3話
その日、美桜は家族を仕事に見送ったあとに一人で家を出た。
「いいお話があるといいね」
美桜が、一家で移住するテラ=フィールドではなく、住み慣れたこの地域で職を探すと言うことに、家族は少し心配な様子だったけれど反対はしなかった。
美桜も大人の仲間入りをした。自分で道を切り開いても、それは彼女の成長でもある。
今回の就職セミナーは各コロニー、ルナ=モジュール、アクトピアと各地からの求人が集まると言う。
なかなかはじめての場所で自分を発揮できない美桜にとって、自分用の働き口が見つかるかは分からなかったし、自信も持てないのが正直なところだった。
「すげぇ!」
「えー、すごい!」
「おぉ!」
受付を済ませて、渡された資料を抱えて座ろうとしていると、あちこちから驚きの声がしている。
何があったのかと思い、プログラムを開いてみると、美桜も思わず口を開きそうになった。
「ALICEって、あそこ……?」
どうやら、声が上がる原因はみんな同じだったようだ。
アクトピア自治所属のALICEポートと言えば、他に間違いようもないだろうが。まさか、本当にここに来るのだろうか。
セミナーが始まって、本日の説明を受ける。前には各ブースの担当者が並んだ。
「うわぁ……」
美桜も間違いなくそのため息の一人だった。
各担当者の年齢は様々だし、男女もバラバラだ。しかし、一画だけ飛び抜けているところがあった。
確か、所長の松木渚珠さん以下メンバーは全員が15歳。そして、たった四人だけの女性チーム。数だけなら最少だろう。
ところが、やることはどこにも負けていなかった。それどころか、どこも出来ないことをやって来た。
そう、先日の連絡船の遭難事故。絶体絶命と言われた中で、たった一人の発言がすべてをひっくり返した。
『全員を無事に到着させます』
どこの救助隊も手が出せない中、あの四人は全員無事到着という芸当をやってのけた。
その立役者が二人も目の前にいる。
「本気でやってきたのか。あの人が所長さんでしょ?」
ざわめきが収まらないなか、各ブースの紹介の中で、彼女たちの番になった。
『はじめまして。アクトピアのALICEポート、所長の松木です。是非、この中のどなたかと良いご縁があることを願っています。よろしくお願いします』
本気だ。どれだけ叩いても開かないという正式メンバーへの扉。きっと、枠は一人だろう。でも……。
美桜はこのとき、初めて意識した。
もし行けるなら、ここに行きたい。でも自分が選ばれることが出来るのか?
会場の中でフリーに動いて、興味があるところを見て回ることができる。
大方の予想通り、そのブースは大変なことになった。
制限がかかってしまい、なかなかそこにたどり着くことができなかった。
何故なら、聞くことは誰でもできるので、採用は女性という制限があっても彼女たちは男性の聴衆者も受け入れたからだ。
「ごめんなさい。たくさん持ってきたんだけど、紹介冊子が無くなってしまいました」
美桜がようやくブースに入ったとき、残念な声が伝わった。
それでも、二人は立体ホログラムなどを使って、丁寧に説明をしてくれた。
「私たちは、この中のどなたかと一緒に仕事ができると思っています。応募をしていただければ嬉しいです」
なんだろう、この日溜まりのような柔らかい雰囲気は……。
休憩時間もぽつんとブースに残って、パネルを見ていた美桜。
「こんにちは。興味ありますか?」
ふと、横から声がした。
「は、はい!」
あの事故の中、たった一人で全管制を引き継ぎ、史上最強の指揮官と呼ばれた広瀬凪紗。彼女だった。
「あ、あの……、新しいメンバーって、どんなお仕事になるんですか?」
「えっとね……、あれ? 山野美桜さん?」
彼女は美桜のネームプレートを見て驚いた。
「はい。そうですけど……」
「パンフレット貰えた?」
「いえ、私が行ったときにはもう切れてしまって……」
「ちょっと待ってて!」
あっけにとられている美桜を残して、凪紗が急いでブースの裏側に回った。
「よかった! 会えたよ。これ、所長があなたに渡してって。最後にスタッフの人に渡してもらおうと思ってたんだけど、直接のほうがいいもんね」
大切に封筒に入れられていたあのパンフレットと、小さな封筒だった。
席に戻った美桜は、大事に抱えてきた封筒の中身を見た。
彼女たちの写真を楽しそうに使った紹介冊子。そして、最後のページを捲ったとき、信じられない物が書いてあった。
周りにいる他の人に配られている冊子の最後のページに書かれていたのは、『ここに、あなたのページを一緒に作りませんか?』の印刷文字だ。しかし、美桜に渡されたそれは、サインペンによる手書きで直されていた。
『ここに、美桜さんのページを作ってください』
そして、さらに、この場にいない二人分も含めて四人のサインが書かれていた。
どう言うことなのか。これは誰にも見せるわけにいかない。
そして、もうひとつ、小さな封筒をあける。可愛らしいピンクのメッセージカードだった。
『このセミナーが終りましたら、会場の前で待っていてくださいませんか? 松木渚珠』
美桜は両手の震えが止まらなくなった。




