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鉄錆戦機セコハンウォーカー  作者: どくとるフランキ
1. アウトバック・スターツ・ヒア
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1-20 知恵よ来たれ、炎よ来たれ

「随分と、風通しが良くなっちまった」

 アナログ計器がひしめくソーダ・ポッパーの機内で揺られながら、アレクシス・ヘインズは呟いた。彼の眼前に本来あるべき砲手用ハッチは先程の戦闘で失われ、ウォーカーが歩を進める度に乾いた風が、戦いで火照った頬をくすぐっている。

「却って夜風が涼しいってもんですよ。ほら、この機体エアコン無いですし」

 足元の運転手席でそんな軽口を飛ばすのは彼の相棒、ウィル・C・スチュアート。地図を広げ、機体据付のコンパスと見比べながら、機体の進路を慎重に調整している。

「なぁ、さっきの奴が言ってたステファンズ・クリークってどの辺だ?」

 ハッチの跡、胸部前面装甲に空いた四角い大穴からオーストラリアの夜空を見上げつつ問いかける。

「ここからウォーカーの足で20分弱ってところですかね? 道中はほぼ平地なので、遠距離からの砲撃には警戒が必要そうです」

 いつも通りの、変わらぬ声色で返答するウィル。ウォーカーに乗る直前まで大喧嘩をしていたのが嘘のように、機内には落ち着いた空気が流れていた。この空気感はきっと、夜風のせいだけではあるまい。

「──なぁ、ウィル」

 搭載火器の残弾数を確認しながら、アレクシスはふと切り出した。

「その、さっきはワガママ言ってごめんな。ウォーカーが無いから一人で突っ込んで死ぬとか無茶苦茶言って」

「いいんですよ、先輩が無茶苦茶なのは今に始まった事じゃないです」

 帰ってきた言葉こそ辛辣だったが、ウィルの声色は穏やかだった。

「先輩は目立ちたがりで、暴力的で、いつも自分勝手で……でも、人の顔色ばっかり伺って生きてた僕にとっては、そんな先輩が羨ましくて。嫌味じゃないですよ」

「羨ましい? 俺みたいな奴が?」

 武装の状態をチェックする手を止めて、足元の運転手席に腰掛けた相棒に視線を送る。

「先輩に出会ってなければ、僕は多分一生銃にもウォーカーにも触らずに、親とか先生とか上司とかに気に入られようとして尻尾振るだけの人生だったと思います。この世がそんなつまらない物じゃないって、僕に教えてくれたのが先輩なんです」

 相棒からの唐突な賛辞に、アレクシスはどう言葉を返していいか分からず、ただ曖昧な笑みだけを返した。というのも、誰かから褒められたり、ましてや憧れの存在になるなど、22年間の人生でほとんど経験したことのない出来事だったからだ。

「俺は……自分のことを、どうしようもないクズ野郎だと思ってた。いつもイキって迷惑掛けてばかりいたし、傭兵になったのもマトモに社会に馴染めなかったのが理由みたいなもんだ」

 思わず、アレクシスの口からは心の奥底に沈殿していた思いが漏れ出ていた。ウィルとは長い付き合いだが、こんな話をするのは初めてのような気がする。

「今更何者にもなれない、人生のドロップアウターが人から尊敬される唯一の方法を知ってるか? カッコ付けながら死んで英雄になることだ」

 いつしか、ウィルは機体を岩陰に隠し、操縦の手を止めて相棒の独白に聞き入っていた。エスタンジア式の青い機内灯に照らされながら、アレクシスはなおも続ける。

「そう思って今まで『強くて賢いローラシア傭兵のアレクシス・ヘインズ様』の仮面を被って、戦争映画の主人公みたいな散り際を飾るチャンスを伺ってきたんだが──お前がそこまで言ってくれるなら、もう死に急ぐのはやめにする。今日は勝つぞ。勝って帰るんだ」

