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第6話 街へ



 行く時に付けた印を辿って行き、数キロ歩くとアルトリアの家についた。もう暗くなってきていたのでライネスは家に泊まっていくことを提案し、ネロも最初は遠慮していたが夜に幻惑の森を抜けるのは無謀だと分かっていたので、厚意に甘えることにした。

 

 それからライネスとネロで食事の用意をし、疲れたのかソファで寝ていたアルトリアを叩き起こして食卓についた。

 

 「それにしても、よく迷わなかったね〜。幻惑の森は印を付けても迷うって噂なのにー」

 

 「僕も最初は迷ったんだけどね。アルトさんと一緒だと不思議と迷わないみたい」

 

 「へえ〜。もしかしてアルトって妖精なの?」

 

 その質問にアルトリアはローブをばさあっと靡かせて答える。

 

 「ふっ。我輩は見たものを地獄に落とすとまで言われた悪逆非道の権化、第54代悪魔公爵アルトリア・ロイド様だ!!」

 

 その瞬間、ネロの肩がピクリと動いた。

 

 「その数字、毎回違ってるような……」

 

 「あはは〜。アルトって面白いねー」

 

 「うむ。崇め奉るがよい!」

 

 「それもう悪魔じゃなくて神じゃないですか…」

 

 そんな感じで和気あいあいとした夜を楽しんだのだった。

 

 

 翌日。ネロを街まで送るためライネスは寝こけていたアルトリアを叩き起こした。ちなみにネロの街はラストアではなく隣街だそうで、ライネスは安堵した。

 

 「んん〜。まだこんな時間ではないか…。我輩は二度寝という重大な任務があるのだ、次は起こすでないぞ…」

 

 「何言ってるんですか!ネロくんを街まで送りますよ!この辺りは危険なんですから!」

 

 「ん〜。あと5時間…」

 

 「だめです……って長っ!」

 

 その後なんとか起こして準備をさせ、家を出たのだった。

 

 ライネスもアルトリアも街までの道など分からなかったが、ネロが何となく分かるかもといったのでそれに従うことにした。

 

 「それにしてもどうして幻惑の森に?ここは一旦入ったら出られないとまで言われてるのに…」

 

 道中、ライネスはネロに訊いてみた。幻惑の森に入るのは自殺行為とまで言われているのだ。まあ、人のことはあまり言えないが…。

 

 「ん〜。珍しい薬草の採取依頼があってね〜。街から5日かかるところで採れるかどうかってやつでねー。そしたらパーティメンバーが、幻惑の森でなら採れるんじゃないかって言い出して〜。僕は反対したんだけどー、結局押し切られちゃってね〜。幻惑の森の噂も誇張されただけで実際は大したことないと思ったみたいだねー」

 

 「そうだったんだ…」

 

 「それより、僕の方こそ訊きたいよ〜。どうしてこんなところに住んでるの〜?ていうか、何事もなく暮らしているのが驚きだよー」

 

 「う……それは…」

 

 確かに、何故あの家の周りだけ魔物が寄ってこないのか不思議ではあった。いや、それだけでなく、昨日森を歩き回ったときもフォレストボア以外の魔物に遭わなかった。街から逃げてきたときは散々追いかけられたというのに…。

 その辺りはライネスにも謎だったし、何故住んでるのかは込み入った事情になるので、そう安易と教えるわけにもいかない。返答に窮していると、アルトリアが割り込んできた。

 

 「ふはははは!我輩ほどの偉人になると、ごちゃごちゃした狭苦しい場所になど住めんのだよ。我輩の家はこのくらい広くなくてはな」

 

 そう言っているが彼の家はそこまで広くはない。精々街にある家より少し広い程度である。

 どういう意味だろう、とライネスが首を傾げるとネロがポンと手を打った。

 

 「つまりこの森自体がアルトの家だってことかな〜。壮大だね〜」

 

 「ええ!?昨日まで引きこもりだったくせに何言ってるんですか!」

 

