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2話


渚珠なみちゃん、メール来てるよ』


「はぁい。ありがとぉ」


 宿泊客の夕食の用意をしていた松木渚珠まつきなみは、作業用のインカムで水沼凪紗みずぬまなぎさからの呼び出しを受けた。


「凪沙ちゃん開ける?」

『ううん。渚珠ちゃんのIDが必須になってる』

「わかったぁ。奏空そらちゃんちょっと外してもいい?」

「うん、大丈夫」


 一緒に作業をしていた奏空に声をかけて一度部屋に戻った。


「なんだろぉ……。え、移民局本部?」


 それまでの空気が変わり、渚珠の顔が引き締まる。しかも、IDカードによる彼女の認証を取らなければ開封も出来ない。


 手続きを終えて、メールを開いた。


「えっ……。ホントに……?」


 内容を読んだ渚珠の顔に緊張が走る。


「凪沙ちゃん……、ちょっといい?」


 再び、ホログラムモニターで凪紗を呼び出す。


『ど、どうしたの?』


 あまりにも真剣な顔つきの渚珠に、凪紗の方が慌てた。


「んと……」

『分かった、とにかくすぐに行くよ』


 モニターが消えて3分後、凪紗が走り込んできた。


「どんなのが来たの?」


 彼女のこんな様子の原因がさっきのメールにあったことは間違いようもない。


「こ、これ……」


 まだ開きっぱなしになっていた画面を読んでみる。


「これホント?」

「こんなメールで、ロックつきにしてまで嘘はないと思うよ」

「そう言えば、渚珠ちゃんが見つかったときもこんな感じだった」


 そう、渚珠が応募したときにも、同様のメールが凪紗に送られていた。





 宿泊客の食事が終わったあとの、渚珠たちスタッフの食事の時間。


 二人は広瀬奏空ひろせそら河嶋弥咲かわしまみさきにも届いたメールの話をした。


「本当に?」

「ついに見つかったか」


「そうなんだよぉ。しかもお医者さんだから、完璧な話でねぇ」


 取り急ぎ、いま分かっていることは、今年ミドルスクールを出ていることから、同じ15歳の女の子であること。正式に医師として登録されていることなどだ。


「近く、共通試験合格者向けに合同説明会があるらしくて、そこに来るみたい。最初にコンタクトするならそこしかないかなって話してたとこ」


「ねぇ……、あの条件は大丈夫なの?」


 奏空の視線の先には、額に丁寧に入れられた1枚の写真がある。そして、その隅には200年前の日付が添付されていた。


 このALICEポート、初代の発足の日に撮された五人の女性たち。彼女たちが託した願いを今の渚珠たちは受け継いでいる。


 そう、ここに今揃っている四人は、全員がこの写真のメンバーの子孫だ。彼女たちの遺言とも言える、このALICEポートの再建計画において、再起動のメンバーは、この想いが受け継がれた人材であることが条件となっている。

 つまり、新規メンバーになるためには、この運命的な条件を突破しなければならない。


 全員が渚珠の顔を見た。もし違うなら、せっかくの話も進むことが出来ない。


「…………、うん。クリアしてるよ」


 彼女も、真っ先にそれを確認した。もちろん、そんなことが分かっていない移民局ではない。

 渚珠に連絡を入れる前、すでにその調査は終わっていた。


「……お祝いだな!」


「あの部屋もう一度掃除しておかないと」


 既に四人の気持ちは固まっていた。あとは、本人の希望にそえるかどうかの部分だ。




 深夜、一人の影が滑走路の横を歩いていた。


 小さな地下に降りる階段の扉の前に立ち、迷うこともなく入っていく。

 地下のその部屋に明かりが点った。


 渚珠だった。普段の散歩の時の私服ではなく制服で、しかもスカートの丈が長い礼服の方だ。


千景ちかげさん、ご報告があります」


 渚珠は一つの棺の前に両膝をついた。


「お待たせしました。千景さんの意思を受け継げる方が見付かりました。今度、お会いしてきます」


 この部屋には、ダイニングに飾ってあった初代ALICEポートのメンバー五人が眠っている。彼女たちの意思を受け継げる者を再集結させること、それが200年もの時を越えた渚珠たちの2代目チームに与えられている隠されたミッションでもある。

 渚珠がここにやって来た当初、なぜ自分なのかが不思議でたまらなかったが、初代メンバーが自分たちに託した、もはや遺言とも言えるメッセージを受け取ってここにいる。


「渚珠ちゃん」

「凪沙ちゃん……」


 いつの間にか凪紗が部屋に降りてきていた。


「私が渚珠ちゃんのことを知ったときは、まだこの五人を知らなかったからね。計画書にはそこまで書いてなかったし」

「ねぇ、凪沙ちゃん。一緒に行ってくれる?」


 渚珠一人では、さすがにこの重責は支えられるものではなさそうだった。


「言われなくても、一緒に行くつもりだったよ」

「ありがとぉ……。情けないなぁ……」

「みんな同じだって。朱里あかりさんが笑ってるよきっと」


 さっきの反応を見ると、他の二人もメンバーが増えることは概ね歓迎しているようだ。


 あとは、どうしてもある相性というものがある。こればかりは実際に会ってみなければ分からない。


「まぁ、大変だろうね。公開採用セミナーなんてねぇ」


 二人は地下室を出て、保安灯だけになった滑走路を歩いた。


「とりあえず、資料作りからだねぇ」



 その次の日から、各自が空いた時間を使って、紹介資料を作り始めた。


 全体の概要などを作ってから、はてと思う。業務内容から書くよりも、メンバーの紹介ページから担当業務を書く方が遥かに進みがいい。


「これじゃぁグラビア冊子だよぉ」


 奏空が言うのもよく分かる。みんなで持ち寄ってみたところ……、


「うちの仕事を文字で書いても難しいよねぇ……」

「いっそのこと、みんな写真にしちゃえ!」


 とばかりに、作業内容のイメージ写真に説明を入れていったおかげだ。


 それぞれが写真を撮りあったので、各自最初のプロフイール写真の時と違い、オフショットのような自然なものばかりになった。


「まぁ、うちは少数精鋭だから、ここに入ると頑張ってね!ってことで?」


 その冊子の最後には、わざと空白のページを入れた。


『ここに、あなたのページを一緒に作りませんか?』


 見開きに一行のメッセージ。



 後に、この冊子は大変なことになるのだが……。



「じゃあ、行ってくるよ」

「いい報告待ってるからね。留守は任せて」

「うん。やっぱ電子ファイルにすればよかったかぁ」


 二人とも、自分たちの荷物の他に例の冊子の箱をキャリアに載せていた。


「これ、サンプル持っていったら大変だったよ?」


 奏空も笑っていた。この時代にしては珍しく、印刷した冊子としたことで、色刷りなどを届けてもらったとき、テーブルの上に広げてあったそれを是非欲しいと言われて大変だったのだ。


「無くなっちゃえば帰り楽だけどなぁ」

「余ったら悲しいかも」


 今回も高速船を使った旅だ。違うのは一度軌道ステーションでL1コロニー行きの船に乗り換える。


「さぁて、着くまでゆっくりしよ」

「そうだねー。スペースコロニーは初めてだなぁ」

「渚珠ちゃんも?」


 本当は大仕事のはずなのに、二人にとっては遠足のようだった。


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