われ、我を失った。
「ストーキングをしていたつもりは無かったのです」
理由を教えてくれない彼女をアパートの前で待ち伏せした。それを女性に通報されてしまった。ストーカー被害を訴えられ、聖也はストーカーとして認定され、接近禁止令を受けてしまった。
「多少、言葉がきつくなったりしたことはあったかもしれません。ですが・・・ですが、彼女に危害を加えるつもりなんてありませんでした」と聖也は言う。
「それに、付きまとったりなんかしていません。多少、強引なところはあったかもしれませんが、いきなり、『さよなら』と別れを切り出したのに、訳を教えてくれない。納得が行かないのは当然でしょう?」
「・・・」
接近禁止令を出されているのだ。目に余る行為があったことは間違いないだろう。
「段々、分かって来たのは、彼女がもっと条件の良い男に乗り換えたってことです。だから、僕は捨てられた。でも、まあ、そのことが分かってからは、彼女に対する見方が変わりました。所詮は、そんな女だったのだって。ですが・・・」
「ですが?」
「彼女が会社の同僚に言い触らしたものだから、ストーカーとして認定されてしまったことが社内で噂になってしまって・・・僕はクビを切られてしまいました。職を失ってしまったのです。それからは、何をやっても上手く行かなくなって・・・」
無職では生きて行けない。いくつか求人に応募してみたが、最終面接で落とされてしまった。
「前の会社から、『ストーカーだから採用しないように』お触れが回っているのかと思いました」
流石に、それはないだろう。
「だから、小泉雄太さんの名前を騙ったのですね?」
「僕は追いつめられていました。別人になれば、職がみつかる。過去を消し去ることが出来る。そう思ってしまいました。雄太とはご近所で幼馴染でした。ずっと一緒に遊んで来た仲でした。雄太がいなくなった時はショックでした。今でも雄太が生きていればと思うことが、時々、あります。雄太に先の人生を歩ませてやりたかった。だから、僕が代わりに、雄太の代わりに、雄太として生きてやろう。そう思ったのです」
「分かりました。ですが、経歴詐称はダメです」
「すみません。もうしません」
二人は中山聖也のアパートを後にした。
「特に事件性は無かったようですね」と石川。
「ええ。安心しました」
「彼、これから大変ですね」
「だからと言って同情はできませんよ。接近禁止令を受けていますし、会社をクビになっているのです。恐らく、我々には言えないようなことをしたに違いありません」
実際にストーカー行為があり、警察でも会社でも、それを重要視したと言うことだ。
「そうですね」と石川は頷くと、「結果を多和田君に伝えておきましょう。謎が解けて、すっきりするでしょう」と言った。
「事件の芽をひとつ、摘んだのかもしれません」と森も満足そうだった。




