鮮血伯爵 4
「ぅウェルターぁああ!!」
屋敷に響き渡る怒声。
幼少の頃より聞き慣れたそのだみ声に、私はやれやれとばかりに大きなため息をついた。
「ここに居ますよ兄上・・・一体どうしたというのです? 久しぶりの再会だというのに、やけに騒がしいではありませんか」
ツカツカと硬質な靴音を立ててこちらに向かってくる兄の姿。肩で風を切り、大股で力強く歩いているその姿からは、普段の気弱な彼からは想像がつかないほどの怒りの感情が感じられた。
兄は椅子に座って読書をしていた私の胸ぐらを両手でつかみ、無理矢理立ち上がらせると、私によく似たその双眸で、キッと睨み付けてくる。
「・・・貴様、よくも父上を!」
激高する兄に、しかし私はあくまでも冷静に彼の右手を捻りあげた。その痛みに彼はパッと体を離す。
私は優雅に乱れた衣服を正しながら、面倒くさそうに口を開いた。
「弟とはいえ私は家長です・・・胸ぐらを掴み上げるなんて貴族としての品位を疑ってしまいますね」
「親殺しの大罪人がよくもそんなことを言えるなウェルター・・・」
忌々しげにそう言う兄に、私は淡々と用意をしていた返答を口にする。
「何を言うのですか兄上、父上は暴漢によって殺された。そう伝えた筈ですが?」
「そんな訳があるか!! 父上は貴様に殺されたのだ!」
「父上が暴漢によって殺されたという事実はエルマー殿下も認めていますが?」
「・・・・・・殿下が認めた・・・だと?」
黙り込む兄。
激高していたとはいえ、王族が認めた事実を否定するという事がどういう事か判別できる程度には理性が残っていたようだ。
しばらく無言でこちらを睨み付けていた兄だったが、ゆっくりと体を反転させると私に背を向けた。
「・・・・・・後悔するぞウェルター。私は貴様を許しはしない」
ぼそりとそう言うと、返事も待たずに退室する。
その後ろ姿を見送りながら、私はシニカルな笑みを浮かべるのだった。
「後悔? 笑わせないで下さいよ兄上・・・アナタが私に勝っているのなんて歳の数くらいでしょうに」
ヤツを殺しはしない。その価値すらもない。
生きていても何の障害にもならない雑魚を殺すほど、私は暇ではないのだから。
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