表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄錆戦機セコハンウォーカー  作者: どくとるフランキ
1. アウトバック・スターツ・ヒア
PR
27/38

1-23 グラッジ・マッチ (中編)

「──行くぞ!」

 月明かりに照らされ、張り詰めた緊張感の中で睨み合う2機の巨兵。最初に仕掛けたのはホフマン曹長のヴォルフガングだった。夜の帳をチェーンソーの爆音で切り裂き、アレクシスのソーダ・ポッパー目掛けて袈裟懸けに振り下ろす。

「くうっ!」

 間一髪のバックステップ回避。高速回転する刃は肩口を掠め、機体表面に取り付けられた手摺や機外装備品をもぎ取っていった。

 続けざまに二度、三度と繰り出される連撃。チェーンソーが唸るたび、ある時は身をよじらせ、またある時は火炎放射器で牽制して直撃を防いだ。だが7度目の攻撃、胸部目掛けて放たれた薙ぎ払いは機体装甲で受け止めるより他なかった。激しい切削音とともに、刃先がソーダ・ポッパーの脇腹に吸い込まれる。

「ぐあぁっ!」

 機内を襲う衝撃。コクピット狙いの攻撃を逸らすことができたのは僥倖だった。だが、それでも機体を襲うダメージは凄まじい。機内灯が明滅し、計器盤の警告灯がクリスマスツリーのように点灯する中、コクピット内壁に固定されていた金具やリベットは衝撃で吹き飛び、無数の金属片と化して二人のパイロットの肌を掠めた。

「先輩! このままじゃ……!」

「分かってる!!」

 削り取られた装甲が火花と化し、コクピット内にまで暴風雨のように吹き込む。これまで乗っていた、重装甲のスーパージャグと違い、ソーダ・ポッパーは飽くまで軽量級機。既に敵の刃先は装甲板を完全に貫通、アレクシス達の命を繋いでいるのは機体の内部フレームと、コクピット内壁に取り付けられたロールケージだけ。持ってあと数秒だ。

 ソーダ・ポッパーはその手を伸ばし、油圧駆動の鉤爪をもってヴォルフガングの腕部を掴まんとする。だがクローが敵を捉えるより先にヴォルフガングが動いた。チェーンソーを引き抜き、ガゼルのように跳ね退く。

(そう簡単には殺らせてくれねえか!)

 宙を掻くパワークロー。だが、攻撃を中断させられただけでも十分意味はある。一旦間合いと時間を稼ぐべく、両肩の投射機から足元の地面に向けて白燐発煙弾を叩きつける。手負いのソーダ・ポッパーは白煙に紛れて全速後退、プレハブの兵舎の陰に身を隠した。


 態勢を立て直すには、敵の手から離れられた今しかない。燃料切れの火炎放射器をパージし、背部の武装ラックから次の武器を取り出そうとする。と、そこでアレクシスは、右腕部が一切の操縦を受け付けないことに気付く。計器盤に並んだ無数のランプは、右マニピュレータの油圧・電気系統の全喪失を示していた。先程の攻撃で、胴体内部に通っていた右腕駆動用の油圧チューブや電線が寸断されたらしい。

「──クソッ!」

 左腕がパワークローに換装されているソーダ・ポッパーにとって、右腕が使えないということは手持ちの射撃武器が一切使用不能になったということを意味する。

「ウィル、機体の右腕がやられた。どうすりゃいいと思う」

 頬のかすり傷から滲む血を拭いながら、足元の相棒に呼びかける。見下ろすと、ウィルはレバーを握る両手を強張らせたまま、防弾ガラスの向こう側を食い入るように睨んでいた。

「確実に勝てる手があるなら、とっくに実行してますよ」

 これほどまでに緊張しているウィルを見るのは初めてだった。だが、第3世代ウォーカーを相手取るというのは、こういうことなのだ。ましてや、否が応でも至近距離での殴り合いを強いられる状況で、運転手に掛かる重圧というものは計り知れない。

 腕部と脚部を別々の人間が操縦する第2世代以前のウォーカーにとって、白兵戦とは一種の高等技能だ。砲手がマニピュレータを振り回すのに合わせて、運転手はつぶさな重心移動を強いられる。一瞬でも二人の同調が乱れれば機体はバランスを崩し、最悪の場合転倒事故をも起こしうる危険な機動だ。したがって、例えベテランパイロットでも、生身の人間のような腰の入ったパンチを打てる者は多くない。

