鮮血伯爵 3
「大義であるラヴァル郷。此度の戦果には陛下もお喜びだ」
一切の熱を感じさせない、驚くほどに義務的な言葉。しかし私はその人物の前で深々と跪いた。
「恐縮でございますエルマー殿下・・・私の戦でこの国に貢献できたのなら、これ以上の喜びはございませんとも」
国王陛下の息子・・・王位継承権第3位の王子、エルマー殿下。彼は感情があまり表に出ることが無く、端正なその顔立ちも相まって、しばしば人形のようだと例えられる。
非常に優秀な人物で、しかしその優秀さ故に他の王子達からは疎まれているという。
「来週の宴には、是非貴殿も参加してもらいたい・・・・・・陛下じきじきに褒美を取らせるそうだ」
「謹んで参加させていただきます」
深く頭を下げる。
王子自らがわざわざ私の住居まで足を運ぶ、つまりコレは陛下がこの私の事をそれだけ重要だと考えている証拠でもあるのだ。
「・・・ああ、そういえばラヴァル郷。最近王国からの使者がやってきてな」
「ほう、王国から?」
我が祖国である帝国と、隣国である王国は犬猿の仲だ。ことあるごとに小競り合いを繰り返し、双方流した血は数知れない。
「休戦を申し出てきた・・・どころか、しばらくの間協力関係にならないかと言ってきた」
その言葉に、私は方眉を上げてしばし思考を巡らせる。この申し出は尋常な事ではない。王国がそこまでせざるを得ない理由・・・それは・・・・・・。
「・・・・・・魔王関連ですかな?」
「左様。人類の共通の敵に立ち向かうため、今は隣国で争っている場合ではないとの事だ」
私はそっと殿下の表情を伺うが、ポーカーフェイスの彼から感情を伺い知る事はできない。しかし優秀な彼の事だ、この話題がただの雑談ということはないだろう。
つまりは雑談という体で、この件に関して私の意見を求めている・・・私はそうあたりをつけて、自分の意見を口にした。
「その協定は受け入れるべきですな・・・兵も小隊程度でしたら貸し出しても良いでしょう。しかし、貸し出す兵はこちらの主戦力であってはなりません・・・そして、魔王討伐の主体となるのは王国であるべきです」
「ほう、その理由は?」
「確かに魔王は驚異ですからな。討伐すべきです。そして隣国同士で争っていてはそれが敵わないのも道理・・・王国とわが祖国は周辺国家の中でも特に大きな国ですから」
「・・・続けよ」
私は静かに頷いて口を開く。
「ですが我らは魔王討伐後の事まで考えねばなりません。魔王討伐に最大戦力を投入するなど愚の骨頂。そういう損な役回りは王国にやってもらうのです・・・そして魔王戦で消耗した王国を、我らが叩けば容易く国は墜ちましょう」
私の言葉に、殿下は少し考え込むような様子を見せた。
「確かに理にかなっている・・・かなってはいるが・・・そんな動きをする我が国を、他の周辺諸国が許しはしないだろう?」
「ふふ・・・だから私が居るのですよ殿下」
「・・・どういう事だ?」
「魔王戦の間、私と帝国の主戦力は完全にフリーです。ならば、その間に周辺諸国を私が一つ一つ回って説得して回りましょう」
”鮮血伯爵” の名を持つこの私が、わざわざ小国へ自ら赴く・・・この”説得”は、対話というよりはむしろ脅迫に近い。
「なるほどな。流石はラヴァル郷。その発想は私では思いつかないものだ。礼を言おう」
「勿体なきお言葉」
心なしか満足げな殿下は、帰り際についでとばかりに口を開いた。
「そういえば、お父上が亡くなったそうだなラヴァル郷」
「ええ、無念です。まさか我が住居からの帰り際に暴漢に襲われるなんて・・・」
しらじらしくもそう言った私に、殿下はお見通しだとばかりに小さく鼻を鳴らした。
「そういうことにしておいてやろう・・・貴殿が祖国にとって重要な駒である内はな」
その言葉に、私は満面の笑みで深々とお辞儀をする。
そうだ、父を始末したことなどバレても構わない。何故なら私は優秀だから・・・この程度のことで、帝国が ”鮮血伯爵”を手放す訳が無いのだから。
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