1-10 砂塵と砲声
──そして、その日が訪れた。
「『スーパージャグ』より全機へ! みんな、配置に付いたか? 予定通りにやるぞ」
所はシルバートンからほど近い露天掘り鉱山。時刻は午後4時過ぎ。アレクシスはクレーター状の鉱山の縁に乗機を停め、開放したコクピットハッチから吹き込む風を浴びながら僚機に通信を飛ばした。こちらの戦力はウォーカー3機に観測用の軽飛行機が1機。対する敵、谷底で定例の集会を開いている野盗はまだ、奇襲の前兆に気付いていない。
「こちら『スリーサム・ジョージ』。計器異常なし、いつでも行けます」
鉱山の縁の円周上、アレクシスから見て対岸にあたる位置に佇む重ウォーカーが、真っ先に返答を寄越す。
この機体──スリーサム・ジョージの持ち主とアレクシスは、以前一度だけ一緒に仕事をしたことがあった。古めかしい3人乗りの第1世代機だが、内部には徹底的なチューニングが施されている。性能も、そしてパイロットの腕前も間違いなし。
「『サンドスコーチャー』、エンジン快調! 早くヤろうぜ、待ちきれねェよ」
レスラーのようにどっしりとしたスリーサム・ジョージの隣に立つのは、対照的に細身の機体。脚部にフットピースの代わりに巨大な車輪を備えた、半装脚車と呼ばれるタイプの機体だ。腰部のマウントラッチには短砲身の機関砲と、刃渡り5メートルはあるマシェットが装備されている。パイロットの練度は未知数だが、スピードと格闘戦能力は3機の中で一番だろう。
「『ICU』よりウォーカー隊へ。谷底に敵5機を確認、いずれも稼動状態にあり。付近にその他の脅威は認められず。オーバー」
頭上からレシプロ機の軽やかなエンジン音が届いてくる。今日のアレクシス達には偵察機が付いていて、戦況の変化を空から逐一報告してくれる手筈になっている。野盗が飛行機を使うという話は聞いたことがないので、これは最早相手の盤面が丸見えになった軍艦ゲームのようなものだ。負ける要素が見当たらない。
「ウィル、どうだ? 俺達も行けそうか」
すぐ足元の運転手席にちょこんと座った相棒に問いかける。思えば、このスーパージャグに二人で乗るのも久しぶりだ。
「はい先輩! いつでも合図をください」
股の間から見下ろすと、ウィルは運転手用ハッチを開放し、双眼鏡で谷底を見下ろしているところだった。
「何が見える?」
「古い採掘機械、放棄されたプレハブ小屋、それから……野盗のウォーカーが踊ってます」
「踊ってる? どれ、見せろ」
ウィルの小さな手から双眼鏡をひったくって覗き込むと、敵陣の様子が手に取るように分かる。彼らは谷底の広場にコンサート会場のようなスピーカーを設置し、誰が一番音楽に乗れるかを仲間内で競っているようだった。不正改造が施されたウォーカー達の周りには、まばらではあるものの観客が集まり始めている。旧世界のギャングを真似た服装をしているところを見ると、これも恐らく野盗の仲間だろう。
「ひっでえ改造してんなあ……LSDでガンギマリになった熱帯魚みたいだぞ、まるで」
「リオのカーニバルにでも出るつもりですかね……?」
脚部に仕込まれたハイドロサスペンションを伸縮させ、ヒップホップのリズムに合わせて跳ね回る野盗のウォーカー達をまじまじと眺めながら、アレクシスは嘆いた。背部から突き出した竹槍マフラー。実用性とは程遠い、小学生がプラ板を切り貼りしたかのようなエアロパーツ。極めつけに熱帯雨林の毒ガエルじみた、けばけばしいメタリック塗装。このウォーカーの製造元の社員が見たら泣きそうだ。残念ながらアレクシスはあの可哀想なウォーカーを回収して純正状態に戻してやるような余裕も、野蛮人達に正しいチューニングの仕方をじっくり授業してやる心の広さも持ち合わせていない。全員まとめて叩き潰すまでだ。
「よし、いいか皆! 俺がここから最初の1発を撃ち込む。それを合図に全機、攻撃を始めてくれ」
双眼鏡を片付け、乗機の装甲ハッチを閉めながら、アレクシスは他の僚機に指示を飛ばした。そして、会話相手は足元の相棒に移る。