「先輩……」

 話し込みながらも、二人は今が作戦行動の真っ只中だということは忘れていない。アレクシスがブーツで肩を叩くと、ウィルは機体のエンジンを止めて周囲の物音に警戒し始める。敵はもう近くにいるはずだ。

「──先輩がそのつもりなら、僕だって最後までお供しますよ」

 その一言にアレクシスは一瞬、はっと我に帰った。最後──そう、最後なのだ。二人がローラシア親衛自警団への原隊復帰を果たせる期限は今日。本来なら基地に帰っていなければいけない最終日の夜にこうしてウォーカーに乗っている以上、勝っても負けても除隊は確定なのだ。

「お前、本当にこれで良かったのか? 普段のお前なら、俺を簀巻きにしてでも基地に連れ帰っただろうに」

「良いんです。だって彼女が捕まってるんですよ? 『戦うことを選ぶ奴には脳味噌が無いが、戦わずに逃げる奴には』……」

 足元のウィルがしたり顔で手の平を返し、アレクシスに続きを促す。

「『心が無い』!」

 操縦桿から手を離し、指をパチンと鳴らしながら返答。これはアレクシス達ローラシア傭兵に伝わるスローガン。二人の心は一つだ。

「流石、分かってるなぁ。それでこそ俺の相棒だぜ」

 無邪気さと凶暴さが混ぜこぜになった、いつも通りの笑顔を浮かべながら、アレクシスは天井の望遠ペリスコープを覗き込んだ。正面方向から、かすかに聞こえる航空機のエンジン音。敵は近い。

「一旦この岩陰で敵の偵察機を迎え撃つ。仕留めきれずに見つかったら全力移動だ」

 これまでの戦闘で判明している敵戦力は「Uゲレート」型円盤偵察機2機、対空砲1門、そして戦闘用ウォーカー複数。最も警戒するべき相手は、アウトレンジからの攻撃が可能な対空砲だろう。まずは偵察機を潰して長距離砲撃を封じねば。

「……ウィル、来るぞ。この岩山の反対側、11時方向から2機!」

 ついに敵の姿がソーダ・ポッパーの視界に入った。闇夜に紛れて飛来する「Uゲレート」の2機編隊。特徴的な円盤状の機体と、その下部に懸架された機関砲に、二人は見覚えがあった。シルバートンでの戦いから帰還するトレーラーを銃撃し、仲間の傭兵達の命を奪った機体だ。いま仇を討ってやる。

 二人が操るソーダ・ポッパーは、2機のUゲレートが頭上を通り過ぎるまで、岩陰でじっと息を殺して待った。そして敵が上空を通過し、無防備な背中を晒したその瞬間、

「よし今だ。ウィル、やるぞ!!」

 V10エンジンに再び火が入る。鋼の巨兵が雄々しく立ち上がり、排気管から威勢良く噴き上がった炎が夜空に輝く。ソーダ・ポッパーはすぐさま30mm機関砲を照準し、低空で飛び去る敵機に破砕焼夷弾の猛撃を浴びせかけた。

「ローラシア製の弾丸のお味はどうだ!? お代わりもあるぞ、遠慮せず全弾食ってけ!」

 残弾数を示すニキシー管のカウントが猛スピードで減っていく。Uゲレートは不意の銃撃に慌てて回避機動を取るが、時すでに遅し。逃げ遅れた1機が数十発の直撃弾を受け、爆発とともに砕け散った。

「さあ、奴が飛んできた方に向かってダッシュだ。じっとしてると砲撃が来るぞ!」

 飛び去っていくもう1機を相手にしている余裕はない。一度姿を見られた以上、いつ長距離砲撃が飛んできてもおかしくないからだ。立ち止まることと、大口径砲の直撃を受けて死ぬことは同義だ。後方のUゲレートに警戒しつつ、敵が来た方角──ステファンズ・クリーク貯水池に向かって歩を進める。