 だが、アレクシス達が対峙している敵──第3世代機は違う。パイロットがただ右の操縦桿を前に倒すだけで、この電子制御の巨兵はプロボクサーのような右ストレートを放つのだ。搭載された旧世界の神秘、集積回路基板がパイロットの操縦と、その裏に込められた意図を瞬時に判断。全身のモーターが有機的に連動し、敵の弱点目掛けて精密かつ強力な一撃を叩き込む。つまり、闇雲に殴りかかったところで勝算はないということだ。

 それなら、このまま射撃戦に持ち込んではどうか。主武装の30mm機関砲や105mm砲はもう使えないが、機外上部に固定された7.92mm機銃はまだ残っている。相手も携行武装を失っている現状、条件としては対等のはずだ。

 ──ダメだ、やめておいた方がいい。対人機銃で敵ウォーカーに立ち向かう自分の姿を想像し、アレクシスはすぐさま考えを改めた。小銃弾で相手が務まるのは生身の歩兵か、非装甲のトラック程度が精々だろう。それにソーダ・ポッパーは、既に機体前面の装甲ハッチを失っている。こちらの機銃攻撃が通じなくとも、相手が同じ弾を撃ってきたら、その全てが機内に飛び込んでくるのだ。正面から撃ち合えば、一方的にミンチにされて死ぬことになるだろう。

「先輩……先輩?」

「うぉっ何だ、びっくりした」

 腕組みをして考え込んでいたアレクシスに、ウィルが不意に声をかけた。ウォーカー戦の最中に、ウィルの方から話しかけてくることは今まで滅多になかった。

「たった今、考えが浮かびました。少し、僕の言う通りに動いて貰えませんか?」


 兵舎の裏に屈み込んだまま、微動だにせず相手の出方を待つソーダ・ポッパー。対するヴォルフガングはじわりと距離を詰めながら、側頭部の拡声器からこんな言葉を浴びせ掛ける。

「どうした、怖気付いたか? 白旗を上げるなら早いほうがいいぞ」

「うるせえ!!」

 アレクシスの返答は鉛弾だった。物陰から上半身だけを露出させたソーダ・ポッパーが、対人銃座から7.92mmのシャワーを浴びせる。敵機の装甲表面で弾ける弾雨は、堅牢な均質圧延装甲には何一つダメージを及ぼさなかったが、既に勝利を確信していた敵パイロットを狼狽させるには充分だった。

 機体性能に大きな差があり、かつ撃破が望める攻撃手段が白兵戦しかない以上、勝つためには虚を突いて懐に潜り込む必要がある。機銃で射撃を続けることで、こちらが射撃戦を望んでいると誤認させるのだ。相手が格闘戦への警戒を緩めたところで一気に突撃、不意を突いてクローで一撃。それがウィルの立てた勝利への道筋だった。

 すぐさま、ヴォルフガングの頭部機銃からも返礼の機銃掃射。機外に設置された銃座を扱うため、機体上面ハッチから身を乗り出していたアレクシス目掛けて、鉛の暴風が吹き付ける。

「わぁっ! ウィル、下がれ、早く!!」

 頭部ユニットに、ショルダーアーマーに、そしてアレクシスの操る銃座のシールドに、敵弾が次々と叩きつけられ、リズミカルに死の音色を奏でる。たまらずアレクシスはその身を機内に引っ込め、ソーダ・ポッパーは再び遮蔽物に身を隠した。

「先輩、大丈夫でしたか!?」

「ウンコ漏れるかと思った」

 震えた声で率直な感想を述べるアレクシス。だが常人なら、一人で重機関銃の矢面に立つなどという危険行為は、そもそも実行に移すことすら出来ないだろうということを忘れてはならない。無謀の権化、アレクシス・ヘインズがいるからこそ実践できる作戦なのだ。

「じゃあ、2回目行きますよ」

「まだやるのか、命がいくつあっても足りねえな」

 そう言いつつも再びハッチを開け、機銃のグリップを握るアレクシス。

「──ええい、やってやる! 強くて賢いアレクシス・ヘインズ様が相手だ!」

 ソーダ・ポッパーが顔を出し、再びマズルフラッシュが夜空を照らす。曳光弾(トレーサー)が稲妻のように闇を裂く。毎分1500発の弾幕をその身で受け止め、頭部機銃から反撃を浴びせながら、ヴォルフガングが半歩ほど後ずさったのを、アレクシスは見逃さなかった。