「ウィル、1、2発撃ったらその都度陣地転換だ。ずっと留まってると音と煙で位置がバレる」
「了解です!」
はきはきとした返事とともにウィルがキーを回し、エンジンに火が入る。機体を震わせるツインV12の鼓動に呼応するように、アレクシスの胸が高鳴りだす。この時を待っていた。モノクロ表示のメインモニタ越しに倒すべき敵を見据えつつ、アレクシスは既に戦闘絶頂一歩手前といった心持ちだった。
「さあ、やってやろうぜ!」
この戦いが終われば、もう親衛自警団をクビになる心配はなくなる。ずっとウォーカーに乗っていられる。ディーゼルエンジンと機関砲のオーケストラに、心ゆくまで聴き浸っていられる。今日はそのために戦うのだ。
それに、ここシルバートンから野盗が姿を消せば、ブロークンヒルの町や、家出少女ナトカの旅路も、少しばかりは安全なものになるだろう。やはりウォーカー乗りは天職だ。アウトドアで、エキサイティングで、おまけに社会貢献もできる。こんなに素晴らしい仕事は他にない。
「よし準備しろウィル、そろそろ始めるぞ」
操縦桿の動きに呼応して、膝立ちになったスーパージャグが57mmを構えた。それにしても、ナトカは本当に良い仕事をしてくれた。整備された腕部モーターの動きには寸分の違和感もない。それに、昔アレクシスが機内に貼り付けたピンナップ・ガールのポスターや、モニタ脇に飾ってあったフラダンサーの人形が、コクピット内装全交換の後もしっかり元の位置に移植し直されているのを見ると、不思議とそれだけで戦いに赴く高揚感が沸き上がってくるのだ。
カメラの望遠を最大に上げ、照準レティクルに敵の姿を捉える。背中から悪趣味な直管クロームマフラーを生やした敵ウォーカーは、こちらに背を向けたまま踊り狂っている。チャンスだ。
「野盗ども、地下坑道のお礼参りといこうじゃねえか!」
砲弾の重力落下を計算に入れ、レティクル中央からわずかに下に目標を捉える。敵が斜め後ろを向いているこの角度なら、胴体を狙いさえすればエンジンか、燃料タンクか、或いはコクピットブロックのいずれかに当たるだろう。
アレクシスは狙いを定めたまま一度、深く深呼吸した。そして右操縦桿のトリガーを勢い良く引き絞る。
運命の一撃が放たれた。
砲口初速1000m/sの高速徹甲弾が空を切る。音より早く飛来する砲弾に気付く術もないマローダー・ウォーカーの脇腹に風穴が開く。薄い胴体側面装甲を紙切れのように突き破り、その内側にある軽油の詰まった燃料タンクが破裂する。砕け散る装飾的エアロパーツ。撒き散らされた燃料に火が点き、被弾孔から炎が鮮血のように噴き出す。それから遅れて、砲口から発せられた砲撃音がようやく谷底まで響き渡った。ここまでコンマ数秒、谷底の敵はまだ自分達の置かれた状況を理解していない。
「サンドスコーチャー、突撃する!」
「スリーサム・ジョージ、攻撃開始!」
スーパージャグが放った砲声を合図に、他の僚機が一斉に谷を下り始めた。先陣を切るのは快速のサンドスコーチャー。脚部のホイールから砂礫を撒き上げ、抜き身のマシェットを手にしたままで疾駆する。
先程の敵ウォーカーは全身を猛火に包まれ、手足を滅茶苦茶に振り回しながら死の舞踏を踊っていた。それを見てようやく異変に気付いた残りの野盗が、武器を構えて戦闘態勢を取り始める。ウォーカーに乗っていない生身のギャラリー達はただ、黒煙の中をフナムシのように逃げ惑うことしかできない。
「そこだ!」
足元の観衆に気を取られて転倒していた敵機を、スリーサム・ジョージの背部迫撃砲が容赦なく襲う。艦載用の爆雷投射機を改造した36門の砲口から一斉に放たれた榴弾が、着弾地点を爆風で覆い尽くす。野盗からの反撃らしい反撃は、まだない。
「いよいよ始まりましたね……!」
廃鉱山の縁に鎮座したままのスーパージャグ。そのカメラ越しに谷底を眺めていたウィルが、少し熱っぽい声色で呟いた。最大望遠のメインモニタに、爆発に呑まれた敵ウォーカーの腕部が弾け飛ぶ様子が映っていた。
「こりゃもう勝ったも同然だな! 1回表でコールドゲーム、試合終了だ」