「先輩! あいつ、旋回して戻ってきます!」

「ようし、任せろ!」

 アレクシスが足で指示を送ると、ウィルの操縦でソーダ・ポッパーは180度回頭し後ろ歩きを始めた。砲撃回避のために移動しつつも、迫る敵機に攻撃できる体勢だ。

 唸りを上げて急降下するUゲレート。照準器越しにその姿を捉えたアレクシスは、敵機が爆弾を抱いた攻撃機仕様であることに気付いた。Uゲレートが装備できる小型爆弾がウォーカーにとってどれほどの脅威になるかは分からないが、今は単騎での強襲中。どんな些細なダメージも致命傷になりかねない。

 襲い来る敵に狙いを定め、ソーダ・ポッパーの30mm機関砲が再び火を噴いた。マズルフラッシュが闇夜を照らし、巨大な空薬莢が乾いた大地に山を築く。敵機はその弾幕を物ともせず、最小限の回避動作でアレクシスのもとに突撃する。

 と、その時である。夜空に弾丸を振り撒いていた機関砲が不意に沈黙した。弾薬はまだ、130発は残っているはずだが。

「クソッ、ジャムった! こんな時に!」

 ジャンク品の砲身が連続使用による過熱に耐え切れず変形、弾詰まりを引き起こしたのだ。普段なら帰投後にメカニックに直してもらう軽微な故障だが、今は悠長な事を言っていられる状況ではない。

 すぐさま、ソーダ・ポッパーは30mm機関砲を左腕に持ち替えた。パワークローの握力で、鋼製の砲身が音を立てて歪む。最早撃つことを一切考慮しない、まるで棍棒でも持つかのような構え。そして大きく振りかぶると、強靭な左腕の全力をもって、撃発不能になった得物を敵機目掛けて投げつけたのである。

「これでも……喰らいやがれ!」

 予想外の攻撃に驚いたUゲレートは急旋回で回避を試みるも、機体のバランスを崩して墜落。時速320kmで大地に叩きつけられ、無数の破片を撒き散らしながら地上を転げ回った。

「ファックイェー!」

 自分が作り出した大破壊のスペクタクルに見惚れつつ、アレクシスは気を吐いた。いつもはモニターやペリスコープ越しにしか見ることのできない戦場が、今日は遮る物無しに、直接網膜に刻み込まれる。大荒原(アウトバック)の闇に輝く爆炎が、いつにも増して鮮やかだ。

「先輩! 足元っ!!」

 相棒の悲鳴で瞬時に現実に引き戻される。ウィルが指し示す先にあったのは、たった今撃墜したUゲレートが抱いていた爆弾。二人が回避行動を取るより先に信管が作動し、弾殻に空いた無数の穴から鮮緑色の煙が勢い良く噴き出した。

「なっ……ス、スモークだと!?」

「げほっ、げほっ……早くここから離れないと!」

 煙は瞬く間に辺り一面を覆い尽くし、ソーダ・ポッパーの視界を塞ぐ。目潰しのつもりか、或いは砲兵部隊へのシグナルか。ハンカチで口元を覆い、染みる煙に目を腫らしながら緑一色の世界からの脱出口を探していると、続いてソーダ・ポッパーの足元を無数の小爆発が襲った。

「ぐわっ! 今度はなんだ!?」

 アレクシスの脳裏にまず浮かんだのは、最も警戒すべき相手──長距離砲による支援射撃。しかし、シルバートンの戦いで経験した至近弾の威力はおよそこんなものではなかった。あの砲弾がもしソーダ・ポッパーの足元に着弾すれば、恐らく死を自覚する暇もなくアレクシスとウィルは合挽き肉になるはずだ。むしろ今しがたの攻撃は、シルバートン戦で見た別の何かに似ている気がする──。

「12時方向からエンジン音、伏兵です!」

「なっ……ぐあぁっ!」

 鋭い金属音が荒野に響く。初撃をパワークローの甲で受け止められたのは僥倖だった。煙幕の向こう側から現れた敵ウォーカーは、まるでこちらの姿が最初から見えていたような太刀筋で高炭素鋼製マシェットを振り下ろしてきたのだ。