「よし、上手くいってるぞ!」

 銃座防盾で小銃弾を弾きつつ、ソーダ・ポッパーは再び建物の陰へ。機内に戻ったアレクシスが操縦桿を動かすと、ソーダ・ポッパーは左腕を背部に伸ばし、武装ラックに残っていた30mm連装機関砲を掴み取った。

「格好だけだが、こいつを構えてもう少しハッタリ効かせてやろう」

 パワークローの握力でグリップは軋み、レシーバーは音を立てて歪み、内部のパーツがパラパラとこぼれ落ちる。射撃はおよそ不可能だが、この武器の長い砲身はよく目立つ。こんな武器を構えた相手が、まさか白兵戦を狙っているとは思うまい。

 ソーダ・ポッパーは物陰に隠れたまま機関砲の砲身を何度もちらつかせ、あたかも射撃の機会を伺っているかのようなポーズを取った。対するヴォルフガングはその度に徐々に距離を取り、ついには建物の陰に隠れて膝立ちとなる。

「よし……! 先輩、いよいよ仕上げに掛かりますよ」

 不意の白兵戦に対応できない姿勢となった敵機。これこそ、ウィルが待ち望んだチャンスだ。

「ああ、掃射を避けて上手い感じに突っ込んでくれ。間合いに入ればこっちのモンだ」

 狭いコクピットの中、まるで示し合わせたかのように、二人は深呼吸をひとつ。そしてアレクシスの一言で、戦いの歯車は再び回りだす。

「──よし、今だ!!」


 背部の排気管が炎を噴き上げ、V10エンジンが獣のように唸る。ソーダ・ポッパーが遮蔽から飛び出す。その手に握られた30mm機関砲を警戒し、ヴォルフガングはその場で警戒態勢を取った。その距離、およそ400メートル。ウォーカーの交戦距離としては十分近距離といえるが、相手の警戒射撃を掻い潜って白兵戦の間合いに入るには一工夫必要だ。

 早速、ヴォルフガングの頭部機銃が火を噴いた。駆け出すソーダ・ポッパーを7.92mm弾の射線が追いかけ、流れ弾が次々と地面に突き刺さる。ウォーカーの装甲を抜くことなどまず無い小火器による攻撃。普段なら恐れる必要すらないレベルの攻撃だが、今は違う。胸部前面の砲手用ハッチという、最も被弾率の高い部位の装甲が失われているのだ。もし正面から弾を受ければ、遮るものは何もない。機銃弾はその速度を一切減じることなく機内に進入、アレクシスの頭蓋骨を易々と貫徹した上で脳をスクランブルエッグ状に攪拌するだろう。

 ソーダ・ポッパーは斜め前方に駆け出し、相手の旋回範囲外に逃れようとする機動を取った。ウォーカーの頭部や腰部の旋回には限度があり、それを超えて相手を照準に捉えるには身体ごと旋回する必要がある。その隙を狙うのが接近戦の定石だ。

 と、その時。ソーダ・ポッパーを追い続けていた機銃掃射が不意に停止する。ヴォルフガングの射線上、ソーダ・ポッパーを越えた先には、2機の戦いを見守るエスタンジアのウォーカー隊や兵士がいた。連中を背にすれば敵の射撃を封じることができる。ウィルはそのことを最初から念頭に置いて、迎撃されることのない突入ルートを算出していたのだ。

「よしいいぞ、全速力で突っ込め!」

 形ばかりの30mm機関砲を構えたまま、土煙を上げて突撃するソーダ・ポッパー。ようやくこちらの真意に気付いたヴォルフガングがチェーンソーを構えるが、猛進するソーダ・ポッパーを止めるには遅すぎた。

「うおおぉぉっ!!」

 30mm機関砲による攻撃がヴォルフガングを襲う。だが、叩きつけられたのは砲弾ではない──機関砲の砲身そのものだ。ソーダ・ポッパーは機関砲を振り上げ、パワークローの腕力をもって敵の脳天を勢い良く殴りつけたのである。割れ鐘を叩くような大音響。飛び散る破片。22世紀の戦争とは思えない野蛮極まる攻撃。だが──これこそが真理なのだ。人類が骨の棍棒による初めての戦闘行為を経験して以来、現代に至るまで変わることのない戦いの掟。戦場に最後まで立っていられるのは、最も「殺る気」に満ちた戦士なのだ。

