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鉄錆戦機セコハンウォーカー  作者: どくとるフランキ
2. サージカル・ストライク
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2-3 ウサギの巣穴の向こう側

 鋼の巨人が崩れ落ちる。ハッチの吹き飛んだ開口部からもうもうと煙を吐き出し、全身のフレームを軋ませながら。敵の包囲網を抜けるべく、ウィルに手を引かれながら地下水路をよろよろと進んでいたアレクシスは思わず足を止め、枯れ川の土手に開いた丸い排水口越しに敵ウォーカーの最期を見届けていた。

「3番陣地の無人銃座がやったみたい」

 隣のナトカが、向こう岸の排水口を指さす。先程敵ウォーカーを仕留めたロケットの噴煙は、護岸に開いた丸穴のうちの一つから伸びていた。

「ロケットランチャーを配備しておいて正解だったわね。やっぱりウォーカーを出してきた」

 それ以外の排水口からはマズルフラッシュが明滅し、地下に攻め込もうと大挙する生身の野盗(マローダー)目掛けて鉛弾を絶え間なく吐き出し続けている。放棄された水路をトーチカ代わりに利用した防御陣地。即席で作ったにしては、余りにも出来すぎている。

「自動銃座とは考えましたね」

 未だ身体の勘が戻らないアレクシスを小さな身体で支えながら、消音拳銃を片手でリロードするウィル。銃口からは白い煙が立ち上り、連続使用によりサプレッサーにも限界が来ている。

 病室を脱出してからここまで、ウィルは既に3人の野盗(マローダー)を仕留めている。そして彼らを導く危険な闇医者、クロエ・アリサカが倒した数は、その3倍を下らないだろう。消毒液と脱脂綿で作った火炎瓶に、メスの替刃を空き缶に詰め込んだ即席手榴弾、果ては筋弛緩剤入りの注射器を発射する吹き矢まで。あらゆる殺しの手段を取り揃えるこのイカれ眼鏡は、本職の傭兵すら驚愕させるほどの躊躇の無さで、群れなす敵に次々と死を無料配布していった。

「なあセンセイ、人を治すのと始末するの、どっちが本業なんだ?」

 ポーチからドクロの描かれた薬瓶を取り出すクロエに尋ねる。すると返ってきたのはこんな言葉だ。

「どっちも似たようなものよ。人の生き死にを科学の力でどうこうする、って意味ではね」

 クロエはそう言って不敵に笑うと、隊列の先頭に立って歩みを再開した。残る3人も彼女の先導に従い、狭い地下水路を行進する。


「こっちよ」

 彼女が指差す先には、下層へと続く錆びた階段があった。照明無しにその先を見通すことはできないが、闇の向こうから聞こえる水音からすると、まだ水を湛えているらしい。

「この先に私の船が控えてるわ。敵が無人陣地と殴り合ってる間に水路を通って転進しましょう」

「随分と準備がいいな」

 まるで敵がこうして攻めてくるのを予想していたかのようだ。実戦経験で培われた、アレクシスの危機回避本能がアラートを鳴らし始めた。

 何年も連れ添っているウィルや、自分達が守ってやらねば確実に死ぬナトカとは事情が違う。このクロエとかいう闇医者は、本来なら部外者なのだ。野盗(マローダー)に自分達の身柄を引き渡して、自分一人で助かることも出来ただろうに、そうしなかったということは、つまり今ここでアレクシス達に死なれると困る事情があるのだろう。

「……先輩、どうします? 罠かもしれませんよ」

 唯一無二の相棒も、どうやら同じ匂いを感じ取っているらしい。クロエに気付かれないように肩を叩き、小声でそっと話しかけてきた。

「お前もそう思うか」

 先へ進むにつれて低下する光量。先頭を行くクロエの懐中電灯だけが頼りだった。そしてそのクロエは、先程からずっとナトカの手を引きつつ、しきりに何かを耳打ちしている──やはり、怪しい。

「二人とも早く! 乗り遅れるよー」

 ナトカの呼び声が、二人の思考を遮った。女性陣はすでに水路に繋がる鉄階段を下り、クロエの用意した船とやらに到達したらしい。だが灯りを持っていないアレクシス達には、闇に包まれた階下の様子を伺うことができない。