「クソッ、捌ききれねぇぞ!」

 軽量化の施された細身の機体フレーム、両足に装備されたオフロードタイヤ。眼前の襲撃者に、二人は見覚えがあった。

「こいつは……『サンドスコーチャー』! 鹵獲されたのか!?」

 シルバートン攻略戦で行動を共にした僚機。味方につけていた時はあれほど頼もしく見えた機動性と白兵戦能力が、エスタンジア兵の操縦により今ソーダ・ポッパーに牙を剥く。

 パワークローに食い込んだ刀身を引き抜くと、サンドスコーチャーは左手の機関砲で牽制しながら煙の中に姿をくらませる。ソーダ・ポッパーが武装ラックから105mm榴弾砲を取り出して射撃準備を整えた頃には、敵の姿はどこにも見えなくなっていた。

「畜生、どこに行った!」

 煙の中、探照灯で敵影を探すが、この視界の悪さでは見つけられない。すると再び、どこからともなく飛来した無数の小弾頭が足元に着弾。ソーダ・ポッパーにたたらを踏ませ、飛散した金属片が数個コクピット内を跳ね回った。この攻撃、そして鹵獲されたサンドスコーチャーの存在──アレクシスの脳裏で渦巻いていた既視感と、戦闘の記憶が一本の線で結ばれた。間違いない。この攻撃は昼間ともに戦った僚機、スリーサム・ジョージのものに違いない。エスタンジア軍によって回収、鹵獲運用されているのだ。

「まずいぞ、このままじゃジリ貧だ!」

「先輩! 前っ!」

 火薬臭い空気をかき分け、サンドスコーチャーが迫る。すれ違いざまに繰り出された斬撃はソーダ・ポッパーの脇腹に深々と食い込んだ。何重にも重ねられた増加装甲がケーキでも切るかのように易々と切り裂かれ、脆弱な内部フレームが露出する。まさに、絵に描いたような理想の連携攻撃だ。

「な、何とかしてこの攻撃を止めないと……!」

「──暗視装置だ」

 半ば恐慌状態にあるウィルに対し、アレクシスはいつになく冷静な口調で呟いた。

「……へっ?」

「今すれ違った時、頭に赤外線センサーが増設されてるのが見えた。あいつら、この煙の中でも俺達がどこにいるか見えてるんだ!」

 ウォーカー用の暗視装置というのは、平均的な傭兵には手が届かないほど高級な装備。それを装備した機体と戦うのは、二人にとっても初めてだ。しかし足元の相棒は、敵の正体を掴むやいなや、普段の冷静さを取り戻し、アレクシスにこう持ちかけたのである。

「赤外線……それなら、こっちからも強力な赤外線を照射すれば目潰しになるかもしれませんよ」

「要は、熱と光を発すればいいんだな? それなら任せろ!」

 そう言うや否や、アレクシスはブーツでウィルに操縦指示を送った。その内容は、左右への反復急旋回。ソーダ・ポッパーが巨体を揺らし、煙の中で狂ったダンサーのように腰を振る。

「バーベキューの時間だ!」

 アレクシスがトリガーに意思を込める。ソーダ・ポッパーの腰部に搭載された火炎放射器から炎が迸り、ナパーム燃料の業火がリズミカルな動きとともに一面に撒き散らされた。ムチのように炎の奔流がのたくり、大荒原(アウトバック)の大地を呑み込んでいく。

 そして炎の舞を続けるソーダ・ポッパーはついに、敵の姿を捉えた。発煙弾と火炎放射器の煙が入り乱れる中を彷徨うサンドスコーチャー。周囲一帯が炎に呑まれたためにソーダ・ポッパーの反応を見失い、マシェットを構えたまま見当違いの方向を警戒している。チャンスだ。

「よし、やるぞウィル! 突っ込め!」

「了解です! うおおぉっ!!」

 V10エンジンが唸り、ソーダ・ポッパーは全速力で吶喊(とっかん)する。ショルダータックルによる強烈な一撃。バランスを崩したサンドスコーチャーは成す術もなく吹き飛ばされ、もつれ合った2機は煙幕の向こう側へと転がり出た。