 大きくバランスを崩し、よろめくヴォルフガング。チェーンソーを構えて反撃を試みるが、今までのような機敏さは最早発揮できない。ソーダ・ポッパーはひしゃげた砲身を握り込み、手負いの敵を仕留めにかかる。

「トドメだぁッ!!」

 ガス・エレクトリック駆動の暴力。顔面狙いのフルスイング。外装パーツが弾け飛ぶ。ヴォルフガングの頭部はホームランボールのようにオーストラリアの夜空を舞い、見惚れるような放物線を描いてステファンズ・クリークの湖面に消えた。貯水池の水面に上がる水柱が、戦いの終わりを告げていた。

 頭部を失ったヴォルフガングは首から炎をちらつかせ、電池切れのオモチャのような足取りで数歩前へ踏み出したのち、ついにオーストラリアの大地に沈んだ。転倒の衝撃で破損した部品が撒き散らされ、金属音がまるでアレクシス達の勝利を祝う歓声のように響き渡った。


 空気に静寂が戻る。全高10メートルの戦闘機械が激突する音は鳴りを潜め、ソーダ・ポッパーの機内に響くのはV10エンジンのアイドル音だけとなった。擱座したヴォルフガングを見下ろすコクピットは、数秒間の沈黙の後、二人のパイロットの喜びに満たされた。

「やった……やりましたよ、先輩! 第3世代機を僕らの手で!」

「おうよ、派手にブッ潰してやったぜ! サイコーの気分だ」

 正規軍の第3世代機と、ジャンクパーツを寄せ集めた第2世代機。機体性能に大人と子供ほどの差がある中での勝利。機体の持ち主であるナトカに、武装を融通してくれた「おっちゃん」。そこにウィルの作戦眼とアレクシスの蛮勇が組み合わさり引き起こされた化学反応の産物である。このどれか一つでも欠けていれば、二人はここまでたどり着くことすらできなかっただろう。

 アレクシスは戦闘絶頂(ウォーガズム)に震える手で拡声器のスイッチを入れ、湖面に浮かぶ飛行艇に向かって改めて勝利を宣言する。

「見たか、俺達の勝ちだ!! ナトカを渡してもらうぞ」

 基地の隅で2機の決闘を見届けていたエスタンジア兵の間にどよめきが広がり始めたとき。アレクシスの言葉への返答は、思いもよらぬ方向からもたらされた。


「──待ったあぁッ!!」


 突然の、背後からの砲撃。小口径の徹甲弾がソーダ・ポッパーの背部に直撃する。弾の進入角度が浅く、貫通こそ免れたものの、一歩違えばどうなっていたか分からない。

「クソッ、誰だ! 話が違うぞ!!」

 アレクシスは怒りに任せて操縦桿をひっ掴み、同時にウィルに全速力での転回を指示した。すると程なくして、ソーダ・ポッパーの望遠ペリスコープが新手の姿を捉えた。旧式の作業用ウォーカー「プロテクトラート」。距離、350メートル。遮蔽すら取らず、仁王立ちで37mm対戦車砲を構えたまま、敵ウォーカーのパイロットが堂々と名乗りを上げた。

「俺の名はゲイブ・ヒロタ! 冷徹なる正義の執行者、地獄行きの弾丸特急だ!!」

 新たなる敵──ヒロタのプロテクトラートは、一騎打ちを台無しにしたことを悪びれるそぶりすら見せず、芝居がかった片手持ちで37mm砲を突き付けながらなおも続ける。

「ブロークンヒルでは世話になったな。そこのホフマン曹長はしくじったようだが、俺は一味違うぞ。今こそお前を打ち倒し、あのお人への手土産にしてやろう」

 その話しぶりと声色から、アレクシスは敵機のパイロットがブロークンヒルで尋問した士官だと察した。しかし、今はそんなことはどうでもいい。問題は、このヒロタと名乗る男が、既に決着の付いた一騎打ちの場に乱入してきたことだ。戦いの趨勢を見守っていたエスタンジアの兵士達の間にも動揺が広がる。思いつく限りの罵倒語を並べるべく、アレクシスは拡声器のスイッチに手を掛けたが、口を開くより先に、ヒロタのプロテクトラートからの第2射が飛来した。

