第五十五話 - 全てを引き込む、やさしさの渦。
剣を持つ衛兵たちが見守る、精一杯の装飾をした
緑のカーペットの特別室。
この部屋にいると、思い出す。
ここで会話した…ファンノッテさんの事。
でも今目の前にいるのは…
祈るのを止めて、前を向いた。
…カロルガーランドさん。
目を合わせると不器用に笑ってくれた。
やっぱり随分、優しい表情…
黙って観察し合っていると、
背後で きっ、って扉の開く音
「失礼します、1か月の売上纏めを持ってまいりました。」
紫苑さんが、緑の服と帽子をかぶって
机に紙をそっと置き、ガーランドさんに寄せた。
「ありがとう。」
ふと隣を見るとベラーゼ君がむずむずしてる。
背中を押してあげたら、ピンと背を伸ばして話し出した。
「書記役が差し出がましいかもしれませんが
これからどうなされるのですか?
外は今、とても大変なことになっています。」
ガーランドさんは一度紙を置いて、頷いた。
「貴族達に協力を仰ぐつもりだ。
当然それなりに対価を請求されるだろう。
しかし、話をせずに協力依頼しませんでは
彼らが心を開く機会もあるまい。」
へへ、そうだね。
「…しかし、この辺りの治世には、詳しく無くてな。
誰かレン以外の、頼りになる貴族はいないものか…
そう思っているよ。」
あ~~!いいこと思いついちゃった!
「ノスタリア家の、ファンノッテという貴族はどうでしょう。
一癖ありますが、貴方の様に対話を重視する方には
きっと心を開いてくれるかと。
対等に話せる人間を探しているようですから、
機嫌を見て踏み込んでみると良いかもしれません。」
口を開いて、考えるガーランドさん。
8割ほんとで、2割期待。
わくわく、どんな反応するかな。
「話したことは、あるのかい?」
「あります、2回目は彼女から来てくれたんですよ?」
それを聞いて、カロルさんも頷いた。
「それに、意外とお茶目さんなんですよ?
一見すると、すごく冷たく見えますけど…
頭が良すぎて、冷めて世の中を見ているだけなんです。」
「君がそこまで言うなら、いい人なんだろう。
まずはそこに行ってみよう。」
よし、私からの誘導…意味わかってるよね?
ファンノッテ様…
「ありがとうございます。
ベラーゼ君、つい思い付きで割り込んでごめんね。
ところで、この箱は…レン様に
お渡しすればよろしいのですか?
次に会う、その時に…」
私の背中も、ベラーゼ君に押されたから
箱について聞いてみた。
「その箱は、空けても構わないとレンは言っていたよ。
いや、むしろ開けたほうが、忘れなくてよいかもしれない。
箱を間違えるかもしれぬからな!
空けたほうがいいだろう!
はっはっは。」
そんな、ものかな?
でも盗まれたりした時のために、
中身を見ておいた方が…いいのかも。
「分かりました。」
「この箱の中のものは、手で持ったりしても問題ありませんか?
もちろん勇者レン様には
責任もってギルド一同お届けします。」
そんな私の隣から、またベラーゼ君の声…
踏み出せたみたいだね。
私よりちょっと、頭いいのが悔しい。
「ああ、触れても構わないものさ。」
「中身、ご存じのようですが
分かりました。お任せを、ね、日葵さん。」
視線がこちらに向いた。微笑ましそうだ、
これならいつも通りでいいや。
「うん、ベラーゼ君。
お任せ下さい。
この私、建内日葵が…」
命を掛けてなんて言ったら最悪だって直前で気が付いた。
「…とびきりのやさしさでお届けします。」
ぐるしい、言葉の変更。
少し断りを入れて、言い直すべきだった。
「あんまりとびきりすぎないようにね。」
うぐ…!
「それでは、名残惜しいが時間も少ない。
さらばだ、また来ることもあるだろう。」
…また来るの!?
一瞬驚いたけど、ギルドを気に入ってくれて
良かった…国家級の依頼、こないかなぁ??
ベラーゼ君に突かれて、慌てて頭を下げた。
出口までついていこうとしたら
衛兵さんに無言の手で止められた
だからせめて、足音が去るまで…丁寧に頭を下げた。
兵士さん達も消えた後に、
ベラーゼ君は私に箱を手渡した。
「これ、もしかしないですよね?
名誉貴族の勲章とか、手紙入ってるとか。
明らかに意図して持ってきていました。」
そうだったかな?
疑問に思うと、いきなり箱の中から声がした。
「久しぶりだな、日葵!」
箱をゴツゴツした土の腕が突き破り、自ら蓋を開ける。
そこには、金の腕輪に付いた、緑の宝珠…
土の宝珠!?ポロトンさん!?????
「何か仕掛けるんだって?
久しぶりに暴れるから、話すんだ!
協力するつもりだ、レンタルで。」
うそ、また話せるの!?
「分かりました、それと…
これもレンタルしてるんです!」
風の宝珠を突き合わせると嬉しそうに宝珠が震えた。
「こんなに早い再会は何度目だろうか。」
「よろしく、マーレン。」
懐かしい、懐かしい!
あと数日だけ、いっぱい話そう…!
「こちらは、ギルドの同僚の
冷静沈着な頭脳…ベラーゼ君です!
ほら、ベラーゼ君?」
固まっていた彼に声を掛けると
きごちなくテーブルに宝珠を置いて、頭を下げた。
「彼女を守ってあげてください。
数日でも、本当に助かります。
よろしくお願いいたします。」
…りちぎだなぁ…。
「もちろんだ。
何か陶器は要らないか?
今力が有り余ってるんだ。
むしろ作らせてくれ!」
…そうなの?てっきり…
「毎日祈りを捧げてもらってるんですか?」
ポロトンさんは手を振って、そして
…取っ手の付いた、茶色の花瓶がいつの間にか出来ていた。
ふふ!みっつの穴…顔が出来てる!
でも水は少ししか、入らなそうな不思議な花瓶だ。
「フラリスの奴と、23%の向日葵の祈りの譲渡契約を結んだんだ。
戦争が終わったら、辞める契約のやつだ。
でも奴は、解除し忘れていたんだ。
エネルギーが膨大過ぎるんだろう…今も吸っているその中から…」
まってまって!まって!
「フラリスさん生きてるの!?」
ベラーゼ君も、驚きで息を吸う。
フラリスさんについて、散々愚痴を言い合ってきたから。
「…よくわからないが、状況的に
生きているという事だ。」
フラリスさん…へへへ…なら
もう一人の私の所かな?
生きててよかった!
「良かったな、日葵。」
「本当、良かった。
日葵さん。」
うん!
「大人になって、お互い違う自分になったら
また会いに行こう、胡散臭い、あの精霊に。」
ニヤニヤして、どうしても胸がポカポカする。
土の宝珠の腕輪を
ポロトンさんの進めるままに、太ももの上あたりに付けた。
からくりで、少しサイズ調整が出来るみたい。
4つのスロットがあったので、有難く風の宝珠も入れた
…4つなんて、入れる日はあるんだろうか?
火、そうだね。
多分ないよね、フレアスヘルさんはずっと南限だから。
一応他にも、宝珠はあるらしいけど…歴史から消えたみたい。
…そんな不思議な対話を終えて、
私はガーランドさん立派だったとか話をしながら
特別応接室を出た。
二つの宝珠が借りられたこの一瞬。スノル君に早く、見せてあげないとね!