 星のない夜空の下、サンドスコーチャーを組み伏せたソーダ・ポッパーは、馬乗りになったままパワークローによる乱撃を加える。反撃するべく、衝撃で取り落としたマシェットに手を伸ばすサンドスコーチャーだったが、油圧駆動の鉤爪が伸ばした腕を無慈悲に掴み、引き千切る。

 眼前の敵にとどめを刺そうとしたその時、アレクシスはふと殺気を感じて機体の動きを止めた。片腕を失ってなお抵抗するサンドスコーチャーを組み敷いたまま、探照灯の灯りとともに周囲を見渡す。

「……いる!」

 数十メートル先、闇の向こう側に浮かび上がった機影。数は2機──いや、1機と1両と言うべきか。昼間の戦いで行動を共にした砲撃支援型ウォーカー「スリーサム・ジョージ」と、その背後には大型砲を装備した4脚歩行車。両者とも、こちらに照準を定めたまま、岩陰から攻撃の機会を伺っている。もし今サンドスコーチャーを倒せば、誤射の危険がなくなることで、この2機はすぐさま砲撃を浴びせてくるだろう。倒すなら、同時に倒さねば。

 両腕を使ってサンドスコーチャーを拘束している今、マニピュレータで操作する携行武器は使用できない。あの2機を倒すために使えるのはウォーカー本体に据え付けた固定武装──火炎放射器だけだ。

「ウィル!」

「はいっ!」

 決断的な声色で相棒を呼びつける。そして、砲手席の片隅にある火炎放射器操作用のレバーを指して尋ねた。

「このレバー、お前の席から操作できるか?」

 アレクシスがパワークロー、ウィルが火炎放射器を操作することで、3機の敵を一度に倒すのだ。

「やってみます!」

 足元のウィルは運転手席の座面に立ち、小さな身体を思い切り伸ばしてレバーを掴んだ。

「いくぞ、3カウントだ! 1、2……」

 狭いコクピットの中、声を張り上げるアレクシス。残された左腕で反撃を試みるサンドスコーチャー。ソーダ・ポッパーはクローを振り上げ、燃料着火用のヒーターが赤熱する。

「……3!」

 合図と共に、火炎放射器のバレルから竜の吐息が噴き出した。炎が美しい放物線を描いて闇を照らす。恐怖の象徴だった対空砲も、パイロットを失いエスタンジア軍の尖兵と化したスリーサム・ジョージも、もはや逃れる術はない。粗製ガソリンと増粘剤で作られた、人造の地獄の炎が眼前の敵機に襲いかかる。積載されていた大量の弾薬が引火し、狂った花火大会のように次々と宙に打ち上がった。

 鼓膜をつんざく爆発音の連鎖。炎と閃光が真昼のように闇を照らす中、ソーダ・ポッパーは残るサンドスコーチャーに引導を渡すべく更なる攻撃を加える。

「オラァッ、ぶっ潰れろ!!」

 2発、そして3発。暴れ狂うグリズリーのような重連撃。サンドスコーチャーは残された片腕で、パワークローによる攻撃を4発までは凌いでみせたが、5発目でついに陥落。千切れ飛んだマニピュレータが宙を舞い、防ぎきれなかったクローの薙ぎ払いがサンドスコーチャーの上半身をスクラップに変えた。金属部品や繊維強化プラスチックの破片が辺り一面に飛散し、爆炎の灯りでキラキラと輝く。背中の排気管が咳き込むように炎と煙を吐き出し、サンドスコーチャーはその機能を完全に停止した。

「はぁっ、はぁっ……」

 プレス機にかけられたようにひしゃげ、装甲の隙間から黒煙を立ち上らせている敵機の残骸を見下ろしながら、アレクシスは額の汗を拭った。破壊と暴力の嵐は過ぎ去り、後には命のやり取りを生き抜いた充足感と野生的な興奮だけが胸に残される。