四肢を吹き飛ばされて這い回る敵機にサンドスコーチャーがとどめの一太刀を浴びせる様子を高台から観察しつつ、アレクシスは楽天的にそう言い放つ。だが次の瞬間、強烈な衝撃が二人のコクピットを襲った。
「ぐわっ!?」
「うわあぁ!」
破れ鐘を叩くような強烈な被弾音に一瞬、聴覚が麻痺する。この感じからして恐らく50mmクラスの徹甲弾、それもコクピットブロックの正面に1発。もし二人が乗っているのがスーパージャグではなく、もっと軽装甲の機体だったら貫徹されていたかもしれない。慢心は禁物だ。
「痛ってぇ、耳がジンジンする……」
「先輩! 大丈夫ですか!?」
ウォーカーで戦場に出たことのない人間は、恐らく皆「弾が当たっても貫通しなければ平気」と思っていることだろう。だがそれは大きな間違いだ。なにせ、重さ数kgはある金属の塊が超音速で飛んでくるのだ。たとえ装甲で弾いたとしても、跳弾の衝撃で機内の備品は外れ、パイロットは壁や天井に頭を何度も強打する。たった今の被弾はまだ軽く済んだ方で、最悪の場合、千切れたリベットや剥離した装甲内面の金属片が飛んできてパイロットの身体に突き刺さってしまう可能性すらある。そうなれば最期だ。
「……先輩?」
格下相手の戦いとはいえ、ここは戦場。敵と味方、巨大な2つの力がぶつかり合う。ウォーカーという究極の戦闘機械がしのぎを削るこの暴力の坩堝では、人間の命など風の前の塵のようなものだ。
そんな中だというのに。いや、そんな状況に身を置いているからこそ。
「……面白くなってきやがった!!」
アレクシスは、笑っていた。
「やっぱ弱い奴を一方的に叩いて終わりじゃカッコ悪いからな。そうだろ、ウィル?」
砲手用モニタのすぐ脇では、V12エンジンに揺られてフラ人形が歓喜の高速ダンスを披露していた。まるでアレクシスの心境を代弁するかのように。
「えっ……ええ? 僕はどちらかと言うと、安全に勝ちを拾いに行く方が……」
「ああそうとも、最後に勝つのはもちろん俺達だ! でも敵と自分、どっちが死ぬか最後まで分からないスリルが良いんじゃねえか。どれ、さっき撃ってきた奴はどこにいる?」
カメラのズーム率を下げて動く影がないかと見渡すが、見つけられない。迫撃砲の煙が視界を遮っている。谷底に点在する建物の陰に狙いを絞り、再び最大望遠で敵の姿を探るも、その直後にスリーサム・ジョージから2射目の迫撃砲が放たれ、建造物群を飲み込む爆炎でスーパージャグの視界は完全に遮られた。
「スリーサム・ジョージ! もっと狙って当てられる武器は持ってないのか? これじゃ狙撃支援なんて無理だ」
インカム越しに怒号を響かせる。だがスリーサム・ジョージからの返答よりも、どこかにいる敵から2射目が飛んでくる方が早かった。スーパージャグの足元に砲撃が突き刺さり、吹き飛ばされた砂礫が装甲板を叩く。
「ひぃッ! 先輩、転進しましょう!」
「きっと探ってるだけだ! 1発撃っただけで早々見つかるわけがない、さっきの被弾もきっとマグレ……」
直後に3射目。今度の攻撃はスーパージャグの左肩を直撃、けたたましい金属音とともにショルダーアーマーに風穴を開けた。衝撃で台座から弾け飛んだフラ人形が空中でブレイクダンスする。
「ぐっ、また撃たれた!? ヤバいぞ、逃げろ!」
ブーツでウィルの肩を蹴り込み、全速後退のサインを出す。
「言われなくたって!」
ウィルの操縦に応え、スーパージャグのエンジンが吼えた。背中の排気管から黒煙とアフターファイヤーを吐き出しながら、10メートルの巨兵がゆっくりと、しかし本人としては全速力で、背後の稜線に身を隠し始める。逃すまいとばかりに飛来した4射目の砲弾はスーパージャグの頭上を掠め、空気を切り裂く不吉な音だけを残して消えていく。
「スリーサム・ジョージ! 聞こえてるのか!? 返事をしろ!」
鉱山の底は立ち込める黒煙に覆われ、アレクシス達の位置からは到底中の様子をうかがい知ることはできない。煙の向こう側から響く砲声と、時折顔を覗かせる爆炎だけが、谷底が今も戦闘状態にあることを二人に伝えていた。これでは、上空を旋回している偵察機も役に立たないだろう。