「ぐわっ!?」

「うわぁッ!」

 放たれた徹甲弾はソーダ・ポッパーの腰部を直撃。機体内蔵の燃料配管が破損し、コクピット内壁の継ぎ目から勢い良くガソリンが噴き出す。

「先輩!」

 機内に充満する刺激臭。シャワーのように降り注ぐ油にまみれ、破損箇所を小さな手で押さえながらウィルが叫ぶ。

「待ってろ! 椅子の下に確かダクトテープが──」

 アレクシスが身を屈め、自席の下の収納スペースを覗き込んだ、まさにその瞬間であった。


 アレクシスの五感が、電源を切られたかのようにシャットアウトされた。


 聴覚、視覚、平衡感覚。ガソリンの臭いすら感じない。意識だけを残して、自分以外の世界全てが消失したかに思われた。

(あれ……? 俺、いま何が起こって……)

 説明せねばならない。コンマ数秒前、眼前の敵機から3発目の徹甲弾が放たれた。砲口初速1020メートル毎秒の速度で発射された砲弾は、機体正面ハッチ跡の間隙からソーダ・ポッパーの機内に進入。前屈みになっていたアレクシスの頭上を飛び越えてその背後、コクピット裏の内壁を貫通し機外へと抜けていったのだ。もし通常通りの姿勢で砲手席に座っていたら、アレクシスの上半身はコンクリート壁に投げつけられた水風船のように破裂していただろう。しかし直接の被弾を免れたとしても、砲弾が纏う衝撃波と、背後数十センチの距離に砲弾が直撃したショックはアレクシスの脳を揺さぶり、瞬時に昏倒させるに足るエネルギーを持っていたのだ。

 かくしてアレクシスは、自らの身に何が起きたのか最後まで理解できないまま、ソーダ・ポッパーの機内で、ネジが切れたおもちゃのように崩れ落ちた。アレクシスは精神力だけを頼りに最後まで意識を保とうとしていたが、脳震盪(のうしんとう)による意識障害の前には無駄な抵抗だった。

ウォーカー名鑑番外編 #8

 ウォーカーの白兵戦


 ウォーカーの腕部は携行火器を把持するためのハードポイントの役割のみならず、その巨大な拳で敵ウォーカーや建造物を破壊することができるよう設計されている。また一部の機体には腕部にチェーンソーやドリル、サーキュラーソーといったより強力な白兵戦武器が搭載されており、こうした武装を施したウォーカーが血生臭くも豪快な活躍を見せたという逸話は非常に多い。だが、こうしたウォーカー同士の格闘戦は、ウォーカーという兵器が生み出された当初には全く想定されていなかった。

 統一戦争当時、ウォーカーは歩兵掃討用兵器として産声を上げた。倒壊した高層ビル群に潜むゲリラをあぶり出すため、マニピュレータで瓦礫を除去し、堅固な構造物やバリケードを油圧式クローで握り潰す。工兵隊の支援を受けずとも危険地形を突破できるのがウォーカーの強みだったが、エスタンジアに対抗する勢力も同じくウォーカーを運用し始めると事態は変化する。第一次大戦中、塹壕で遭遇した兵士同士がシャベルで殴り合ったように、至近距離で接敵したウォーカー同士の白兵戦が頻発したのだ。それ以来、ウォーカーに装備される工兵機材にはある程度の対ウォーカー能力が付与され、また白兵戦で相手を打ち倒すための戦法の研究も盛んに行われるようになった。

 ほとんどのウォーカー乗りにとって、白兵戦とは不意の接近遭遇によって偶発的に起こる事態、あるいは武器弾薬が尽きた場合の最後の抵抗手段であり、射撃で敵の撃破が見込める場合に敢えて行うほどの価値があるとは見なされていない。だが一部のパイロットは白兵戦を男らしい勇敢な戦法、あるいは射撃以上に敵に恐怖を植え付ける戦法として高く評価している。支援射撃で足止めした敵に対してとどめの一撃として繰り出される一斉突撃はまさに必殺の威力であり、ウォーカー戦を題材にした戦争映画などでも好んで描かれる題材である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