 人類で初めて音速の壁を破った、旧世界のとあるエースパイロットは、ジェット戦闘機を駆る喜びについて訊かれたとき「それでも、性行為には代えられない」と語ったという。だが彼の生きた時代にもしウォーカーがあったなら、その答えはきっと違うものになっていたはずだ。全身に武器を纏った巨大ロボットを操る以上の楽しみは、きっとこの世に存在しない。

「……先輩? どこか痛いんですか?」

 俯いたまま肩を震わせているアレクシスを心配して、小さな相棒が声を掛けてきた。──逆だ。アレクシスはただ、ウォーカーで暴れ回るという無上の喜びを噛み締めているだけなのだ。全身の血管をアドレナリンが駆け巡る感覚に打ち震えながら、こう返すだけで精一杯だった。

「ヤベェ、戦闘ヤベェ……」

「先輩、語彙力」

 呆れたように肩をすくめるウィル。だがこれも是非のないことなのだ。この興奮を言葉にするためには、世界一の詩人を連れてきたとしてもまだ足りないだろう。

「それより先輩、本来の目的は忘れてないですよね? 彼女を助けに行くんでしょう?」

 いつも通りの平坦な声色で問いかける。いつの間にかかすり傷を負っていた手の甲に包帯を巻きながら、アレクシスは威勢良く返答した。

「おうよ! 仲間が困ってる時に助けないなんてのは、タマが無い奴のすることだからな。そうだろ、ウィル?」

 やはりウォーカーは最高だ。傭兵になる前、自分のことを社会のクズだと思っていた頃のアレクシスは、自分がこんなに輝いている姿を想像だにできなかった。

「さあ、ヒーローになりに行こうぜ。もうひと暴れしようじゃねぇか」

 炎と鉄屑だけを残して、鋼の巨兵は大荒原(アウトバック)を行く。ステファンズ・クリークは目と鼻の先だ。これが最後の戦いになると言うのなら、グランドフィナーレに相応しい、砲声と大爆発のアンサンブルを奏でようじゃないか。

ウォーカー名鑑番外編 #7

ディーツェ自動車製作所 歩行機材330番 四脚砲兵運搬車グーテルティア


 世界統一戦争による旧世界文明の崩壊は、重砲撃によるクレーター群や倒壊した高層ビル群など、従来の装軌・装輪車両では突破不可能な地形で埋め尽くされた戦場を生み出した。こうした難地形に対応した大型輸送車両として生み出されたのが「グーテルティア(アルマジロ)」と総称される四脚歩行機材である。

 グーテルティアはウォーカー運搬車や大型装甲車の車体に、ウォーカーの脚部を流用した歩行装置を取り付けた四足歩行車である。損傷しウォーカー再生工場に運び込まれた機体の部品を、その時入手可能な車両のシャーシに取り付けて作られる急造兵器であるため個体差が大きく、同じ姿の車両は2台と存在しないと言われている。前線の兵士達からもウォーカーほど大切には扱われておらず、半ば使い捨てのような扱いを受けることもしばしばだが、精度の良い一部の個体はウォーカーには搭載できないほどの大型砲を搭載する改造が施され、歩行トーチカ或いは四脚自走砲として運用される場合もあるという。

 ステファンズ・クリークに現れたグーテルティアは重量級ウォーカーの脚部とウォーカー運搬車のシャーシを組み合わせた特に大型のタイプで、本来なら陣地に固定して運用される12.8cm高射砲を車載砲として搭載している。圧倒的な射程と攻撃力を持った恐るべき兵器だったが、偵察・観測用のUゲレートが早期に撃墜されてしまったためその真価を発揮することはなかった。


全長: 16.7m

全高: 6.5m

全備重量: 62トン

発動機: HMWオリンピア V型24気筒ガソリンエンジン

最高速度: 30km/h

装甲: 均質圧延装甲、最大30mm

固定武装: 12.8cm Flak2140 多薬室高射砲x1

乗員: 12名

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