 「ふん。過去のことをいつまでも持ち出すでない!こんなちんけな森、庭としては狭いくらいだ」

 「ええー。過去って、一日しか経ってないじゃないですか…」

 「あはは~」


 そうして歩いていると、鬱蒼とした木々のせいで薄暗かった森が徐々に明るくなってくる。幸いなことに魔物との遭遇はなかった。


 「あ、あれ出口じゃない?」


 ネロが指さした先は木々が途切れ、明るい景色が広がっている。ネロの勘に頼って歩いていた一行だが、無事森を抜けられたようだ。


 「おお!一度も魔物に遭わなかったなんて!しかも迷わずに!やっぱりアルトさんのお陰ですかね~。何か魔物が嫌う匂いでも発してるんですかね?」


 その発言にアルトリアはむっとした。


 「失礼な、人を魔物除けの香みたいに言いおって!そんな匂いなどしてないぞ」

 「冗談ですよ~。そんな怒んないでください」


 森から出ると、空には雲一つない青空が広がっていた。森では木々が覆っていたせいであまり空が見えず、久しぶりに見る爽快な景色に心が晴れやかになる。


 「ちょうど街の方角だったみたい」


 森から離れたところに街道が通っており、その先には街がかすかに見えた。


 「あれ、アルトさん?」


 街道に向かって歩いていたが、アルトリアがついてこないので止まって振り向いた。なぜかアルトリアは森の境目あたりから出てこようとしない。


 「アルトさーん。どうしたんですかー?」


 少し距離があるため声を張るライネス。


 「我輩は!ここから先には行かん!家からは出ない!絶対にだ!」


 どうやら引きこもりが発動したようだった。ライネスはげんなりした。家からは出たので引きこもりは治ったかと思ったが、森を庭と認識していただけだったようだ。


 「アルト~。おいでー」

 ネロも手招きをして呼ぶ。ライネスはなんだか犬を呼んでいるみたいだと思った。


 「我輩は行かぬ!絶対行かん!」

 何がそこまで駆り立てるのかは分からないが、アルトリアの意思は固いようだ。


 「どうしたもんか…」


 仕方ない、もう森は抜けたことだしここから先は一人で帰ってもらおう。そう思いネロの方を向いたライネスだったが――


 「アルト~。街についたらお礼においしいものごちそうしてあげるよ~」

 「……おいしいもの?」

 「うん~。森の中じゃ食べられないものいっぱいあるよー」


 ピク、とアルトリアの耳が動いた。


 「お礼に好きなだけごちそうしてあげるよ~」


 こんなんで釣れるのか、とライネスは不安に思った。いつも食事など後回しでずっと本を読んでいるのだ。むしろ図書館とかで釣ったほうがいいんじゃないか。

 しかしそれは杞憂だったようだ。


 「……ふっ。仕方がないな。この我輩にどうしてもごちそうを献上したいというのなら、受けてやってもよいぞ」

 「やった~。じゃあ行こっか~」


 案外あっさり釣れたのだった。


△▼△▼△▼


 街につくとアルトリアはずっときょろきょろしていた。ずっと森に住んでいたので街が珍しいのだろう。


 「悪いけど先にギルドに寄ってもいいかな~?」

 「僕は全然構わないけど……ってあれ、アルトさん?」


 ついさっきまで隣にいたアルトリアの姿が忽然と消えていた。早速迷子か、と辺りを見回していると「みゃあ!?」という叫び声が聞こえてきた。


 「何するにゃ!通報するにゃ!」


 そこには猫獣人の尻尾をつかんで怒られているアルトリアの姿があった。


 「アルトさんんん!?何やってるんですかああ!?」

 「む。いや視界の端で揺れていたのでつい……」


 結局猫獣人にはライネスが謝りたおして何とか通報するのは許してもらえた。アルトリアは何故怒られたのか分かっていないようだったが…。


 「あのですね、獣人の方の耳や尻尾は安易に触ってはいけないんです!アルトさんだって急に知らない人に髪を引っ張られたら嫌でしょう?」 

 「ふむ。そんなことをする輩は灰になるであろうな」

 「じゃあ、自分がされて嫌なことは人にもしないって、これ幼児でも知ってますよ!」

 「むう」


 獣人の耳や尻尾は家族や親しい人にしか触らせないというのは常識だが、アルトリアは知らなかったようだ。知らなかったことをいつまでも責めるのは酷だし、これでますます引きこもりになられても困るのでライネスはこの辺で説教を止めることにした。

 また何か問題を起こされると困るので今度はしっかりと目を光らせて歩いた。



 「ここがギルドだよー」


 そこは剣が交差する看板が掛けられた二階建ての建物だった。扉を開けて中に入るとごつい体をした荒くれもの達の視線が一斉に集まる。その視線にライネスは委縮して首を竦めた。しかしアルトリアは全く気にならないのかギルド内をきょろきょろ見回していた。


 「おいおい、ここは子供の遊び場じゃねえぞ」

 そのヤジにぎゃはは、と上がる笑い声。ただのパン屋の下働きだったライネスからみると未知の世界すぎて怖かった。

 無遠慮に突き刺さる視線から逃れるためライネスは下を向いて歩いた。そのせいでアルトリアへのマークが外れ、きょろきょろして前を向いていなかったアルトリアはどん、と何かにぶつかった。


 「おいおい痛えじゃねえか。これは骨折れたわー。治療費払ってもらわねえとなあ」

 にやにやとしながら話しかける巨漢。こいつにぶつかったらむしろ相手の骨が折れるだろうという体格だった。

 突然の事態に蒼白になるライネス。少し先を歩いていたネロは騒ぎに気付き戻ってきて抗議した。


 「ちょっと!ギルド内での戦闘はご法度でしょ!」

 「うっせえチビ!それにこれは戦闘じゃねえぜ。正当な要求だ」


 ギルド側も騒ぎに気付いていたが冒険者同士の争いは不介入が原則のため、ギルド側が止めに来ることはない。


 一触即発の雰囲気の中、アルトリアは一歩前に進んで因縁をふっかけてきた男の胸をたたいた。


 「ふむ。この程度で治療だなんだと騒ぐとは鍛え方が足りんな!出直してこい!」

 「……あ?」


 その瞬間、さらに空気が悪くなった。周りの冒険者もざわざわと声を上げる。


 「おいあいつ、ゴートンに歯向かったぜ」

 「ああ、終わったな。なんせ奴はCランクだしな」



 「上等じゃねえか。表出ろやゴラア!」


 「ふっ、よかろう。この稀代の幻術師、アルトリア・ロイド様が相手してやる!」


 

 

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