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Legend of kiss5 〜森の王子編〜  作者: 明智 倫礼
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The Binding of Isaac

 夏の日差しが、カーテンを通して、白い頬に触れていた。


「ん……?」


 薄手の毛布から、金の髪が多方向へ優美な川のように流れている。


「Morning?」


 純粋という宇宙が広がる、サファイアブルー瞳がゆっくり開けられ、


「What time?」


 少し気だるく、体をよじる仕草は、まるでビーナスのように美しい。中性的な雰囲気を漂わせ、その胸元に、肌身離さずかけられた、ロザリオがシーツの上にさらっと降りてきた。


「Prayer(祈り)……」


 春風のように微笑むその人は、ルー スチュワート、十七歳。国籍はイギリス。家業の都合で、日本へ去年の四月やって来た。思考回路は複雑怪奇。物腰は、天使であり、全ての人をひれ伏させるような威圧感のある皇帝。性格は二面性も持っていて、時には混在する時もある。


 今は、純粋さを持つ天使。ロザリオを両手で握りしめて、


「I thank God for having my day happened safely. Amen」

(今日という日を、無事に迎えられたこと、感謝します)


 運命に操られるように、敬虔《けいけん》なクリスチャンとして生きている。一日の初めはいつも、生きていることへの感謝を捧げることから始まる。


 ローブを思わせる、白いシルクのパジャマ。すうっと起き上がって、机の上に乗せられた、聖書へとサファイアブルーの瞳が向けられた。


「The Binding of Isaac. (イサクの燔祭《はんさい》)……」

(なぜだろう?

 そこが、とても気になるんだ。

 ボクの中で、強い引っ掛かりがあって。

 何かを警告してるみたいで。

 心……ううん、魂の奥底で、チリチリして。

 おかしくなりそうなんだ。

 誰か別の人がいるようで……)


 そこで、不意に電子音が、


 ピピピッ!


 と鳴って、美しい指先が携帯へ向かって、タップしたと同時に、ミラクル天使に大変身!


「ち〜こくさんと、ひ〜かる先生、足したら〜、仲良しさ〜ん♪」

(遅刻すると、光先生に悪戯されるんだ。

 彼は頭がとてもいいから、策略してくるからね)


 そこへ、窓の外から、レイトの密かなツッコミが。


『仲良しじゃないわよ。罠仕掛けてくるんでしょ? ヒュー ウィンクラー。昔から変わらないわよね、あの男も。人に悪戯ばっかりして〜。快楽っていう罠に自分がはまってんのよ』


 精霊族の力を魂の奥底に無理やり沈め込めさせられたルーには、レイトの声は聞き取れず、姿を見ることも出来ず。机へ振り返って、聖書をじっと見つめて、


「息子のかわりに、それを燔祭の犠牲として捧げた……」

(Compensation for sacrifice. (贄の代償)……)


 長い金の髪をかき上げ、ベッドから起き上がり、カーテンを開けた。その眼前は、きらめき市が一望できるベストポジション。タワーマンションの最上階。


 人などいないはずの、空の上ーー同じ高さに、紫髮の人が地上に立っているように浮かんでいた。


「ルーちゃん、いよいよ始まったわね」

(お久しぶり〜。

 十六年経っても、か・わ・い・い♡)


 アメジストの指輪をした、綺麗な指で、髪をさらっとかき上げて、


「旧約聖書、創世記22章1節から19節、イサクの燔祭……」

(そんなものに、気ぃ取られちゃって。

 嫌な予感、思いっきりするじゃな〜い)


 ルーはカーテンを開けたまま、無防備に着替え始めた。レイトは滑らからな白い肌を見て、


「あんた、いつ見ても、綺麗な体してるわね。まるで、あんたの心を映してるみたいーー」


 レイトはそこで、自分の行為に気づいて、両手で顔を覆った。


「って、いや〜ん、のぞき見になってるわよ」


 BL王子は背をくるっと向けて、遠くの夏空を眺めて、遠いラピスラズリに想いを馳せ、


(あんた、もしかして、あれ、やってるんじゃないでしょうね?

 昔、よくしてたやつ〜。

 バイセクシャルって、思いっきり勘違いされたわよ。

 誰とでも、あんた手つなぐから、誤解されんのよ〜。

 それだけじゃなくて〜、誰にでもーー)


「って、話聞きにいかないといけないのよ、あっちに」


(あたしの魂も修業とか言われちゃって、悠《あの女》、全部教えてくれないのよね)


 レイトはルーの部屋へ振り返った。もう、着替えを終えたようで、ルーの姿はなく。


「入るわよ〜」


 綺麗に磨かれたガラスの中へ、手を伸ばした。何の境界線もなく、すっと中へ入った。


「どこ〜? 闇雲に探すの嫌だから、使っちゃう〜」


 レイトは右の人差し指を、額に当て、目を閉じた。何かの景色がふと、水晶に映るように、浮かび上がった。


「え〜? ちょっと、待ってよ。これもずれちゃってるの?」


 鮮やかな赤髪と、整った顔立ちを見つけて、レイトはその場で悶え苦しんだ。


「いや〜ん、セリルちゃんの寝顔見ちゃったぁ〜♡ 何年ぶりかしら? 今から襲いにいっちゃおうかしら?」


 自分の目的を忘れて、王子ゲット作戦に変わりそうになっている、アメシス王子。その場で、BL妄想。


(一緒のベッドに入って……。

 色々、触って……起こして……。

 『何だよ?』とか、聞かれちゃって〜。

 『え〜、いつもと感じ違うじゃな〜い?』 って言って。

 いつもの、セリルちゃんだったら〜、『何だって?』でしょ。

 真剣な時って、言葉遣い変わるのよね〜。

 そのまま、抱き寄せて〜。

 唇に近づいてーー)


 そこで、神ーー悠の声が割って入った。


『レイトも記憶、消し欲しいですか?』


 レイトは斜め上を見上げて、


「ずいぶんスケールの大きいパワハラね、あんた」

(想像ぐらいしても、いいじゃな〜い)


 神に文句を一言言って、ルーの部屋から、アメシス王子は出ていった。

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