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5話


 週末の金曜日、美桜は渚珠に連絡をとった。


「あの……、今夜ってお時間ありますか?」

『うん。大丈夫だよ。うーんと、そうだなぁ、わたしのお部屋においでよ。もちろん普段着で大丈夫だからね』


 言われたとおり、ホテルに向かうと、渚珠がフロントで待っていてくれた。


「すみません。突然のことなのに……」

「ううん。わたしも気持ち分かるから。お夕飯まだだよね? お部屋に頼んじゃおうか」


 部屋に入って、渚珠はルームサービスでの食事を頼んでくれた。


 その心遣いに美桜は感謝した。きっと、これからの話題は外ではできないと思っているからだ。


 食事をしながらの雑談のあと、美桜はこの数日で聞きたかったことを切り出した。


「あの……、渚珠さんはルナ出身でしたよね。一人でアクトピアに行って、所長さんになるって決まったとき、どうだったのかなって……」

「うーん、緊張したなぁ。でも、わたしの場合は参考にならないかもなぁ」


「反対とか、賛成とか無かったんですか?」

「うん。驚かれたけど、反対は無かったよ。自分で決めたから。ここしか自分の行ける場所は無いんだって分かってたからね」


 渚珠の話は美桜にはショックの連続だった。


 幼くして両親を亡くし、親戚に育てられたこと。学校を出たら一人立ちすることを運命付けられていた渚珠は、クラスメイトにも告げずに一人で訓練所に通い、資格を取ったと言う。そして、両親と同じ道に進むことを決めたということ。


「渚珠さんは……、そんな辛い思いをしてきたのに、なんでそんなに優しくて強いんですか……?」


 自分だったら、そんな境遇に置かれたら、きっと生きることを放棄してしまうかもしれない。

 渚珠のいたルナも、美桜のいるこのコロニーも、それは比較的簡単に出来てしまうのだから……。


「わたしはね、あんなぼろぼろだった私を、助けてくれた人たちに報告しなくちゃって。ちゃんと一人でも生きているよって。だから、この間の事故の後ね、お世話になっていたお家の部屋を完全に空けてきたんだ。もうわたしが帰る場所はないんだ」


「渚珠さん……」


 自分ももうすぐ、この故郷を追い出されてしまう。新しい場所で再出発をしなければならない。

 これまで、雲の上にいた目の前の女の子が、実はものすごく近い場所にいると感じた。


「本当はね、全員で美桜ちゃんに会いに来たかったんだ……。でも、それは出来なくて、美桜ちゃんの気持ちが一番わかるのはわたしだって、みんなが送り出してくれたの。生まれた場所を離れるって、本当に辛いよね」


 だから、凪紗が先に帰ったのか。きっとこんなふうに二人きりになる時間が来ると、渚珠は期限を設けずに待っていてくれたのだと。


「私は、みんなの役に立てるんでしょうか」


「もちろん。うちにはお医者さんいないから、そういう意味でもお願いしたいんだし……」


 少し顔を赤らめて、渚珠は美桜の手をとった。


「わたしもね、少しはお姉さんになれるかなって思って」


 私服に着替えてしまった渚珠は、まだ学生と言われてもおかしくないし、先日の写真を見たところで、全員が似たり寄ったりだ。


「あの……、一度見に行っても、いいですか?」


 もともと、行きたくて仕方なくなったのは間違いないし、この一週間、誰に相談をしてみても、これ以上の場所や条件はないだろうと言う。それならば、一度見に行ってから決断しても構わないのではないか。


「もちろん、それでいいと思うよぉ」


 その夜遅く、美桜は渚珠に同行することを伝えた。


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