「スリーサム・ジョージよりスーパージャグへ! 戦況は芳しくありません」
ようやく連絡が取れたスリーサム・ジョージからの報告は意外なものだった。確かついさっきまで、不意打ちで態勢を崩した敵を一方的に攻め立てていたはずだが。
「奴ら、建物や岩の陰に隠れながらこちらの出方を伺っています。これでは迫撃砲の曲射でないと狙えません」
「隠れて動かないんなら、そのまま包囲してタコ殴りにすれば済む話だろ」
「その通りだぜ。俺らの強さにチキってンだろ、どうせ」
はやるアレクシスとサンドスコーチャー乗員の意見が一致する。だがスリーサム・ジョージのパイロットは、何やら敵の動向に不審な気配を感じているようだった。
「いつも相手をしてきた野盗を思い出してください! 2機も仲間を失ったら、普段の野盗なら逃げ出したり、破れかぶれの突撃を仕掛けてきたりするものでしょう」
つまり、最前衛を務めるこのパイロットはこう思っているのだ──野盗にしては、淡々と戦いすぎている、と。
「そういえば、確かここの野盗とは一度取引して不可侵協定を結んだとか言ってたっけか?」
おっちゃんが先日話してくれた、事の経緯を思い出しながらアレクシスは頭を掻いた。
「……だったら、『裏切り者!』とか『約束をフイにする気か!?』とか、拡声器で怒鳴ってきてもおかしくはないよな。ここまでされて黙ってるとなると、何か隠し球があるのかもしれん」
スリーサム・ジョージが砲撃の手を緩めたことで、少しづつ谷底の煙が晴れ始めた。アレクシスは天井のハッチから身を乗り出し、稜線越しに双眼鏡で敵の動向を注意深く観察する。
最初に目に留まったのは、谷底中央の広場で大の字になったウォーカーの燃えカス。最初の一撃でアレクシスが仕留めたものだ。その隣には、直後にサンドスコーチャー達が破壊した2機目の残骸も転がっている。生き残っている3機の敵ウォーカーは、いずれも遮蔽物に身を隠したまま動こうとしない。どの機体も携行火器の砲口をこちらに向けているところを見ると、先程受けた攻撃はこの3機からのものだったようだ。これ以上、稜線から顔を出しているのは危険だ。
「隠れた敵をここから撃てないかと思ったんだが……今ノックしたら返事が3倍くらい返ってきそうだ。陣地転換でもするか?」
生身の身体を晒している間に次の砲弾が飛んでこなかったことを神に感謝しつつ、するりとスーパージャグの機内に帰還する。ふと見ると、運転手席に着座したままのウィルは、何やら難しい顔をしながら腕を組んでいた。
「どうした?」
「いえ……話を聞いていると、まるで僕達が谷底に集まるのを待っているみたいだと思いません?」
怪訝そうな目を運転手用サブモニターに向ける、足元のウィル。
「それにさっき僕達が受けた攻撃にしたって、まるで僕達が来ることを知ってたみたいじゃないですか。でないと……」
その瞬間アレクシスは、髪がぞわりと逆立つ感触を覚えた。もし自分たちの攻撃計画が筒抜けで、敵が事前に対抗策を練っていたとしたら? スリーサム・ジョージの言い分を聞く限り、谷底に降りた2機はほとんど敵の反撃を受けずに進撃できたようだ。狙撃担当のスーパージャグに全火力を仕向けて牽制し、その間に谷底におびき寄せた2機を罠に掛けて倒す──そんな作戦を敵が立案していたとしたら、自分たちはまさに敵の手のひらの上で踊っていることになる。
「『ICU』! 周囲の状況はどうだ? 近くに伏兵がいるかもしれん!」
焦燥感に駆られたアレクシスは上空の偵察機に呼びかける。こういう時のために、決して安くはない金を払って飛行機乗りを雇ったのだ。
「こちらICU、鉱山の外には一切の機影を認めず。谷底の3機以外には何もいない」
「本当か? 嫌な予感がするんだ、もっとよく見──」
それ以上言葉を続けることはできなかった。アレクシスが言葉を紡ぎきるより、遥か上空から大太鼓のような爆発音が降ってくるほうが早かった。
「何だ!?」