「ナトカ、どんなフネだ!? 武装は付いてるか? 中に誰か隠れてないか?」

 病み上がりの肺で声を張り上げながら、アレクシスは悔やんでいた。こんなに連れ回すことになるのなら、せめてナトカに銃の一丁でも買ってやるべきだったと。ナトカに自分のような人殺しになって欲しいとは露ほども思っていないが、丸腰で危険人物の隣に居させるわけにもいかない。

「心配そうねえ? 大丈夫よ、文字通り大船に乗ったつもりで居ればいいわ」

 暗闇の向こう側から返事を寄越したのはナトカではなかった。癖のある、ねっとりとした口調はクロエのものだ。

「私はこのフネで何年も生き延びてきたのよ? 最大速度25ノット。23mm機関砲と爆雷投下軌条を装備、レーダーと魚群探知機まで備えた水上要塞! その名も──」

 数秒の沈黙の後、下層階の照明が灯った。裸電球が映し出したのはモスグリーンに濁った磯臭い水面、自信満々に胸を張るクロエ、そして。


「──『第13共栄丸』よ」

 古い白ペンキが皮膚病のように剥がれ落ちた、まだ沈んでいないことが奇跡のようなイカ釣り漁船だった。


「……マジかよ」

 アレクシスは自らの計算違いを悔いた。この女が怪しい振る舞いばかり見せるのは、別にアレクシス達を騙そうとしている訳ではなかった。ただ単に──取り返しのつかないレベルで頭がアレなだけである。

 サビまみれの階段を下り、促されるままボロ船に乗り込む。ハリボテのような船体に手を掛けると、触った部分の木材がポロリと取れた。

 病室で目を覚ましてから今まで、アレクシスの頭上には無数のハテナマークが旋回していた。自分はなぜ一命を取り留め、どうしてこの眼鏡と行動を共にしているのか。そしてこの奇妙なパーティは、これからどこに向かおうとしているのか。聞きたいことは山ほどある。

 この不確定要素に溢れた状況下でもただ一つ確実な事実があるとすれば、それは即ち「今この船に乗らなければ、生きてここを出る術はない」ということに他ならない。そうなれば、取るべき行動は一つだ。

「──分かった。話は後でゆっくり聞かせてもらうぞ」

 アレクシスの返事と同時に、エンジンに火が入る。どす黒い煙といささか不安な振動を伴い、クロエの漁船は地下水路を走り出した。

ウォーカー名鑑番外編 #9

 モリス式オート・タレット


 世界統一戦争のさなか、エスタンジアに抵抗する勢力の一つによって考案された自動銃座システム。三脚に照準用のカメラとモーターを取り付け、その上に適当な銃器をマウントした構造であり、カメラが捉えた目標に自動的に攻撃を加える。

 照準システムは旧世界で普及していたビデオカメラやカメラ付き携帯電話を改造して作られるものであり、材料さえ手に入れば素人でも簡単に製造できるよう工夫されている。この銃座の設計図は統一戦争中、ローラシアの前身であるレジスタンス達の間で共有され、一時は爆発的な普及を見せたが、現在では完全に忘れられた存在となっている。それはエスタンジアが戦争に勝利し、この兵器の設計図を含むレジスタンス発行の出版物を厳しく取り締まったから……だけではない。この兵器には致命的な欠陥があったのだ。

 銃座のカメラシステムは動くものが視界に入ると何であろうと自動で追尾、攻撃する仕組みになっている。有り合わせの電子部品を切り貼りして製造されるこのシステムには、敵味方を区別する機能が一切無いのだ。あるときはレンズに止まった羽虫を標的と誤認識して虚空に鉛弾を吐き出し、またあるときはタレットを設置した本人の頭を吹き飛ばす。

 考案者であるモリス氏は自らの発明品の安全性を主張するため、自分で組み立てた銃座の前に立つデモンストレーションを行った。見守る観衆に笑顔で手を振った2秒後、自動で放たれたライフル弾によりモリス氏の脳は頭蓋骨という檻から解き放たれ、自由の身となって大空高く舞い上がったのだった。

 そんなこんなで歴史の闇に消えていったオートタレットだが、ナトカがその製法をどこで覚えたのかは不明。少なくとも、周りに敵しかいない状況なら誤射の心配はないだろう。

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