反射的に天井のハッチを叩き開けて空を仰ぐ。青い色紙のようなオーストラリアの空に一点、黒インクを叩きつけたような染みが広がっていた。インクの染みはゆっくりと広がり、尾を引いて垂れていく。上空1500メートルで何が起きたのかは分からないが、それが偵察機「ICU」の最期の姿だということだけは一目で理解できた。
「警戒せよ! マップグリッド114560から敵の攻撃を……」
ノイズまみれの音声。それがICUからの最後の通信だった。この言葉の直後、空中に引かれた黒煙の航跡はアレクシスの眼前で4つほどに枝分かれし、地平線の彼方に消えていった。
「偵察機をやりやがった!」
「何てことだ……!」
僚機が口惜しげに漏らした言葉を聞き流し、再び鋼鉄の棺桶の中へ。しっかりとハッチに施錠してから操縦桿を強く握りしめる。どうやら、楽しく戦っていられる状況ではなくなってしまったようだ。
「ウィル! 地図を」
アレクシスがそう言うと、運転手席に座るウィルは律儀にも赤ペンでマーク済みの地図を広げて見せてくれた。マーク位置の座標は「114560」。ICUが示した位置。ここに何かがある。
だが、その座標はアレクシス達が戦っている鉱山のはるか西。傭兵が扱うような旧型ウォーカー同士の戦闘では、全ての武器が射程範囲外となるような距離だった。この座標にいる「何か」がそこから偵察機を撃ち落とし、さらには鉱山のウォーカー隊に狙いを定めているとしたら、それは野盗でも、そして恐らく傭兵でもないだろう。そんな距離の目標を正確に狙撃できるような火器は、まず中古市場には流れてこない。A1ランクの最新装備だ。
「谷底の奴はオトリか! こいつら、ただの野盗じゃないぞ……!」
手のひらから血が出そうな程の力で操縦桿を握りながらアレクシスは、始まる前から勝ちを確信していた自分の慢心ぶりを悔いていた。だが、反省会なら帰ってから好きなだけすればいい。今考えるべきは、どうやってこの戦況を打開して敵を打ち倒し、それから生きてブロークンヒルに帰るかだ。
この戦いに負けることは許されない。ここで倒れたり、逃げ出したりすることは、即ち傭兵稼業を続けられなくなるということ。戦場に出て初めて人生の喜びを知ったアレクシスにとって、傭兵を辞めるというのは死と同義だ。
ウォーカー名鑑 #6
ソールズベリー 歩兵支援歩行機リダウタブルMk.2改"スリーサム・ジョージ"
近年では珍しくなった、第1世代機ベースの戦闘用ウォーカー。ベースとなっている「リダウタブル」はエスタンジア以外の勢力によって生産された初めてのウォーカーであり、機体構造はほぼエスタンジア製の第1世代機のコピーである。抵抗勢力にとって貴重なウォーカー戦力として前線を支え続けた結果、各地の抵抗組織が団結して「ローラシア連邦」を樹立することに貢献した名機だが、完全に旧式化した今、この機体を運用しているのは懐古趣味のウォーカーマニア位である。
第1世代ウォーカーの常として、この機体も3人乗りとして設計されており、第2世代以降の機体と比べるとその分一回りほど大型になっている。スリーサム・ジョージの場合、コクピットブロック以外はすべて第2世代機のものに交換されており、機体の操縦自体は2人だけで行える。
本機の主武装は背部に備えられた36門の迫撃砲。艦載用の対潜爆雷投射機を改造して取り付けたもので、射程は短いが広範囲の敵を一度に攻撃可能。一対一の戦闘よりも弱敵の一掃や建造物の破壊に向いている。なお無理矢理取り付けただけの装備のためウォーカー自身の照準システムとは紐付けされておらず、3人目の乗員が手動で弾道計算と照準を行う。
全高: 11.6m
全備重量: 約52トン
発動機: ソールズベリー・ミノタウロス 空冷星型14気筒ガソリンエンジン
最高速度: 23km/h
装甲: 浸炭硬化装甲、最大53mm
固定武装: フィッシュベイトMk.3 対潜迫撃砲システムx1
バッキンガム 7.7mm水冷機関銃x1 (胸部)
携行武装: ソールズベリー・ブルテリア 1ポンド機関砲x1
乗員: 3名




